電気電子系 News
カーボンニュートラルに直流送電技術で挑む若き研究者の語る研究のやりがい
電電HPサポーターズの上田です。
今回は、電力用半導体デバイス関連の研究を行っているパワーエレクトロニクス研究室に属しており、私自身が所属している研究室でもある佐野研究室を運営する佐野憲一朗助教に取材させていただきました。
佐野先生は現在テニュアトラック制度(公募によって選ばれた若手研究者が主宰者として研究を行い、研究者として自立できるよう支援する制度)を利用して研究室を運営されており、同時にパワエレ研の卒業生でもあります。そこで今回は、イメージしづらい研究者という職業について若手研究者の視点からお話を伺いました。
上田:佐野先生はテニュアトラック制度を利用して研究室を運営するなど、若手研究者として様々なことに積極的にチャレンジされていますが、研究者という職業を目指された時期と、その理由を教えてください。
佐野憲一朗助教(以下、佐野):もともと研究者になろうと思っていたわけではなく、電子工作が趣味で電子回路がなぜ動くのかを勉強したいと思ったので東工大に入学しました。東工大は学士1年では専門課程に所属しないのでまずは教養科目を受講することになったのですが、そこで受講した環境問題に関する講義で講師の先生から「環境問題に対して皆さんも何か行動してみてほしい」というようなことを言われたのですよね。そこで、NPOでの環境保全ボランティア活動に参加したりしていました。
学士2年から専門課程に所属することになるわけですが、「環境問題に対して自分の好きな電気を使って貢献したい」と考え、開発システム工学課程の電気コース(発展途上国の開発に貢献できる技術者の育成を目的とした課程、現在は環境・社会理工学院に再編)に所属しました。
学士3年では「電気で環境問題に貢献する」という夢をかなえるべく、再生可能エネルギーによる発電の研究をしていた七原研究室を志願したのですが、もう募集は行っていないとのことだったのでその隣にあった赤木・藤田研究室(現在のパワエレ研 藤田研究室)に行ったのですね。そうしたら先輩方が様々な装置に囲まれながら実験しているのを見て楽しそうだと感じたのでそこに所属することにしました。
修士2年になったとき、進学するか就職するか悩んだのですが…改めてなぜ博士に進学したのかと聞かれるとよくわからないのですが最後は指導教員の先生に勧められて博士に進学することにしました。この時もまだ大学教員になるとは思っていなかったのですが、やっぱり「ものづくり」に関わりたい、自由にものづくりをしたいという思いを具現化した結果が研究者という職業だったのかもしれないですね。
上田:現在は主にどのような研究をされていて、その研究によってどのような未来が創られると考えていますか。
佐野:現在は大容量の電力を、海を越えて輸送することのできる直流送電システムの研究を行っています。特に日本や東アジアの島国は外部から孤立した電力系統となっている場合が多いですが、この状況は出力の調整が難しい再エネを普及させるためには不利となってしまいます。そこで、直流送電システムによってより広い範囲で電力を融通できる環境を作り出すことで再エネの導入を促し、カーボンニュートラルな社会を創ることができると考えています。
上田:研究室を運営して大変だったことや印象に残っていることはありますか。
佐野:取り立てて大変だったことはないですが…
手間暇かけて指導し、成長した学生が2~3年で就職していなくなってしまうのが辛いところです。社会で活躍していくことを願って喜んで送り出してはいますが、先進諸国の中でもとりわけ日本は博士号取得者数が少ないのでもっと進学の魅力を高める工夫が必要だと考えています。
印象に残っていることとしては、相談に来た学生に助言をしたら翌朝には問題を解決して新たなデータを持ってきたのには驚きましたね。その時はむしろ自分が学生の勢いを妨げないように、研究の次の展開を準備することに必死でした。それ以外にも研究に目覚めた学生は私ではできないようなことをやってのけるのだと実感する場面は多々ありましたが、どうすれば研究の面白さに目覚めてくれるのかは教員として模索している点です。
上田:最後に、これから研究者を目指す学生に向けてのメッセージをいただけますか。
佐野:研究者は人類の課題に向き合い、より良い未来を創る職業であると改めて感じますね。前例やルールのような周りの「空気」に流されず、自分の頭で考えて行動し、人類をより良い未来に導く存在、それが研究者だと思います。
人類の課題を解決するのは当然困難なことで、全員におすすめできる職業ではないけれど、大きなやりがいを持って仕事をしたいという人にとっては目指す価値のある職業だと思います。
上田:本日はどうもありがとうございました。