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【研究室紹介】藤研究室

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2023.09.04

 生命理工学系にはライフサイエンスとテクノロジーに関連した様々な研究室があり、基礎科学と工学分野の研究のみならず、医学や薬学、農学等、幅広い分野で最先端の研究が活発に展開されています。研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、多くの生物学的イベントを司る根幹機構「エピジェネティクス」について、植物と分裂酵母を材料に基礎と応用の両面から研究を展開する、藤泰子研究室です。

藤泰子准教授

生命理工学コース
准教授 藤 泰子別窓

キーワード エピジェネティクス、植物、ゲノミクス、合成生物学
WEBサイト ResearchmapOuter

研究紹介

 多細胞生物の一個体内の細胞は、基本的に同じDNA配列を持ちます。細胞に固有の形質を発現させるためには、細胞毎に特有の遺伝子を使いわける必要があり、それを可能にするのが「エピジェネティクス」です。エピジェネティクスとは、DNAやヒストンタンパク質に化学修飾を施して、DNA配列の変化を伴わずに遺伝子の活性状態を規定する仕組みです(図1)。その制御の中核は多くの真核生物に保存され、生殖、発生、環境応答など様々なプロセスにおいて重要な役割を果たします。

エピジェネティクス修飾による遺伝子発現制御と、エピゲノムパターンの構築

 多くの生物のゲノムDNAには、生命機能に必要な遺伝子だけでなく、転移因子やウィルスなどの潜在的に有害な配列も多量に含まれます。そのため生物は、これらをきちんと見分け、それぞれに適したエピジェネティック修飾を施して、その発現を制御します。この制御機構に異常や破綻が生じれば、発生異常や癌などの疾患を誘発します。それだけ重要であるにもかかわらず、生物がゲノム内の遺伝子と有害配列をどのように見分けるのか? いつ、どの細胞で見分けるのか?外から新しく有害配列が侵入した場合はどうなる?など、今だに多くの謎が未解決のまま残されています。

実験材料

 私たち藤研究室では、多くの生物学的イベントを司る根幹機構「エピジェネティクス」について、植物や分裂酵母(図2)を実験材料に用いて、基礎と応用の両面から、精力的に研究を展開しています(図3)。特に、生物がエピジェネティック修飾を介して遺伝子や有害配列を適切に制御する仕組みや、そうした修飾がどのように次世代へと遺伝するのか、環境変動がエピゲノムパターンに与える影響などを解明しようとしています。加えて、こうした基礎研究の成果を軸として、人為的エピゲノム編集技術の開発にも挑戦しています。得られた新技術を、モデル生物だけでなく作物や動物細胞にも応用展開し、SDGs達成や医療技術開発にも貢献していくことを目指しています。

研究内容の概要

研究成果

  • 最近の主要な論文・解説文

Crosstalk among pathways to generate DNA methylome. To TK#, Kakutani T*. Current Opinion in Plant Biology, 2022, 68, 102248.

To TK*#, Yamasaki C, Oda S, Tominaga S, Kobayashi A, Tarutani Y, Kakutani T*. Local and global crosstalk among heterochromatin marks drives DNA methylome patterning in Arabidopsis. Nature Communications 2022, 13: 861.

To TK*#, Nishizawa Yª, Inagaki Sª, Tarutani Yª, Tominaga S, Toyoda A, Fujiyama A, Berger F, Kakutani T*. RNA interference-independent reprogramming of DNA methylation in Arabidopsis. Nature Plants, 2020, 6: 1455–1467.

Kim JM#, To TK#, Matsui A, Tanoi K, Kobayashi NI, Matsuda F, Habu Y, Ogawa D, Sakamoto T, Matsunaga S, Bashir K, Rasheed S, Ando M, Takeda H, Kawaura K, Kusano M, Fukushima A, Endo TA, Kuromori T, Ishida J, Morosawa T, Tanaka M, Torii C, Takebayashi Y, Sakakibara H, Ogihara Y, Saito K, Shinozaki K, Devoto A, Seki M. Acetate-mediated novel survival strategy against drought in plants. Nature Plants, 2017, 3: 17097.

To TK#, Saze H#, Kakutani T. DNA methylation within transcribed regions. Plant Physiology, 2015, 168: 1219-1225.

Ito T#, Tarutani Y#, To TK#, Kassam M, Duvernois-Berthet E, Cortijo S, Takashima K, Saze H, Toyoda A, Fujiyama A, Colot V, Kakutani T. Genome-wide negative feedback drives transgenerational DNA methylation dynamics in Arabidopsis. PLoS Genetics, 2015, 11: e1005154.

To TK*#, Kim JM. Epigenetic regulation of gene responsiveness in Arabidopsis. Frontiers in Plant Science, 2014, 4: 548.

金 鍾明, 関 原明, 藤 泰子. 酢酸を介した植物の乾燥応答とプライミング効果 酢酸を使って乾燥に耐える植物の生存戦略. 化学と生物, 2018, 56(2): 67-69.

* 責任著者, # 筆頭著者

教員紹介

  • 学歴
2001年 東京大学理学部 卒業
2011年 東京大学理学系研究科 博士課程 修了 博士(理学)を取得
  • 職歴
2003年-2005年 カリフォルニア大学ロサンゼルス校 Staff Research Associate
2011年-2015年 国立遺伝学研究所 研究員
2015年-2023年 東京大学理学系研究科生物科学専攻 助教
2023年 現職
  • 受賞
2010年 理化学研究所リトリート ポスター賞受賞
2022年 日本遺伝学会 奨励賞受賞
2022年 日本遺伝学会 best papers(BP)賞受賞
  • 所属学会
  1. 日本遺伝学会、エピジェネティクス研究会

学生へのメッセージ

 エピジェネティクスは真核生物に共通し、生命現象の根幹を司る仕組みです。変異体を種として保存でき、動物では致死性変異でも生存可能な例が多い植物は、当該分野をリードしてきました。実際に他生物研究者との交流も盛んです。分子生物学、生化学、遺伝学などに加え、ゲノミクス(情報解析)も学べます。技術進歩により解析手法が簡便化した今、研究の良し悪しはアイデア勝負です。なぜ?どうして?を深く追究し、現象から真理を探究する楽しさを是非味わってください。また植物は、食糧、エネルギー、環境問題などSDGs解決に欠かせません。エピジェネティクスを応用した人為的遺伝子操作技術の創出にも挑んでおり、物を作り出す楽しさも体験できます。基礎も応用も、ウェットもドライも。欲張りな方、考えることが好きな方を歓迎します!

お問い合わせ先

藤 泰子 准教授

すずかけ台キャンパス B2棟 928号室

E-mail : to.t.ab@m.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5818

※この内容は掲載日時点の情報です。最新の研究内容については研究室サイト別窓をご覧ください。

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