生命理工学系 News
生命理工学系にはライフサイエンスとテクノロジーに関連した様々な研究室があり、基礎科学と工学分野の研究のみならず、医学や薬学、農学等、幅広い分野で最先端の研究が活発に展開されています。
研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、有機合成化学・ケミカルバイオロジーから脂質生命科学・創薬分野における未開拓領域に挑戦する、齋藤研究室です。

主担当 人間医療科学技術コース
副担当 生命理工学コース
准教授 齋藤 雄太朗![]()
| キーワード | 有機合成化学、脂質、第4の生命鎖 |
|---|---|
| WEBサイト | 齋藤研究室 |
私たちは、世界で最も精密な「ものづくり」と言われる有機合成化学を武器として、生命機能の解明や創出に取り組んでいます。特に、「脂質」の新しい化学合成技術を開発し、生命科学の未踏領域開拓に挑戦しています。「脂質」は、四大生体分子(核酸、ペプチド、糖、脂質)の中で最も炭素原子を豊富に含み、有機化学が得意とする分子群です。しかし、他の生体分子群に比べて、多様な分子種にアクセスできる有機合成法が乏しく、生命機能解明や創薬応用が大きく遅れています。言い換えれば、“脂質分野は有機合成化学で拓くことができる研究・創薬・医療応用の未踏領域が広大に存在する”ということです。私たちは、現代の有機合成化学に課された、この「ものづくり」の問題を解決し、「人に感謝される分子・技術・知識」を生み出すことを目指しています。
生命現象の中枢を担う鎖状分子を「生命鎖」と呼びます。通常、生命鎖は① DNA・RNA鎖(核酸)、② ペプチド鎖(タンパク質)、③ 糖鎖(糖類)の3つを指します。一方、核酸、タンパク質、糖類と並び「四大生体分子」に数えられる脂質にも、生命に欠かせない鎖状分子が存在します。それは、「脂肪酸鎖」です。脂肪酸には、まだ天然には発見されていない分子も含めると、理論的に数万種類以上の多様性が考えられます。さらに、脂質分子の多くは脂肪酸鎖を含むため、分子内にもつ脂肪酸鎖の組み合わせによって莫大な脂質多様性が生まれます。

生体脂肪酸は、基本的に直鎖状の炭化水素鎖をもち、炭素数、不飽和度、不飽和結合の位置や立体化学、官能基などの組み合わせによって数万種類以上の構造多様性が理論的に考えられます。この「部分構造の並び方」を「配列」と捉えると、脂肪酸鎖の機能は、従来の生命鎖(核酸、タンパク質、糖鎖)と同様に、高い多様性をもつ「配列」に支配されていると考えることができます。
一方、脂肪酸鎖配列と生命機能の関係は全くと言っていいほど明らかになっていません。例えば、生体脂肪酸として主要な長さである炭素数3〜22の脂肪酸について、二重結合の数・位置・立体化学(cis/trans)を考えた場合、理論的に考えられる配列の組み合わせは約6千6百万種類にも及びます。実際には、炭素数23以上の脂肪酸も存在し、水酸基などの官能基をもつものも存在するため、その配列多様性は天文学的な数字に上ります。この中で、現在存在が確認されているのは2千種類にも満たず、よく研究されている脂肪酸はわずか20〜30種類しかありません。すなわち、莫大な脂肪酸鎖配列の中で、その大部分が機能未知・未開拓であり、脂肪酸の化学空間は「生命機能の宝庫」であると期待されます。

当研究室では、この生命科学の未解決問題に対して、有機合成化学を武器に挑んでいます。「脂肪酸鎖配列と生命機能の多様性」を解明・理解するには、脂肪酸鎖を自在に構築する技術が不可欠です。しかし、従来はそのような方法がありませんでした。一方で、核酸、ペプチド、糖鎖の場合、「固相合成法」(1984年ノーベル化学賞)を用いることで、分子鎖を自在に構築することができます。私たちは、この方法を脂肪酸・脂質で実現し、脂肪酸鎖を自在に構築して、その生命機能の解明・理解、その先の医療・創薬への応用を目指しています。すなわち、「ものづくり」(=有機合成化学)から未開の生命科学領域(=脂肪酸鎖配列と生命機能)に挑んでいます。

