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企業の技術部門での生き方・考え方

令和6年度第2回(通算第105回)蔵前ゼミ印象記

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2024.07.17

2024年5月24日、すずかけ台キャンパス J2-203講義室にて、令和6年度第2回蔵前ゼミ(通算第105回)が開催されました。

蔵前ゼミは同窓生による学生・教職員のための講演会です。日本社会や経済をリードしている先輩が、これから社会に出る大学院生に熱いメッセージを送ります。卒業後の進路は?実社会が期待する技術者像は?

卒業後成功する技術者・研究者とは?など、就職活動(就活)とその後の人生の糧になります。

講師:馬場 彩子 先生

1993年 東京工業大学 大学院総合理工学研究科 物理情報工学専攻 修士課程修了


馬場 彩子 先生

講師の馬場 彩子 先生(パナソニック、現本学)

当日の印象記を、博物館の広瀬茂久特命教授が綴りました。その一部をご紹介します。

 まさか“素直”(すなお)が私たちの人生を豊かにするコツ、いや最も大切な基本姿勢だとは!「目から鱗(うろこ)」と感じた学生もいれば、前回のゼミの基調が “天邪鬼”(あまのじゃく)だっただけに、あまりにもかけ離れた両極端の対比に驚いた学生もいただろう。

 現パナソニックの創業者 松下幸之助(1894~1989)は長年の思索を通して、自然の摂理と一体化した私たちの究極のありようを「素直な心」と悟り、色紙に『素直』と書き残した。馬場さんは、この先達の言葉がとても好きで大事にしている。日常的に使われる場合の「素直」には、人の言うことに従順に従うという受け身のニュアンスがあるが、馬場さんは「率直」にはもっと奥深い意味があり、「周りの意見に惑わされず物事の本質を冷静にしっかり見ていくこと、それには強い信念が必要なのだ」と解釈している。幸之助さん流に言えば「素直=宇宙の根源の力に触れるための心構えで、それが出来ていれば自分を包み込んでいる世界が見渡せるようになり、おのずと成功への道が開ける」ことになる。

 馬場さんは本年(2024)4月に本学に着任したばかりゆえ、それ以前のパナソニックでの経験が話題の中心だった。20代後半は、企業の研究者として光通信デバイス分野で実績を積み、ようやく「この分野でやっていけそうだ」という安堵感が生まれた幸せな時期だった。産休/育休中だった32歳の時に、青天の霹靂ともいうべき事態に見舞われた。研究所が川崎から大阪へ移転することになり、思い描いていたキャリアパスが閉ざされてしまったのだ。失意のうちに、一時は「会社を辞めて、高校の先生になろうか」と思い悩んだ。「辞めてはダメよ!」と恩師に励まされてパナソニックに留まることにし、他部署への異動を模索するが、「小さい子供を抱えたお母さん社員は、うちでは無理です」と断られまくった。人生で一番大切な30代を「失われた10年」にしてしまいそうになった “悲話”を、個人的な事情や当時抱いた感情を含めて、包み隠さず淡々と語る姿には心動かされた。研究職から支援部門の機能織及び経産省への出向を経て、クリエイティブ・マネジャーとしてオープン・イノベーションに深く関わるようになる後半の話も学生がキャリアを考える際の参考になるだろう。

 私には、「文章にして残さないとダメ!」というアドバイスと「口先だけでなく、本当に意味のある仕事をする人を見つけて仲間になりなさい」というくだりが響いた。

印象記の続きは以下のPDFよりご覧ください。

勝丸泰志蔵前ゼミ担当チーフ幹事

「蔵前ゼミ担当チーフ幹事からのコメント」勝丸泰志(やすゆき、1977電気)

 この度は蔵前ゼミにご登壇いただき、誠にありがとうございました。講師をご承諾いただいた時と実際にご講演された時とで勤務先が異なりましたが、転職された動機も伺えて学生には参考になっただろうと想像します。

 さて、私は蔵前ゼミの講演をそれほど多くは聴いてはいませんが、馬場様のご講演はご自身が一個人として時々に感じられたことや考えられたことが随所にちりばめられていて、他の方の講演とは一味違ったもので、とても新鮮に感じました。昭和の時代には話題にもならなかった人生におけるワークとライフの自分なりの位置付けあるいは意味づけは、ウェルビーイングが重視される今の時代には重要なテーマですので、学生は自分事として考えるきっかけを得たのではないかと思います。

 稼ぐ手段を確保しておきたかったので仕事を辞めることに不安があったこと、仕事か場所かを選択しなければならなかったこと、本来であれば最も成長するはずの30代に力を蓄えられなかったと振り返られたことなどは、学生が社会に出てから直面するかもしれないことで、その時に馬場様の恩師が仰った「辞めてはけません」との励ましの言葉を思い出してくれると迷いが吹っ切れることでしょう。

 研究を離れ支援部門に異動されてから会社がわかってきたとのお話がありました。多くの方が、複数の部門を経験して会社の仕組みや事業の構造がわかったと仰います。複数の分野に関心をもち物事を多面的に見る経験は、後に複合的な課題を解決しなければならなくなったときに役に立つことを学生は学んでくれたことでしょう。

 国際標準化については、私の所属する団体がISO/TC171の国内審議団体に指定されていますので、よく理解できました。TC171は文書の取扱いに関する規格づくりを行うコミッティで西欧諸国が中心となっていますが、彼らの仕組みを構想する能力には感心します。グローバル競争では技術だけではなく勝ち方を考えなければなりませんので、そのための手段の一つとして学生が国際標準化に興味を持ってくれれば嬉しく思います。

 この度は、ゼミ、交流会そして慰労会まで長時間に亘りお付き合いいただき誠にありがとうございました。馬場様の益々のご活躍をお祈り申し上げますとともに、今後とも蔵前工業会へのご支援、ご協力をお願い申し上げます。

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