生命理工学系 News

【研究室紹介】瓜生研究室

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2023.07.25

 生命理工学系にはライフサイエンスとテクノロジーに関連した様々な研究室があり、基礎科学と工学分野の研究のみならず、医学や薬学、農学等、幅広い分野で最先端の研究が活発に展開されています。研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、数理的手法を用いて生命現象を研究する、瓜生研究室です。

瓜生耕一郎准教授

ライフエンジニアリングコース
准教授 瓜生 耕一郎別窓

キーワード 数理生物学、概日時計、発生

研究紹介

数理生物学

 生物学には個体数や細胞内のタンパク質濃度といった「数」があふれています。「数」を扱う学問は数学です。そのため、生物を数理的な視点によって研究することは理にかなっているといえます。近年、生物学のさまざまな分野で数理モデルをもちいた研究が行われています。数理モデルをもちいて解析を行うことで、細胞内の複雑な遺伝子制御の役割を解明することができます。また、数式をつかうことで感染症の広がりかたをシミュレーションすることもできます。さらに、現象を抽象化し、本質を数式で表すことにより、生物種によらない普遍的な法則を明らかにすることも可能となります。このような生物学の分野は「数理生物学」とよばれます。私たちの研究室では、(1) 脊椎動物の発生過程で観察される体節形成と、(2)哺乳類の概日時計について数理的手法を用いて研究を行っています。

脊椎動物の体節形成

 脊椎動物の体には、脊椎骨や肋骨などの分節構造が観察されます。この分節構造は発生過程で作られる体節という中胚葉組織に由来します。体節は生物種に固有な時間周期(ヒト: 5時間、マウス: 2時間、ニワトリ: 1.5時間、ゼブラフィッシュ: 0.5時間)で頭側から尾側に向けて一つずつ作られていきます。この体節形成の時間周期は、細胞の中のタンパク質濃度の増減(振動)の周期で決まることが知られています。タンパク質の濃度の振動は体節を作る時間を決める「時計」としてはたらくため、「分節時計」とよばれます。それぞれの細胞はまわりの細胞とコミュニケーションし、分節時計の針を合わせる(リズムを同期させる)ことで、まとまって体節に分化します。私たちの研究室では、細胞間で分節時計を同期させるメカニズム、組織の伸長や細胞の動きが体節形成に及ぼす役割について数理モデルを用いて研究しています。

 細胞の動きと分節時計の同期: 体節は未分節中胚葉と呼ばれる組織の前側がくびれとられることで作られます。未分節中胚葉の細胞は組織の中を動き、隣にいる細胞を入れ替えます。それぞれの細胞は膜タンパク質であるDeltaリガンドとNotchレセプターをもちいてリズムの情報をやり取りすることができます。しかし、細胞が動き、隣の細胞が頻繁に入れ替わる中で分節時計を同期させることはできるのでしょうか?動物を用いた実験により細胞の動きの効果を調べることができれば良いのですが、そのような実験を行うことはいまのところ困難です。そこで、この問題に答えるため私たちは細胞をトラッキングすることで細胞の移動速度を計測し、細胞移動をコンピュータ上で再現し分節時計の同期が起きるのかをシミュレーションしました。その結果、細胞が動くことで分節時計の同期がより起きやすくなることがわかりました。細胞が動くことで隣の細胞との同期は崩れます。しかし、いままで離れていた細胞とコミュニケーションするチャンスも生まれます。そのため、細胞集団全体でみると、動いた方が同期しやすくなります。私たちの研究は、細胞の動きによる情報伝播によって分節時計がより精確になり、体節形成が頑健に起きている可能性を示唆しています。

哺乳類の概日時計

 ヒトを含めてほぼ全ての生物は、暗闇のなかでも約24時間周期のリズムで活動することができます。これは体の中に24時間を測る時計があるためで、この時計は概日時計と呼ばれます。ヒトでは概日時計の中枢は脳に存在する視交叉上核とよばれる神経核であり、視交叉上核は数万の神経細胞から構成されます。神経細胞の中では、時計遺伝子から作られるタンパク質の濃度が約24時間周期で振動します。哺乳類の時計遺伝子としてPeriod (Per), Cryptochrome (Cry), Bmal1, Clockといった遺伝子がこれまでに同定されています。時計遺伝子間には遺伝子間相互作用があり、これにより約24時間周期のリズムが形成されます。例えば哺乳類では、CLOCK-BMAL1複合体によりPerCryの転写が誘導されます。翻訳されたPER、CRYタンパク質は複合体を形成し、CLOCK-BMAL1の転写誘導能を抑制します。PerCryによるこの負のフィードバック制御が概日リズム発振に不可欠であるとされています。私たちの研究室では、遺伝子発現リズムが生じるメカニズム、光刺激や化合物投与に対する概日時計の応答、概日時計の温度依存性について研究を行っています。

 概日時計の位相応答: 網膜からの光入力は、視交叉上核に伝達され神経細胞内の遺伝子発現リズムを変化させます。光刺激を受けた時刻に応じて概日時計遺伝子の発現リズムは進んだり、遅れたりします。これにより概日時計は明暗サイクルに同調することができ、例えば私たちが海外旅行に行った場合でも数日のうちに現地の時刻に概日時計を合わせることができます。光情報は時計遺伝子Per1Per2の二つに入力されます。PER1とPER2タンパク質のアミノ酸配列には相同性があるため、この二つのタンパク質は似た機能を持つと予想されます。それでは、Per1Per2は単に同じはたらきをする二つの冗長な時計遺伝子なのでしょうか?

