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令和3年度第6回(通算第91回)蔵前ゼミ印象記

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2022.01.19

2021年11月12日、ZOOM遠隔講義にて、令和3年度第6回蔵前ゼミ(通算第91回)が開催されました。

蔵前ゼミは同窓生による学生・教職員のための講演会です。日本社会や経済をリードしている先輩が、これから社会に出る大学院生に熱いメッセージを送ります。卒業後の進路は?実社会が期待する技術者像は?

卒業後成功する技術者・研究者とは?など、就職活動(就活)とその後の人生の糧になります。

講師:後藤 匠 先生

2012年 東京工業大学 工学部 社会工学科卒業

2017年 東京工業大学 大学院イノベーションマネジメント研究科 技術経営専攻 中退


後藤匠先生

講師の後藤匠 先生

当日の印象記を、博物館の広瀬茂久特命教授が綴りました。その一部をご紹介します。

ウイルスはもとより、概念や言葉にも私たちは感染する。後者のように物質ではないが、社会的・文化的な情報として脳から脳へと感染・伝播するものはミーム(Meme)と呼ばれている。後藤さんの発したミーム『心震える仕事をしようよ』に感染した学生は多かったに違いない。後藤さんは修士1年(M1)の時に起業したが、就活の時期が近づくにつれ、そのまま起業家として生きるか、それとも大企業に入って生きていくかで迷い、葛藤の末、2年間の休学を経て起業家として生きる道を選んだ。本講演では、その時の“出来事や心理状態”を赤裸々に語ることにより、就活を控えた学生に後藤さんの葛藤を追体験してもらえたら嬉しいとのことだった。苦境での決断(分岐点での進路の選択)の際に後藤さんが用いた思考法「マトリックス法」も役に立ちそうだ。

後藤さんが中学以来の同窓の仲間と一緒に起業したのは、デジタル問題集を提供する「教育系スタートアップ企業」だが、その継続に関しても 役員報酬5カ月カットなど 苦難の連続だった。資金150万円と創業メンバー3人からスタートし、創業からまもなく10年を迎える現在では、文部科学省の「GIGAスクール構想」など時代の流れにも後押しされ、累計調達資金8億円超 & 社員56名(2022年1月現在)にまで急成長している。しかし、財務的には赤字だそうだ。それでも“楽しく仕事ができる”のは、「そんなことは無いと思うが、もし失敗したら、うちの会社に来てくれないか、新規事業部を任せるから」と言ってくれる人たちがいるからだ。後藤さんによれば、強い人たちには「決断経験値」(本文で詳述)が高いという共通点があるそうだ。そういう強い人に高く評価され信頼されていれば、どんなに厳しい環境でもやっていけるだろう; 信頼という糸で編まれた丈夫なセーフティーネットが用意されていることになるからだ。「もし失敗したら…」と言ってくれた他社の役員の言葉は「精神安定剤になっている」と後藤さんが語っていたのは、見逃してはならない大事なポイントだろう。心の目にセーフティーネットが見えているか否かで、挑戦の難易度が決まるからだ。後藤さんのように内在性の精神安定剤が持てれば最高だ。

印象記の続きは以下のPDFよりご覧ください。

小倉康嗣 蔵前工業会神奈川県支部長、東京工業大学 監事、国立大学法人等監事協議会会長

「体験」と「経験」の違いについて少し話をしたいと思います。体験は行動そのものですが、その行動を通して知識や技能を身に付けてはじめて経験したことになります。この蔵前ゼミでは、タイムマシーンに乗ったかのように、先輩の方々の経験談を聞くことができます。是非 自分の経験に変えてください。本を読むことも、仮想空間で経験を積むことになりますのでお勧めですが、このゼミには読書では得られない臨場感があって、皆さんの人生を豊かにする多くの経験ができたことと思います。貴重な経験を学生と共有していただいた講師の方々及び授業科目「修士キャリアデザインC」に組み込んでお世話頂いた和泉章特任教授(イノベーション人材養成機構,IIDP)に感謝します。

司会:淺川吉章(1977機械物理、79 MS)蔵前ゼミ担当チーフ幹事

スライドショーの画面に講演者の姿をオーバーラップさせたり、随時チャットでのリアクションを求めたりするなど、オンライン講義でも双方向のコミュニケーションを促す工夫をされていることに感心しました。しかしそれ以上に、小学生の時に見たTVがきっかけで、教育機会の格差解消のために何かしたいという志を持ち続け、起業によってその解の一つを提供しているという後藤先生の生き方そのものに引き付けられ、受講者全員が講義に聞き入っていたと思います。

もちろんすべて順風満帆であったわけではなく、悩みや迷い、葛藤もあったことや、またそれをどのように乗り越えてきたかも率直に話されました。たとえば:「必ず来る未来」を担うのは「自分」だという自覚、3足の草鞋(研究、就活、起業)から起業一本でやると決めて(退路を断って)からはうまく行くようになったこと、本気で起業して頑張っていると滅茶苦茶強くなる-会社は不安定でも「個人」は絶対に社会で負けない-と実感したことなど。

また、「決断経験値」とは「捨てた選択肢の総量」だと定義され、オプションの広さと思考の深さの積を大きくすることが重要で、それが強い人間を作ると指摘されました。オプションが狭く思考が浅い例として、「○○を専攻しているから関連業界のA社かB社に就職する」というパターンを挙げられていましたが、かつての自分のことを言われているようでドキリとしました。40数年前はそれが普通だったようにも思いますが、その時に今回のお話を聞いていれば、また違った人生があったかもしれません。

パネルディスカッションでは、今回もパネラーになった学生は非常によく準備してきていましたが、さらに深掘りを促すようなコメントをしていただきました。時間が許せばもっと議論が深まっただろうと、少々残念です。

全員に起業を勧めるわけではないが、起業もキャリアを考えるうえでの選択肢に入れてほしいと仰っていましたが、「やりたいことがあるなら挑戦してみる」、「心震える仕事をしよう」、「志があれば大企業でもベンチャーでも起業でも実現できる」という後藤先生の言葉に、起業や自分のキャリアについてより深く考えてみようと思った受講生も多かったに違いありません。

世話教員:和泉 章(1987電子物理、89 MS)イノベーション人材養成機構(IIDP)特任教授

第3クオータ(3Q)の蔵前ゼミはキャリア科目「修士キャリアデザインC」の一部として実施いたしました。先輩が進路を決めるときに考えていたこと、人生の岐路でどのような決断をしたかなど、学生が社会に出た後キャリアを構築していくうえで直接参考になるお話をうかがいました。学生から多くの質問が出て良かったと思います。パネラーの学生も、事前に与えられた課題についてしっかりと発表をしてくれました。講師を務めていただいた方に改めて感謝申し上げます。

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