生命理工学系 News
令和3年度第1回(通算第86回)蔵前ゼミ印象記
2021年4月30日、ZOOM遠隔講義にて、令和3年度第1回蔵前ゼミ(通算第86回)が開催されました。
蔵前ゼミは同窓生による学生・教職員のための講演会です。日本社会や経済をリードしている先輩が、これから社会に出る大学院生に熱いメッセージを送ります。卒業後の進路は?実社会が期待する技術者像は?
卒業後成功する技術者・研究者とは?など、就職活動(就活)とその後の人生の糧になります。
当日の印象記を、博物館の広瀬茂久特命教授が綴りました。その一部をご紹介します。
祖母が見せてくれた一枚の切り抜きが宮下さんの将来を決めた。わずか4歳の時のことだ。その(おそらく雑誌からの)切り抜きには宇宙から見た地球が写っていた。自由のびのびと育っていた直己坊やだったが、好奇心は旺盛で『宇宙』に一目ぼれしてしまったのだ。宮下さんは長野県の農村で育った。星空がとても綺麗だったそうだから、『宇宙』は宮下少年の心の中で膨張を続けたのだろう;「将来は宇宙飛行士になりたい」と思うようになった。片田舎で塾に通う習慣もなかったので勉強は学校中心で、家に帰れば農作業の手伝いに追われた。農閑期にはサイクリングを楽しんだというから、精神と肉体を「宇宙飛行士仕様」に鍛えるには理想的な環境だった。中学を終える頃になると宇宙の夢をかなえるには『大学進学』も必要ではないかと思い始めたが、学力には自信がなかった。ところが、高校1年の最初の実力試験で、思いのほかの好成績をおさめることができ、「塾に頼らない独学でも、大学には入れる!」と やる気スイッチが入った。不思議な巡り会わせで、丁度この頃、本学に「機械宇宙学科」ができている。本学に入ってからは猛烈に勉強し、大学院では研究室に泊まり込み、月に2~3回しか下宿に帰らないほど研究に熱中した。この頃になると目指す職業は“宇宙飛行士”から“NASAかJAXAの技術者”へと変わりつつあった。
卒業研究で研究室に所属した頃に、これもタイミングよく超小型衛星(10 cm立方、1 kg以内; 名称はCUTE-I、一般名はCubeSat)を作るという国際的な学生コンペが始まり、参戦することになった。仲間と一緒に3年がかりで作り上げた手のひらに乗るような衛星がロシアの宇宙基地から打ち上げられ、軌道に乗って、無事地上に電波を送り届けてきたときは、「体中の細胞という細胞が興奮している」感じを味わったそうだ。これもチャンスを与えてくれた大学のお陰と感謝するとともに、何の迷いもなく博士課程に進学し、研究の傍ら第二のCubeSat(Cute-1.7 + APD)を成功させた。学生が、しかもそんな小さな箱の中に衛星に必要な種々の機器を詰め込めるはずがないという風潮の中、世界初の快挙を成し遂げた経験は宮下さんを大きく成長させ、起業を決心させた。2008年にCubeSat仲間3人で創業したアクセルスペース(Axelspace)社は、今や国際色豊かな大所帯(20ヵ国 総勢90人)となり、超小型衛星で私たちの暮らしを便利で持続性のあるものに変えてくれている。
印象記の続きは以下のPDFよりご覧ください。
蔵前工業会は東工大の同窓会で、各地に支部があります。神奈川県支部もその一つで、この蔵前ゼミの世話をはじめとして活発に活動しています。学生の皆さんには就職活動の支援、卒業生には同窓の仲間を中心とする異業種間交流の場の提供などを行っています。すでに学生会員の方も多いかと思いますが、東工大卒としての力強いパイプを持てますので、未加入の人は会員になって積極的に利用してください。
私は蔵前工業会の神奈川県支部長であると同時に、東工大の監事として大学の動きを注視する役割も担っています。東工大では、リベラルアーツや社会人を講師に招いた講義にも力を入れ、受講生の皆さんには、専門知識のみならず「質問力」や「説得力」をも身に付け、そしてそれらの総体ともいうべき「人間力」に磨きをかけて欲しいと願っています。
幅広い人間に育っていく過程で大事なのが、『気づき』ではないでしょうか。それは ある時ある瞬間に予期せぬ形で訪れます: 例えば「本の一節」、「先輩の一言」、電話でのたわいもない「会話やつぶやき」などに接して ふともたらされる たった1つの気づきによって、その後の人生が大きく変わることがあります。
今日のゼミでは 皆さん ビックリすると思います:「こんなことが日本のベンチャーに出来るのだ!」と。そして、気づきがあるかも知れません;将来、「あの時の気づきがあったからこそ、今の人生があるのだ」と振り返れるような。宮下さんの話をしっかり聞きましょう。
「企業社会論」では、蔵前工業会様のご支援によって「蔵前ゼミ」が4コマ組み込まれ、社会人である講師の先生方の貴重な経験に基づくお話を伺う機会を与えていただいております。コロナ禍以前は講義終了後に交流会が開かれ、講師の方々と歓談する場を設けていただき、就職や企業での働き方などについても本音の意見交換をさせて頂くことができました;コロナが終焉し交流会が早く復活することを願っています。学生の皆さんには、このようなご支援に感謝しつつ、先ほど小倉支部長からいただいた貴重なアドバイスを念頭において、本講義から多くを吸収して、将来に生かして欲しいと願っています。蔵前工業会様の皆様には引き続きご支援を頂きますようお願いいたします。
連休前に大変刺激的なお話を聞くことができて深謝申しあげます。学生にも大変良い刺激になったと思います。これからも出来る限りのお手伝いをさせて頂きますのでよろしくお願いします。
宮下様の熱い語りとそれに応えた学生たちのお蔭で、非常に密度の濃いゼミになったと思います。この勢いが続くように、微力ながら努力したいと思います。今後ともご支援、ご協力のほど宜しくお願い致します。