生命理工学系 News
東京工業大学は6月18日、第20回となる2021年度挑戦的研究賞の受賞者10名を発表しました。うち3名は、末松特別賞にも選ばれました。
授賞式は7月28日、オンラインのビデオ会議システムで行われました。
挑戦的研究賞は、本学の若手教員の挑戦的研究の奨励を目的として、世界最先端の研究推進、未踏の分野の開拓、萌芽的研究の革新的展開または解決が困難とされている重要課題の追求等に果敢に挑戦している独創性豊かな新進気鋭の研究者を表彰します。受賞者には、支援研究費を贈ります。40歳未満の准教授、講師又は助教が対象です。これまで本賞を受賞した研究者からは、多くの文部科学大臣表彰受賞者が生まれています。
挑戦的研究賞受賞者のうち特別に優れている研究者には「学長特別賞」を贈っていましたが、2019年度から「末松特別賞」を贈っています。
今回は理学院物理学系の打田正輝准教授、生命理工学院生命理工学系の星野歩子准教授(生命理工学コース主担当)、科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の田原正樹准教授の3名が選ばれました。
「末松特別賞」は、元学長の末松安晴栄誉教授による若手研究者支援への思いを継承し設けられた「末松基金」による顕彰です。「末松基金」は、末松栄誉教授が2014年、日本国際賞を受賞した際、賞金の一部を東工大に寄附し、東工大が若手の研究活動を奨励するため設立しました。多様な分野で、未開拓な科学・技術システムの発展を予知・研究し、隠れた未来を現実の社会に引き寄せる研究活動を奨励するため、若手研究者を中心に支援しています。
受賞者 | 所属 主担当系または担当研究所 |
職名 | 研究課題名( * は末松特別賞受賞者) |
---|---|---|---|
准教授 | * カイラルゼロモードに基づく新奇量子輸送の学理構築 | ||
助教 | 構造科学に基づく新規イオン伝導体の探索 | ||
准教授 | 燃焼振動遷移特性に基づくプラズマ利用乱流燃焼器の開発 | ||
助教 | 超伝導スピンバルブ・ジョセフソン接合の創成 | ||
助教 | 薬剤徐放のための高感度音応答性マイクロデバイスの開発 | ||
助教 | 二次元界面を基軸とするナノ折り紙の開拓 | ||
星野歩子 |
准教授 | * 母由来エクソソームがもたらす胎仔脳発育機構の解析 | |
助教 | WSe2 FETを用いた電源電圧0.5V動作の高ゲインCMOSインバータ | ||
准教授 | * 形状記憶合金の応力誘起相変態に関する研究 | ||
野本貴大 |
助教 | アミノ酸トランスポーターを利用した革新的薬物送達技術の創成と生体内微小環境に影響する因子の解析 |
我々は、独自の成膜技術を開発することで非常に高い結晶性をもつトポロジカル半金属の薄膜作製に成功し、その量子輸送研究の道を切り拓いてきました。特に、トポロジカル半金属薄膜における表面伝導とその量子ホール状態の観測に初めて成功し、さらに、最近の電界効果の実験によって、この表面量子ホール状態が薄膜の表(おもて)面と裏面がつながった形で実現していることを明らかにしてきました。これは、「カイラルゼロモード」と呼ばれるトポロジカル半金属特有の全く新しい電子構造を用いて、空間的に離れた2つの表面軌道状態が結合していることを意味しており、今後の研究により、三次元面直方向への新たな非散逸伝導や、空間的に離れた2つの面における新たな量子相関現象の実証等が期待されます。
最後に、この度、栄誉ある賞を賜りまして大変光栄に感じております。これまでご指導下さった先生、共同研究者、学生の皆様に厚く御礼申し上げますとともに、若手研究者に対する本学の多大なご支援に深く感謝致します。
エクソソームは全ての細胞が産生する微小胞で、元々は細胞のゴミ処理機構と認識されていたものが、近年、新たな細胞間コミュニケーションツールとして着目されています。これまで我々は、がんの転移機構にがん細胞由来のエクソソームが関与すること、および血漿中エクソソームを用いたがんの診断やがん種の特定が可能であることを報告してきました。そして現在は、がんだけでなく、自閉症やアルツハイマー病など脳神経変性疾患や妊娠合併症などの病態に応じてエクソソーム情報がどう変化するのか、そしてそれが疾患の進行にどう関わるのかについても検討中です。今回受賞対象となった研究では、エクソソームが母胎間連関を行い、母由来のエクソソームが胎児の脳発育へ影響を与え得ることを証明し、そしてその機構を解明することを目指しています。
この度は、栄誉ある東工大挑戦的研究賞および末松特別賞をいただき大変光栄に存じます。近藤先生をはじめ、日頃から私の研究生活を支えてくださっている多くの先生方や研究室の皆さんに、この場をお借りして心より感謝申し上げます。
この度、名誉ある賞を賜りまして大変光栄に存じます。細田秀樹教授、稲邑朋也教授をはじめ多くの共同研究者の先生方と研究室スタッフ、学生の皆様にこの場を借りて深く御礼申し上げます。
形状記憶合金は我が国で大きく発展した機能性金属材料です。弾性限界を超える大きなひずみを加えても、元の形に戻ることができるという特性を生かし、様々な用途に用いられています。近年は既存のTi-Ni合金の高性能化に加え、医療用・高温用・制振用など特定用途に特化した新合金の開発が世界的に活発化するなど、金属材料分野においてより一層の注目を集めております。形状記憶合金のユニークな力学的機能性はマルテンサイト変態と呼ばれる無拡散構造相変態によってもたらされます。特に外部応力によって誘起されるマルテンサイト変態は形状記憶合金の機能性の中核を担っていますが、その基礎的理解は十分とは言えません。本研究では様々なその場測定技術を組み合わせて、形状記憶合金の応力誘起相変態挙動を明らかにし、基礎的知見の確立を目指します。
このイベントは東工大基金によりサポートされています。