電気電子系 News
配線工程プロセス耐性を備えた高性能スピン注入源YPtBiの開発に成功
Pham研究室の白倉孝典さん(元博士課程3年、現特任助教)が第53回(2022年秋季)応用物理学会講演奨励賞を受賞しました。また、上智大学で開催された第70回応用物理学会春季学術講演会で講演奨励賞の記念講演を行いました。対象となった講演は”Efficient spin current source using a half-Heusler alloy topological semimetal with Back-End-of-Line compatibility”で、東工大とKIOXIAとの共同研究成果です。
今回の受賞は、高い熱耐久性と巨大なスピン流生成効率を併せ持つな新たなトポロジカル半金属YPtBiの開発に成功した業績が評価されました。スピン流は電子のスピン角運動量の流れであり、磁性体を利用したスピントロニクスデバイスの磁化を効率よく制御できることが知られています。既存のスピントロニクスデバイスでは、磁性体に電流を注入することでスピン流を生成していますが、その生成効率は60~70%程度と低く、磁化制御に必要な消費電力が大きいことが問題となっていました。近年、重金属等のスピン軌道相互作用の強い非磁性体に電流を注入した際に生じるスピンホール効果を利用することで、磁性体を用いる場合よりも高い変換効率が達成できることが明らかとなりました。特に、トポロジカル表面状態という材料表面に局在したディラック分散を持つトポロジカル絶縁体は、そのトポロジカル表面状態の持つ巨大な内因性機構(ベリー曲率)の寄与により、磁性体よりも1~2桁高いスピン流生成効率を達成可能です。しかし、そのような巨大なスピン流生成効率を達成可能なトポロジカル絶縁体は毒性元素の含有や低融点などの問題を抱えており、Si配線工程との親和性が低く量産プロセスに対して課題を抱えていました。
本研究では、毒性元素を含まず、高い熱耐久性を有する新しいトポロジカル材料であるYPtBiに着目し、スパッタリング法を用いて高品質な薄膜の作製に成功しました。YPtBi薄膜を用いてスピン流生成効率を表すスピンホール角を評価したところ、既存のトポロジカル絶縁体と同等である最大4.1という巨大な値を実現しました。また、強い垂直磁気異方性を持つCoPtとYPtBiのヘテロ接合を作製し、パルス電流を用いて磁化反転実験を行ったところ、重金属よりも1桁小さな電流密度である106A/cm2での磁化反転に成功しました。さらに、YPtBiの電気伝導率と膜厚を変えながらスピンホール角の変化を系統的に調査することで、YPtBiの巨大なスピンホール効果がそのトポロジカル表面状態に起因することを実験的に実証しました。