生命理工学系 News
令和6年度第4回(通算第107回)蔵前ゼミ印象記
2024年7月19日、すずかけ台キャンパス J2-203講義室にて、令和6年度第4回蔵前ゼミ(通算第107回)が開催されました。
蔵前ゼミは同窓生による学生・教職員のための講演会です。日本社会や経済をリードしている先輩が、これから社会に出る大学院生に熱いメッセージを送ります。卒業後の進路は?実社会が期待する技術者像は?
卒業後成功する技術者・研究者とは?など、就職活動(就活)とその後の人生の糧になります。
1987年 東京工業大学 工学部 電子物理工学科 卒業
1989年 東京工業大学 大学院理工学研究科 電気・電子工学専攻 修士課程修了
当日の印象記を、広瀬茂久名誉教授が綴りました。その一部をご紹介します。
マンションの管理組合の役員を決める抽選で当たりくじを引いてしまい、理事長をやることになった。総戸数815の巨大マンションゆえ片手間では務まりそうにない。しかも会社の仕事だけでも超多忙だった。できれば定年後の時間に余裕のある人にやってもらいたいところだが、それがかなわないとなれば、普通なら、必要最低限の決裁書に理事長印を押し、後は突発事案に対処するだけにして任期が過ぎるのを静かに待つところを、新開さんは「一生に一度のことで、次回以降の抽選では除外して貰えるのだから、精一杯やり切ろう」と覚悟を決めた。
これまでもマンションの管理に関しては、いくつか気になることがあったが、忙しさにかまけてスルーしていた。その一つが竣工20年以上解決できなかった2階廊下の雨水漏れ対策だった。業者ですら打つ手なしと諦めていたこの問題を見事に解決した。続いてトランクルームの結露対策や中央監視盤の無停電電源装置の効率化にも成功した。
極めつけは、コロナ禍の時のワクチン接種だ。大規模マンションで住民が多いことを生かしてのグループ接種(大型バス2台による出張接種)の実現だった。「そんなこと管理組合がやることではない!」、「バスをどこに止めるのだ?」、「個人情報が漏洩したらどうするんだ?」、「手違いで予約日に接種できない人が出たらどうするんだ?」、「その他にもリスクはいっぱいある!」といった具合で、一緒にやろうと言ってくれる人はごくわずかだった。この修羅場を切り抜けると、NHKのTV番組“あさイチ”や“日本経済新聞”や“朝日新聞”でユニークな取り組みとして報道され、新開さんたちのマンションが有名になり、資産価値が20%もアップした。マンション全体では80億円相当だ。
貧乏くじを引いたかに見えたが、それを大化けさせた新開さんはどのような人だろうか。本人いわく『わりと簡単に周りを怒らせるところがあり、精神的に追い込まれて十二指腸潰瘍に苦しんだこともあります。断念寸前の状態に追い込まれても、諦めきれずに活路を探してしまいます…』。研ぎ澄まされた観察力・分析力・洞察力があるからこそだろう。
印象記の続きは以下のPDFよりご覧ください。
「2024年度1Q2Q 蔵前ゼミを終えるにあたり」中島 肇(1977化工)蔵前工業会神奈川県支部長
今年度第4回目は新開さんに大変エキサイティングなお話を伺いました。マンションの管理組合の活動を例に具体的な問題の見つけ方と解決法についてお話されましたが、社会に出るといろんな問題に遭遇し、解決を迫られることの連続だと思います。それらに対する対処法のヒントを頂いたのではないかと思います。いろいろ課題はでてきますが、否定から入らずに、先ず肯定的にものを見て、「なぜこうなんだ」、「なぜ出来ないんだ」と、徹底的に深堀して問題解決にあたっていく姿勢は参考にすべきだと思います。
いずれにしても、新開さんをはじめとする4人の講師の方々に1Q2Qで話して頂きましたが、いずれも 今後 学生の皆さんがキャリアを作り上げていく上で、一つのアイディア提供となると思います。キャリア構築は、皆さんに与えられた権利ですので、決して受け身にとらえるのではなく、もっと主体的に自分のキャリアは自分で作るんだとの思いで今後に臨めば、すごくダイナミックなキャリアになると思います。このゼミがそのようなきっかけになることを願っています。蔵前ゼミは2008年から17年も続いており、「蔵前ゼミ印象記」というアーカイブも蓄積されてきていますので、過去の分にも遡って活用できます。