医薬品となる分子の種類や創薬手法のことを「創薬モダリティ」と呼びます。代表的な創薬モダリティとして、低分子、抗体、核酸、ペプチドなどが挙げられます。医薬品は、基本的に生体分子に作用してその機能を抑制したり活性化したりして調整することで疾患治療を実現します。そして、創薬モダリティによって標的にできる生体分子が異なります。例えば、低分子医薬の多くは酵素や受容体の活性ポケットに結合し、それらのタンパク質の機能・活性を調整します。従来はこの低分子医薬が主流でしたが、低分子医薬だけでは標的にできないものが多く存在し、抗体医薬、核酸医薬、ペプチド医薬などが登場してきました。一方、これらの既存の創薬モダリティにおいてもなお、全ての標的を網羅し、全ての疾患を治療できるわけではありません。そのため、新しい創薬モダリティの創出は創薬・疾患治療において極めて重要な課題と言えます。
現在盛んに研究されている低分子、抗体、核酸、ペプチドなどの創薬モダリティでは標的にできない代表例として「生体膜」があります。生体膜は細胞膜や細胞小器官(オルガネラ)膜のことです。生体膜は単なる仕切りではなく、細胞機能に大きく関与しています。例えば、生体膜を構成する脂質分子の比率や種類の違いにより、流動性や柔軟性、膜厚などが変化し、膜上に存在する酵素やタンパク質の機能・活性が変化します。また、物質透過性や細胞の運動性も変化し、細胞の機能に大きく影響を及ぼします。生体膜の異常は疾患に関連することが知られていますが、生体膜の物性や機能を制御する医薬分子(=創薬モダリティ)はこれまで実現されていません。
そこで、当研究室では、生体膜を標的とする新しい創薬モダリティとして“脂肪酸・脂質”に注目しています。脂質は生体膜の主成分であり、外部から与えられた脂肪酸・脂質によって生体膜の物性や機能が変化することが見出されています。上記の通り、脂肪酸・脂質には莫大な多様性があり、その多くが未解明(=機能の宝庫)です。私たちは、独自の合成技術を開発し、多様な脂質を生み出すことで“脂質創薬”の実現を目指しています。

| 2013年 | 名古屋大学理学部 卒業 |
|---|---|
| 2018年 | 名古屋大学大学院理学研究科後期博士課程 修了 博士(理学)を取得 |
| 2015年-2018年 | 日本学術振興会 特別研究員(DC1) |
|---|---|
| 2018年-2019年 | 東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻 特任研究員 |
| 2019年-2019年 | 理化学研究所環境資源科学研究センター 基礎科学特別研究員 |
| 2019年-2026年 | 東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻 助教 |
| 2026年- | 現職 |
| 2016年 | 第32回有機合成化学セミナー優秀ポスター賞 |
|---|---|
| 2020年 | 第36回井上研究奨励賞 |
| 2020年 | 量子生命科学会第2回大会優秀発表賞 |
| 2022年 | 量子生命科学会若手優秀賞 |
| 2022年 | 有機合成化学協会コニカミノルタ研究企画賞 |
| 2025年 | 日本化学会 第105春季年会「若い世代の特別講演」 |
| 2025年 | 第19回PCCP Prize |
| 2025年 | 第19回バイオ関連化学シンポジウム部会講演賞 |
| 2026年 | 第18回井上リサーチアウォード |
| 2026年 | 日本化学会第75回進歩賞 |
| 2026年 | 令和8年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞 |
| 2026年 | 第10回バイオインダストリー奨励賞 |
日本化学会、日本薬学会、有機合成化学協会、日本脂質生化学会
現在、「生体分子の花形」といえば、タンパク質やペプチド、核酸でしょう。脂質といえば、「悪者」や「脇役」といったイメージをもっていらっしゃる人が多いのではないでしょうか。しかし、脂質の分野には“果てないブルーオーシャン”が広がっています。「ものづくり」(有機合成化学)がこの未踏領域を開拓する鍵になると私たちは信じています。現在の常識やイメージを覆し、「脂質って、すごい!かっこいい!」と思われる世界を目指して、日々、ワクワクしながら研究しています。私たちと共に、このブルーオーシャンに挑戦してくださる方をお待ちしています。
※この内容は掲載日時点の情報です。最新の研究内容については研究室サイト
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