生命理工学系 News
令和6年度第1回(通算第104回)蔵前ゼミ印象記
2024年4月26日、すずかけ台キャンパス B2-226 & 227 講義室にて、令和6年度第1回蔵前ゼミ(通算第104回)が開催されました。
蔵前ゼミは同窓生による学生・教職員のための講演会です。日本社会や経済をリードしている先輩が、これから社会に出る大学院生に熱いメッセージを送ります。卒業後の進路は?実社会が期待する技術者像は?
卒業後成功する技術者・研究者とは?など、就職活動(就活)とその後の人生の糧になります。
1988年 東京工業大学 工学部 電子物理工学科卒業
1990年 東京工業大学 大学院理工学研究科 電子物理工学専攻 修士課程修了
当日の印象記を、博物館の広瀬茂久特命教授が綴りました。その一部をご紹介します。
反骨精神が旺盛な有馬さんは、“天邪鬼”(あまのじゃく)と勘違いされることが多いが 実際には良性の天邪鬼で、千里眼を備えている。激動のVUCA時代にあっては変化の本質をとらえ、その先を見通すことができるので、過度に捻(ひね)くれたところさえ無ければ、リーダーとして頼りにされる。そんな有馬さんの講義は、「データを多く保存するとハードディスクは重くなる?」という質問から始まった。何か仕掛けがあるに違いないと怪訝(けげん)に思いながらも、長い間の学習で身についた習性に従って「アインシュタインの相対論E=mc2ではエネルギーが付加されると重くなるから…」とまっしぐらに解きにかかると、「ちょっと待って、その猪突猛進の習性が問題なの」だという。
ビジネスの世界では、「“そもそも解くべき問題か?” と疑ってかかりなさい」というのが有馬さんの勧めだった。「もし あなたが情報に価値を感じていれば、“その価値を最大にするにはどうしたらいいか?”と質問し返す方が、“重くなるか、軽くなるか、変わらないか”よりも重要なのです」。例えば、顧客からDX(Digital transformation)について何か頼まれたら、多くの場合は「DXが漠然としていて、分かるようで、分からない!?」あるいは「何から手をつけていいのかわからない」状況なので、DXが出来るかできないかより、もっと大事なことがあるかも知れないと考えて、「本当はこういう試みをした方が良いのではないですか」と提案するように心がけて欲しいそうだ。そうすれば「問題がはっきり意識できないところから、明確な問題へとレベルアップでき、現実的な課題設定が可能となる。いい成果が出るだろう。「次回もあの会社の あの人に頼もう」となる。このような役割を果たせる人はビジネス・アナリスト(Business analyst)として今後キーパーソンになるに違いない。「デジタルはテクノロジーというより、ビジネスであり“人の活かし方”である」というのも納得である。天邪鬼こそが変革の波を起こすのだ。
スタンフォード大学の外郭研究所SRI Internationalで見聞きしたことも有馬さんのキャリア形成に計り知れない恩恵をもたらした。所長:「ええっ?! 日本では、採用は人事部がやってくれるの! 日本のマネジャーはラクでいいな!」、「いやー、今日の打合せは長かったなー!30分もかかったよ」。同僚:「明日、SRIからスピンアウトする会社を作って、私も創立者の1人として参画することになった。週20時間はSRIに残るが、残り20時間で起業するよ」。
印象記の続きは以下のPDFよりご覧ください。
「2024年度1Q2Q 蔵前ゼミを始めるにあたり」淺川吉章(1977機械物理、79 MS)副支部長
本日は2024年度の第1回目ですので、本来ならば支部長の中島肇が開講挨拶を申し上げるところですが、あいにく所用で出かけていますので、代わりに私が挨拶いたします。本ゼミは16年前の2008年7月に始まりました。本日で通算104回目になりますが、初期の頃はいわゆる就職氷河期で、東工大といえどもなかなか就職が難しかった時期で、特にすずかけ台の学生は先輩のつても比較的少なく、かなり苦戦を強いられていました。
そこで同窓会としても何かお役に立ちたいと考え、社会の第一線で活躍中の皆さんの先輩方を講師に迎えて職業人の立場から話をしてもらい、その後、学生の皆さんから相談を受ける方式で始めたのが本ゼミです。すずかけ台出身の当時の学生さんは、すでに第一線で活躍するまでに成長しておられますので、初期の目的は達成されたと思います。
その後も100回を超えて続いている理由は、(1)OB/OGの社会における生き様を直接聞ける機会というのは、一般的なキャリア論とは一味違った親近感があり、彼等/彼女らの経験と考え方を共有し、そこに至った道筋を自分のキャリアデザインに活かすことができることと(2)講師の方々が口々に「自分たちの学生の頃に、こういう授業があれば良かったのに」とおっしゃって下さることに励まされているからです。
これから4回のゼミでは、いろいろなバックグラウンドの講師の方々に来てもらいますので、今後のキャリアを考える上で参考なることや、社会人生活を送る上で『核』となるようなものつかむなど収穫が多いと思いますので、積極的に参加してください。
講義の後には交流会を設けています。講師の他に蔵前工業会の先輩たちも多数参加しますので、気軽に声をかけて就活や職種・社会人生活・ビジネスの展望など何でも気になっていることを話題にして、交流してください。
「蔵前ゼミ担当チーフ幹事からのコメント」勝丸泰志(やすゆき、1977電気)
この度は蔵前ゼミにご登壇いただき、ありがとうございました。山下 徹(1971社工)元NTTデータ社長を通じてのお声がけにご快諾いただき、2024年度の初回を飾るに相応しい素晴らしいゼミとなりましたことに心より御礼申し上げます。実は、お願いしておきながら超大手企業の副社長では、学生が自らのキャリア形成の参考として考えられるか心配していたのですが、有馬様が冒頭で「私は周りから天邪鬼と言われている」とお話しされたこと、またその後も実体験を中心としたお話でしたので、当初の心配は杞憂に終わりました。
今回は5年ぶりのリアル開催であり、以前を知るすべてのOBが幹事を退いた上に、設備の不調により開講1時間前での講義室変更となったことに加え、すずかけ台だけでも複数会場(最終的にすずかけ台で3会場)になるというアクシデントがあったにも関わらず、開始時刻の遅れなく開催できたことは、生命理工の方々に迅速にご対応いただいたこと、有馬様がほとんどご自身でシステムのセット・アップをされたお陰と感謝しております。
さて、学生時代およびNTTデータ社入社後を3つの時代に分けてお話されました。SRI社で知った米国の企業文化と帰国後に知った日本の企業文化との違いについては、学生がこれから進路を考える上でどのように感じたのか知りたいところです。学生が自分は何をしたいのかを見つめる良い機会になったのではないでしょうか。有馬様が事業部門に移られてから、引き受け手のなさそうな仕事ばかり回ってきたというお話は、学生よりも私の方がよく理解できたと思いますが、日本企業の中で遣り甲斐を見出すのは案外そのような場合であることを学生は就職してから知っていくのではないかと想像しました。
パネル・ディスカッションのテーマについてですが、容易に想像できる未来もある反面、AI自体がどこまでどのように発展するのかわかりませんので、学生が今回のディスカッションをきっかけに、自分の価値を高めるために何を学びどのように行動するかを考え始めてくれることを期待しています。そのような意味でとても良いテーマであったと思います。有馬様のこれからの益々のご活躍をお祈り申し上げますとともに、今後とも東工大並びに蔵前工業会へのご支援、ご協力をお願い申し上げます。