蔵前工業会は本ゼミの他にも種々の学生支援プログラムを提供してきています。9月18~19日には大学主催のキャリアガイダンスがありますが、それに続く9月20日に蔵前のキャリアガイダンス、いわゆる業界研究があります。11月5~7日に蔵前企業研究会「K-find」(於: 大岡山の東工大蔵前会館)も計画されています。200社近く集まると思いますので、ご期待ください。本日はこの後、交流会があります。軽食をとりながら、新開さんや諸先輩方に個人的な相談や質問もできますのでご参加ください。
最後になりましたが、蔵前ゼミの開催に際し、多大なご支援ご協力を賜りました「企業社会論」担当の平沢敬先生を始めとする大学関係の皆様に感謝申し上げます。
勝丸泰志(やすゆき、1977電気)蔵前ゼミ担当チーフ幹事からのコメント
この度は蔵前ゼミにご登壇いただき、誠にありがとうございました。「過去の経験は意外なところで役に立つ」をテーマに講演されることを伺って面白そうだなと期待をしていましたが、講演を聴いて私自身が考えさせられることが数多くあり、とても刺激的でした。
小学生のときにメインフレームに興味をもたれたとのことに衝撃を受けました。私の小学生時代と比較をしても意味はありませんが、そのようなことを考える人が育った環境について興味が湧きました。さらに、理工系の道を歩みつつも研究よりもマネジメントに興味をもたれたという話は、コンサルタントを目指す人というのは早い時期から、迷いなく理工系の専門家として歩む人とは 考え方か或いは考えることが違うのかなと感じました。
研究室で電気配線を任されたときや企業に入って物流ネットワークの構築を任されたときのお話は、課題を達成するための考え方を示されていました。私は数学が不得意で、すぐに計算を始めてしまいながら、なかなか答えに行きつかないタイプでしたが、学生時代にできる学生を見ていると解き方を考えることに時間を割いていて、手を動かし始めるとすぐに答えが出てくる印象がありました。理工系の課題に限らず、解決策よりも解決策の導き方の方が重要なことは社会に出ると多くありますね。
講義の「内容梗概」にマンション管理のことを話されるとあって、その意図を図りかねていたのですが、講義を伺ってこれからキャリアを積んでいく人たちが遭遇する課題がいくつも含まれていることに気づきました。色々な見方ができると思いますが、1)志を立てる、2)自分の強みを生かす、3)自分にしかできないことをやる、4)課題の設定、5)課題の承認・賛同、6)課題達成のための道筋の立て方、7)反対者の意図を理解する、8)進めるための条件を明らかにする、9)既成概念に囚われない、10)リスクマネジメント、11)成果の活用・アピール、12)広報活動、13)目標を達成する意欲の維持、他にもあるかもしれません。何を汲み取るかは聴く側に責任がある内容でした。
マンションの漏水を解決したお話は、問題を解決するためには理工系の知識を使いますが、それ以上に解決するまで続ける粘り強さに感心しました。その粘り強さはマンションでのワクチン接種に一層表れていました。次々に訪れる障害に諦めることなく立ち向かって乗り越えたことに、尋常ではない意思の強さを感じました。成功の秘訣は、成功するまで続けることだと成功した人は言いますが、正にそれを地で行った事例だと感服しました。学べる事かどうかはわかりませんが、その諦めない気持ちはどのようにしたら養われるのでしょうか。
パネルディスカッションのテーマ「物事の見方、考え方を変えるにはどうしたら良いか」は難しいテーマでしたが、学生もよく考えて発言していましたし、会場からも意見が出てよかったと思います。年齢が進むほど考え方を変えることは難しくなりますが、複数の考え方があることを知ることはできると思います。自分の考え方の傾向は「経験」の影響を受けているのか、それとも「気質」(気質は変えられないと言います)によるものなのか考えてみたくなりました。
この度は、学生に多くの考えどころを与える蔵前ゼミを行っていただき誠にありがとうございました。社会に出れば日々何らかの問題を解決したり課題を達成したりすることになりますので、学生がその折々に思い出してくれることを期待します。新開様のこれからの益々のご活躍をお祈り申し上げて、蔵前ゼミご登壇の御礼とさせていただきます。