Per1Per2の発現リズムの間にはズレがあり、Per1の転写がピークを迎えた約4時間後にPer2は遅れてピークを迎えます。私たちは数理モデルをもちいたシミュレーションにより、この4時間の差があることで、光応答においてPer1Per2の間に役割分担が生じることを明らかにしました。すなわち、Per1は光刺激により概日時計を早めるはたらきをし、Per2は概日時計を遅らせるはたらきをします。これらの結果は、例えばもしPer1のみを特異的に転写誘導できる化合物を同定できれば、時刻に依存せず概日時計を早めることができることを示唆します。そのような化合物があれば、時差ボケや睡眠障害の治療薬としてのはたらきが期待されます。私たちの研究室では、実験生物学の研究室と共同でこれらの数理モデルによる予測の検証に取り組んでいます。

研究成果

Taijiro Yabe, Koichiro Uriu, Shinji Takada. (2023) Ripply suppresses Tbx6 to induce dynamic-to-static conversion in somite segmentation. Nature communications 14(1) 2115-2115

Koichiro Uriu, Hajime Tei. (2021) Complementary phase responses via functional differentiation of dual negative feedback loops. PLOS Computational Biology 17(3) e1008774

Koichiro Uriu, Bo-Kai Liao, Andrew C Oates, Luis G Morelli (2021) From local resynchronization to global pattern recovery in the zebrafish segmentation clock. eLife 10

Koichiro Uriu, Hajime Tei (2019) A saturated reaction in repressor synthesis creates a daytime dead zone in circadian clocks. PLOS Computational Biology 15(2) e1006787

Koichiro Uriu, Rajasekaran Bhavna, Andrew C. Oates, Luis G. Morelli (2017) A framework for quantification and physical modeling of cell mixing applied to oscillator synchronization in vertebrate somitogenesis. Biology Open 6(8) 1235-1244

Koichiro Uriu, Luis G. Morelli (2014) Collective cell movement promotes synchronization of coupled genetic oscillators. Biophys. J. 107(2) 514-526

Koichiro Uriu, Saul Ares, Andrew C. Oates, Luis G. Morelli (2013) Dynamics of mobile coupled phase oscillators. Phys. Rev E 87(3)

Luis G. Morelli, Koichiro Uriu, Saul Ares, Andrew C. Oates (2012) Computational approaches to developmental patterning. Science 336(6078) 187-191

Koichiro Uriu, Yoshihiro Morishita, Yoh Iwasa (2010) Random cell movement promotes synchronization of the segmentation clock. Proc. Nat. Acad. Sci. USA 107(11) 4979-4984

教員紹介

  • 学歴
2005年 新潟大学 理学部 生物学科 卒業
2007年 九州大学 大学院 理学府生物科学専攻 修士課程 修了
2010年 九州大学 大学院 理学府生物科学専攻 博士課程 修了 博士(理学)
  • 職歴
2009年 - 2010年 日本学術振興会 特別研究員DC2
2011年 - 2013年 日本学術振興会 特別研究員PD
2010年 – 2012年 Max Planck Institute of Molecular Cell Biology and Genetics, 訪問研究員
2014年 – 2015年 理化学研究所 理論科学連携研究推進グループ 階層縦断型理論生物学研究チーム 研究員
2015年 – 2023 年 金沢大学 理工研究域 生命理工学系 助教
2023年- 現職
  • 所属学会

日本数理生物学会、日本発生生物学会、日本時間生物学会、日本分子生物学会

学生へのメッセージ

 数学は生物学の様々な分野で活躍しています。数式やシミュレーションで生命現象を再現する過程で、その現象に対する新たな発見と理解が得られます。良い数理モデルを作るには生物学と数学の両方の知識が必要になります。私たちの研究室では、「生命理工学院で学んだことを活かして自分の興味のある生命現象の数理モデルを作ってみたい」、という学生の方を歓迎しています。

お問い合わせ先

瓜生 耕一郎 准教授

大岡山キャンパス緑ヶ丘6号館 302A

E-mail : uriu@bio.titech.ac.jp
Tel / Fax : 03-5734-3582

※この内容は掲載日時点の情報です。

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