電気電子系 News
ナノ量子フォトニクス
電気電子系では、最先端の研究施設と各分野で活躍中の教員の直接指導により、学生でも世界に誇れる研究成果を出し、自分自身で発表することができます。電気電子系には、大きく分けると「回路」「波動・光および通信」「デバイス」「材料・物性」「電力・エネルギー」の5つのグループがあります。各教員はいずれかのグループに所属しており、研究室単位での研究が行われています。
研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、ナノ空間でデザインした光を使って原子を操る、伊藤治彦研究室です。
波動・光および通信グループ
電気電子コース
研究室:すずかけ台キャンパス・G2棟1111号室
准教授 伊藤治彦
研究分野 | アトムフォトニクス、ナノフォトニクス、量子エレクトロニクス |
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キーワード | 原子操作、ナノ光相互作用、原子・スピン機能素子、レーザー冷却、近接場光 |
Webサイト | 伊藤治彦研究室 |
情報処理システムの高機能集積化が進み、ナノメートルを超えて原子スケールへのダウンサイジングが必要となってきました。究極的には1個の原子で構成される素子に行き着きます。こうした極小の世界では従来の電子・光デバイスの動作原理が破綻し、量子力学や近接場光学に則った原理で動作させなければなりません。本研究室では、レーザー冷却技術とナノ寸法の局所的な光の場である近接場光を用いて原子を個別選択的に制御し、原子の量子性やスピンを機能化したデバイスおよび近接場光の特性を生かしたナノ光相互作用で動作するデバイスの開発に取り組んでいます。レーザー光に代わる次世代の光技術の担い手と期待されるナノの光で科学の未来を描きます。
原子を個別的に制御する空間を、ナノの光で創りだします。例えば、図1のように、8個の格子点に配置した近接場光によって原子を力学的に閉じ込めます。これまでに、シリコン基板を微細加工して、中央に原子捕獲用のナノスペースを有する十字構造体を作製しています。図2に断面を示します。下方からレーザー光を照射すると、斜面部のAu層に沿って表面プラズモン-ポラリトン(SPP)が伝播し、境界端面で近接場光が発生する仕組みです。原子の量子性を機能化する素子の端緒として、量子ジャンプによって超高速動作する光子ゲートなどへ応用します。
ナノ光トラップに原子を送り込んだり、原子レベルでナノ構造をつくるのに用いる近接場光レンズの開発を行います。シリコン微細加工によって作製した中空逆ピラミッド構造の底面微小開口の周囲に近接場光を誘起し、入射原子を双極子斥力によって収束して出力します。レーザー冷却原子を用いると、数ナノメートルのスポットに集められることを数値シミュレーションによって確かめています。このデバイスでは、ド・ブロイ波のスクイージングという新しいコンセプトを用いるのが特徴です。図3にフォーカシングの様子を示します。
回折限界を超えて超高密度光記録を行うために近接場光を利用します。1nm2以上の面密度で記録できるならば、人間の脳の容量に匹敵するといわれる1Pb/in2ストレージの実現も夢ではありません。そのための記録素子として、少数個の原子で構成したスピンクラスターの形成に取り組んでいます。レーザ冷却したアルカリ金属原子を光ポンピング法によってスピン偏極し、相互作用しにくい希ガス原子をコートした基板上で自己組織化します。クラスター化に必要な多体衝突を起こさせるために、図4に示すエバネッセント光ファネルを用いて入射原子の高密度化を行います。図5は、密度汎関数理論を用いて計算した87Rb4クラスターのスピン1重項状態・3重項状態・5重項状態(立体)の形状です。近接場光で1重項-3重項変化を起こす方法を開発します。
近接場光の発生は、物質形状に強く依存します。ナノスリットでは、端部に誘起された電気双極子モーメントによって二重ピークの強度分布が得られるはずですが、急峻でないと明瞭さが失われます。このような幾何学的な性質をシミュレーションと実験の両面から調べ、近接場光に所期の機能をもたせるにはどうすればよいかを探求します。そして、ナノスリット構造に誘起した近接場光による原子の高精度偏向(図6)や高空間分解検出(図6)などへ応用します。また、ナノ光解析に適した高速シミュレーション技法を開発します。
電気電子系の全研究室を紹介したパンフレットは広報誌ページでご覧いただけます。
准教授 伊藤治彦
E-mail : ito@ep.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5459
※この内容は2016年3月発行の電気電子系パンフレットによります。最新の研究内容については各研究室にお問合せください。