生命理工学系 News
令和6年度第5回(通算第108回)蔵前ゼミ印象記
2024年10月11日、Zoom による遠隔講義にて、令和6年度第5回蔵前ゼミ(通算第108回)が開催されました。
蔵前ゼミは同窓生による学生・教職員のための講演会です。日本社会や経済をリードしている先輩が、これから社会に出る大学院生に熱いメッセージを送ります。卒業後の進路は?実社会が期待する技術者像は?
卒業後成功する技術者・研究者とは?など、就職活動(就活)とその後の人生の糧になります。
1997年 東京工業大学 理学部 地球惑星科学科 卒業
1998年8月 東京工業大学 大学院総合理工学研究科 環境物理工学専攻 退学(渡豪)
当日の印象記を、広瀬茂久名誉教授が綴りました。その一部をご紹介します。
親が生き生きと働く姿を見て育った子供が、自分も「親と同じような職業に就きたい」と思ってくれたら最高だろう。杉﨑さんは、自ら希望して3年間家族同伴でドイツに赴任した。上の子は小学生、下の子は園児だったがうまく現地に適応してくれた。この経験は家族全員にとって宝物になっているに違いない。成長した子供たちが就活の時期を迎えたら、『父のように公務員になって、…』と考えてくれるのではないかと勝手に想像した。母校の後輩たちにも、「この講演を機に、国家公務員を目指す人が増えて欲しい」という杉﨑さんの気持ちがよく伝わったのではないだろうか。ここ10年ほどで、「霞が関はブラックからホワイトな職場へと変身を遂げてきている」というニュアンスも汲み取れた。
入省当時は終電を逃しタクシーで帰宅ということもしばしばだったが、管理職である課長になった今は、当時の反省も込めて働き方改革に努めている。職員の残業時間を把握し、多い場合には業務内容を吟味・削減するとかしないと管理職が責任を問われるそうだから、霞が関はブラックというのは昔の話のようだ。国家公務員の仕事は、国のありようを決める根幹にかかわる点でいつの時代でもやりがいがある。しかも近年はホワイトになってきたとあれば、母校の後輩や自分の子供たちにも奨めたくなる気持ちはよく分かる。
国土交通省で活躍中の先輩が意外に多いのにも驚かされた: まず斉藤鉄夫 国土交通大臣は、本学の応用物理(1974応物、76 MS)出身だ; 国交省の物流・自動車局には5人の技術系課長がいるが、そのうちの3人が東工大(現東京科学大、Science Tokyo)卒だそうだ。後輩の猶野喬(なおの たかし、2000開発システム工学)安全基準室長は、国連の舞台で自動車の基準を決める作業部会(WP29)の副議長を務めている。このような要職に就くのは欧州人以外で初めてで、朝日新聞の「ひと」欄(2023.3.27)や「外国語の扉」(2023.5.9)で紹介されている。
国交省の統計によれば、日本の20年前(2005年)の交通事故死亡者は6871人、重傷者は68,950人だった。政府は、これを2025年までにそれぞれ2000人以下、22,000人以下にする目標を掲げている。実現できれば、日本の交通安全対策は世界のトップになる。この目標に向けて、“交通の安全・環境を守るプロ”として活躍しているのが杉﨑さんたちだ。以下、入省のいきさつやこれまでに担当した次のような仕事の具体的な内容をみていこう:(1)安全基準及び環境基準の策定、(2)新車の認証、(3)車検・リコール制度の実施、(4)日本発技術の国際標準化、(5)自動運転などの新技術の安全性向上・普及施策。
印象記の続きは以下のPDFよりご覧ください。
勝丸泰志(やすゆき、1977電気)蔵前ゼミ担当チーフ幹事からのコメント
この度は、2024年度第5回蔵前ゼミにご登壇いただき誠にありがとうございました。就職活動、ご自身のキャリアパスおよび自動車技術行政に関しまして、それぞれ詳しくご紹介、ご説明いただきよく理解できたと同時に、考えさせられることも多くあり大変有意義なご講演でした。
何をしたいのかが決まっていないなかで始められた就職活動でしたが、企業を回るなかで研究に関係なくてもよいのではないかと考え、そして環境への意識が高いことを自覚されたことが、その後の人生を決める転機となったようで、行動することで自分を知ることもあると認識しました。
運輸省・国土交通省に入省されてから、多くの業務に携わられましたが、その幅の広さに驚かされました。行政改革、ODA、在独日本大使館など異動の度に飛び地の業務に取り組まれたことがよくわかりました。転職を考えることもなく、次々と新しい業務に打ち込んでいけたのは、研究に関係なくてもよいのではと考えたことが、ご自身の対応力を顕在化させる遠因だったかもしれませんね。科学技術とは無関係なことも多かったでしょうが、それらの経験がその後の業務に直接的、間接的に活きたことでしょう。ご自身も仰っていたように、頻繁な異動に対しては人によって向き不向きがあると思います。視聴していた学生のなかには面白そうと思う者と、私には無理と思う者の両者がいたのではないかと想像します。
自動車技術行政についても詳しくご説明いただき、内容が多岐に亘ることを理解しました。杉﨑様が高い関心をお持ちの環境関連では、明らかではないこともある中で、自国の産業を守りながら世界の環境も守ることを考えられていることを理解しました。自動車産業は、日本が世界をリードしてきた「ものづくり」技術に、日本が世界を追いかける「デジタル」技術が加わり、かつ製造業から移動サービス業への業態変化も起きつつあって、非連続な発展をし始めています。自動運転は、課題解決のために必要な要素を技術のほかに倫理や哲学にまで拡大しているように感じました。
日本企業の自動車が世界中を走ることで日本は経済的恩恵を受けてきましたが、多様な価値観が存在する世界のなかで、日本が基準づくりを主導することが、その恩恵を受け続けるために益々重要になりますね。
社会に出たら正解のない問題に答えを出さなければならないと蔵前ゼミに登壇された方々がよく仰いますが、事が人命に係るだけに解かなければならない問題の質の高さを学生は実感することができたのではないかと思います。
この度のご講演では、多くの課題をご提示いただきました。視聴した学生は、考えるきっかけを多くいただき、自身のキャリア形成に活かしてくれるものと思います。
杉﨑様のこれからの益々のご活躍をお祈り申し上げますと共に、今後とも東京科学大学および蔵前工業会にご支援賜りますようお願い申し上げます。