生命理工学系 News
東京工業大学は6月16日、第22回となる2023年度挑戦的研究賞の受賞者10人を発表しました。うち3人は、末松特別賞にも選ばれました。授賞式は8月31日に行われました。
挑戦的研究賞は、東工大の若手教員の挑戦的研究の奨励を目的として、世界最先端の研究推進、未踏の分野の開拓、萌芽的研究の革新的展開または解決が困難とされている重要課題の追求等に果敢に挑戦している独創性豊かな新進気鋭の研究者を表彰します。受賞者には、支援研究費を贈ります。40歳未満の准教授、講師又は助教が対象です。これまで本賞を受賞した研究者からは、多くの文部科学大臣表彰の受賞者が生まれています。
挑戦的研究賞受賞者のうち特別に優れている研究者には「末松特別賞」を贈っています。
末松特別賞は、元学長の末松安晴栄誉教授による若手研究者支援への思いを継承し設けられた「末松基金」による顕彰です。
末松基金は、末松栄誉教授が2014年、日本国際賞を受賞した際、賞金の一部を東工大に寄附し、東工大が若手の研究活動を奨励するため設立しました。多様な分野で、未開拓な科学・技術システムの発展を予知・研究し、隠れた未来を現実の社会に引き寄せる研究活動を奨励するため、若手研究者を中心に支援しています。
研究課題名:量子多体トンネル現象を記述する微視的理論の開発
研究課題名:一次元モアレ超格子における量子輸送・光機能の開拓
研究課題名:P-S-Fe循環を考慮した海洋貧酸素化のティッピングポイント特定
研究課題名:格子振動由来の負熱膨張性の統一的機構の解明
研究課題名:理論と実験の協奏による有機光反応の開拓
研究課題名:曖昧な仕様を保証するための型付きプログラミング言語の開発
研究課題名:ゲノム光酸化法の開発と酸化損傷塩基によるエピジェネティクスの理解
研究課題名:全脳分子神経イメージングに資する磁性プローブの開発
研究課題名:乾電池1本という超低電圧で光る青色有機ELの開発
研究課題名:金属を支持体とする次世代型固体酸化物リバーシブルセルの開発
このたびは、栄誉ある東工大挑戦的研究賞および末松特別賞をいただき大変光栄に存じます。田中健教授(物質理工学院 応用科学系)をはじめ多くの共同研究者の先生方、研究室の学生の皆さまにこの場を借りて深く御礼申し上げます。
有機光反応は、自然に存在する光エネルギーを利用して分子の励起状態(光励起種)を作り出すことで、従来の熱反応では困難な分子変換を実現できます。特に近年のLEDランプの普及に伴い、簡便な装置で実験できるようになったため、次世代の合成化学を拓(ひら)く新しい分子変換プロセスとして注目を集めています。しかし、その合理的な設計はまだまだ難しく、実験化学者の経験に基づく試行錯誤に頼っており、多様な反応を開拓する際のボトルネックになっておりました。本研究では理論計算と実験化学の融合的アプローチによって、この困難を克服し、多様な元素の光励起種を発生・制御・利用するための新たな手法を確立することを目的としています。それにより、これまでアクセス困難だった多様な有機化合物を生み出せると期待されます。
このたびは、栄誉ある東工大挑戦的研究賞および末松特別賞をたまわりましたことを、光栄に存じます。研究を支えていただいた、中村浩之教授(科学技術創成研究院 化学生命科学研究所)をはじめ、研究室の先生方、スタッフ、学生の皆様、共同研究の先生方には、この場を借りて心より感謝申し上げます。
我々の心や行動の根幹をなす脳の機能は、およそ1,000億もの神経細胞によって形成される神経回路によって、高度に統合されています。脳は、神経細胞から放出される神経伝達物質を使い分けることで、情報伝達を整理していますが、同じ神経伝達物質であっても、回路によって全く異なった機能を発現することが知られています。したがって、脳の機能を明らかにするには、個々の神経細胞の活動を観察するのみならず、神経回路が形成された状態、すなわち全脳で神経伝達物質の動態を観察する必要があります。本研究では、画像診断法であるMRIの造影剤を、神経伝達物質に応じてMRIコントラストが変わるように設計・合成します。合成した造影剤を分子プローブとして用いることで、全脳レベルで神経伝達物質の動態を可視化する神経イメージング法の開発を目指します。
このたびは、栄誉ある東工大挑戦的研究賞および末松特別賞をいただき大変光栄に思います。これまでご指導いただきました先生方、共同研究でお世話になった先生方、職員の皆様方、また研究に携わってくれた学生さんなど多くの方々に厚く御礼申し上げます。
私は電気を流す有機物、つまり有機半導体を用いた光・電子デバイスである有機太陽電池や有機ELの研究を行っています。特に、有機ELはテレビやスマートフォンの画面など日常生活で既に使われています。しかし、有機ELは青色を発光させるために大きな電圧が必要という問題を抱えています。本研究では、独自に見出したアップコンバージョンという光の変換過程を使うことによって、有機ELで青色を発光させるための電圧を大幅に低減することを目指しています。その結果、省エネルギーな有機ELディスプレイや照明を開発し、社会に貢献したいと考えています。この新たな原理の発光は、私が元々研究していた有機太陽電池の発電原理から着想を得ました。今後もさまざまな分野の方々との交流を大切にして、さらに研究を発展させていきたいと思います。
このイベントは東工大基金によりサポートされています。