生命理工学系 News
生命理工学系にはライフサイエンスとテクノロジーに関連した様々な研究室があり、基礎科学と工学分野の研究のみならず、医学や薬学、農学等、幅広い分野で最先端の研究が活発に展開されています。研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、ナノデバイス技術・量子技術を駆使し、生命科学分野で不可能だと思われていた概念を現実のものとする技術開発に取り組んでいる安井研究室です。
生命理工学コース
教授 安井 隆雄
キーワード | ナノデバイス, 生命分析化学, リキッドバイオプシー |
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WEBサイト | 安井研究室 |
生命分子解析における学術的・社会的ニーズに正面から応えるべく、生命分子の新しい分離抽出法の開発を行なっています。近年着目しているのは細胞外小胞です。細胞外小胞は、その内部に生命の遺伝子発現を制御するmicroRNA等の核酸が存在しており、一連の生物学的な生命現象において様々な関与が報告されています。従来の細胞外小胞の分離としては、超遠心分離による密度分離、免疫反応による免疫分離、サイズ排除クロマトグラフィによるサイズ分離が中心に用いられてきました。しかし、従来技術による捕捉効率の低さにより、生成過程、機能発現過程、分解排泄過程について、本質的に理解が遅れています。従来技術の回収率の低さは相互作用力の弱さに起因しており、従来の回収技術による細胞外小胞の解析は、細胞外小胞の本質を捉えているとは言い難い状況でした。そこで、当研究室は、回収率向上に繋がる相互作用力を介した回収方法を提唱し、ナノ材料によって細胞外小胞を網羅的に捕捉する技術を開発しています。
生命分子解析技術をリキッドバイオプシー(液体生検)として応用展開すべく、微細流路中にナノ材料を作製したデバイスを創出しています。リキッドバイオプシーと呼ばれる検査法は、⾎液や尿、唾液などの体液の採取・検査のみで腫瘍・疾病の検出や追跡ができると期待されている手法です。組織生検と比較し、極めて低侵襲に検体を採取して解析ができること、そのため長期フォローアップにかかせない繰り返し・頻回検査が容易に実施可能であることなど、その簡便性について大きな期待が寄せられています。当研究室は、ナノ材料を微細流路中に組み込み、臨床応用への橋渡しとなる簡易操作で動作するナノデバイスを作製しています。例えば、ナノワイヤを組み込んだナノワイヤデバイスは、細胞外小胞を99%以上捕捉でき、尿1 mLから1300種類以上のmicroRNAを発見するなど、従来手法を凌駕することに成功しています。その当時、2000種以上の存在が確認されているヒトmicroRNAはその機能がヒト機能維持に大きく関与していることから、超遠心法で尿20 mLより発見された300種類程度という数字が尿中microRNA種類数として妥当な数字であると長い間考えられており、当研究室の1300種類以上という数字は革新的な種類数でした。さらに近年、ナノデバイスを用いた尿中細胞外小胞の網羅的捕捉技術とそれに伴うmicroRNAプロファイルの機械学習に基づいた解析により、がん診断率・感度・特異度において優れた予測結果が得られています。これは従来妥当と考えられてきた300種類という数字では達成できなかった尿診断による健康な社会を実現するナノデバイス技術の新展開であり、産業に変革をもたらす基盤技術となりつつあります。
現在は、開発した技術を基盤とする大学発ベンチャーであるCraif株式会社を共同創業し、多くの病院と共同で疾病の早期診断技術の社会実装も挑戦しています。Craif株式会社の創業は2018年です。Craif株式会社は、2019年に大学発ベンチャー表彰2019においてNEDO理事⻑賞の受賞、2020年に2020年度総務省「異能vation」にて「ジェネレーションアワード部門」分野賞受賞、2021年にはNatureのオンライン特集記事 “Advanced extraction of urinary microRNA for early cancer detection” の掲載など、国内外から高い評価を受けています。2022年2月1日より、“miSignal™(マイシグナル)”として尿中microRNAからがんの早期発見を行うサービス展開を提供開始し、47都道府県全ての医療機関で社会実装を行なっています。
2007年 | 名古屋大学工学部 卒業 |
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2011年 | 名古屋大学工学研究科博士課程後期課程 早期修了 博士(工学)を取得 |
2011年 | 日本学術振興会特別研究員(PD) |
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2012年-2018年 | 名古屋大学工学研究科 助教 |
2014年-2019年 | 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)プロジェクトマネージャー補佐(兼任) |
2015年-2019年 | JSTさきがけ研究員「超空間制御と革新的機能創成」(兼任) |
2018年-2023年 | 名古屋大学工学研究科 准教授 |
2019年-2023年 | JSTさきがけ研究員「生体における微粒子の機能と制御」(兼任) |
2023年- | 現職 |
2020年 | 令和2年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞 |
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2019年 | 日本化学会進歩賞 |
2017年 | 日本分析化学会奨励賞 |
他36件 |
当研究室は、ナノデバイス技術・量子技術を駆使することで、生命科学分野で不可能だと思われていた概念を現実のものとする技術を開発し、新しい研究領域の創出や産業の変革を目指しています。化学、工学、ナノテクノロジー、マイクロ流体化学、量子化学、インフォマティクスなど様々な分野の分野融合を通して、生命科学・医療に飛躍的な発展をもたらす研究活動を実施しています。原理検証となる基礎研究だけでなく、医工連携等による学際的研究、さらにはベンチャー創業・企業共同研究による社会実装と広く展開しています。生命科学や理学・工学、医学・創薬・情報学など、いろいろな分野を学び、分野に捉われずに新しいことを創る研究に興味があるメンバーが集まっています。当研究室に興味のある学生は、是非、研究室に見学に来てください。
※この内容は掲載日時点の情報です。最新の研究内容については研究室サイトをご覧ください。