生命理工学系 News
令和3年度第5回(通算第90回)蔵前ゼミ印象記
2021年10月15日、ZOOM遠隔講義にて、令和3年度第5回蔵前ゼミ(通算第90回)が開催されました。
蔵前ゼミは同窓生による学生・教職員のための講演会です。日本社会や経済をリードしている先輩が、これから社会に出る大学院生に熱いメッセージを送ります。卒業後の進路は?実社会が期待する技術者像は?
卒業後成功する技術者・研究者とは?など、就職活動(就活)とその後の人生の糧になります。
当日の印象記を、博物館の広瀬茂久特命教授が綴りました。その一部をご紹介します。
ユニークなタイトルに惹かれて、大塚さんの講演を楽しみにしていた。嗜好品といえばコーヒーやワインを思い浮かべるが、大塚さんにとっては「仕事」が人生最高の嗜好品で、その風味を絶妙に引き立たせてくれているのが家族で楽しむ料理や演奏のようだ。大塚さんの話を参考に、簡単な作法さえ身に付ければ、だれでも極上の一杯(一生、キャリア)を楽しめること請け合いだ。
これまで一般的に推奨されてきたのは、目標を定めそこに向かってひたすら努力する固執型キャリア形成法だったが、急速な国際化やIT・AI技術の進歩、更にはコロナ禍のようなパンデミックの襲来などによって、社会環境が目まぐるしく変化する現在では、10年後の状況を見通すのが難しく、計画通りに進もうとするのは現実的でなくなりつつある。場合によっては当初の目標自体が10年後には意味をなさなくなる。
そこで変化のスピードが速いビジネス界でキャリアを積み上げていくには、将来何が起こるかわからないことを前提に、予期せぬ偶然の出来事にも柔軟かつ真摯に対応し、経験を積み重ねることによって より良いキャリア形成につなげる努力が大切となる。
このとき鍵となるのが、大塚さんが強調していた『とにかく やってみる精神』だ。この考え方には脳科学的根拠もある: 最近の研究で、「やり始めないとやる気は出ない」ことが分かっている。
なぜかというと、私たちの“やる気”は 脳の側坐核から分泌される神経伝達物質ドーパミンによって引き起こされるが、肝心の側坐核は 何かをやり始めないと活性化されずドーパミンを分泌してくれないからだ。
しっかりした自分軸を持った上で、予期せぬ偶然の出来事や出会いも積極的に受け入れチャンスに変えるべく行動する姿勢には学ぶべき点が多い。
印象記の続きは以下のPDFよりご覧ください。
皆さんには東工大を母校として愛して欲しいと願っています。そうは言っても、修士課程から本学に入学した人にとっては、コロナの影響で大学に十分通えていない状況ですので、東工大生という実感がないかも知れません。コロナが収まり皆さんがキャンパスライフを思う存分に楽しめる日が一日でも早く来ることを願う次第です。皆さんのうちの多くの人が本拠地としているすずかけ台キャンパスでは、図書館がリニューアルされ、装い新たに皆さんの利用を待っています。すずかけ台は「ペリパトス(Peripatos = 散策路)の研杜」ともいわれるように自然に恵まれた立地です。研究と自然を満喫し母校愛をはぐくんでください。
もう一つは、繰り返し言っていることですが、なるべく博士課程に進んでほしいのです。一時は博士課程に進む人が目立って減少したのですが、最近では博士課程に興味ある人が増えつつあると聞いて心強く思っています。博士課程在学中の経済的支援(RA、DC1、DC2、次世代研究者挑戦的研究プログラムなど)に加え、修了後の進路に関してもDr’s K-meet(博士人材と企業のマッチングイベント)等を通して就職の斡旋も積極的に行っていますので、安心して進学できます。「人間力さえあれば就職の心配なし」と思ってください。博士号取得者は 日本においても 欧米並みにキャリア面で優遇されるようになりつつあります。NECの社長を務めた遠藤信博(1976電子、78 MS、81 Dr)は本学の博士課程を出ています。
以前は就職というと大企業を目指す学生が大多数でしたが、最近では起業を含め選択肢が広がっているようです。しかし2年ほど前にある先生から、東工大生はいまだに安定志向、大企業志向が強いとお聞きしました。大塚様のご講演を多くの学生が強い関心を持って聴講していたと思います。一方で、Tシャツ姿でのご登壇は、大企業も変わってきているというメッセージとして受け止められたのではないでしょうか。
さて、企業に就職すると異動は避けて通れません。ご講演ではキャリアの岐路に当たるご自身の経験を挙げて、その時どのように考えてどう決断したかを具体的に説明されていましたが、受講生にとっては近い将来に起こるであろうことのイメージが明確になったのではないかと思います。
また、海外留学先は、希望する大学の教授とエレベーターで乗り合わせたときに交渉して決まったというエピソードや、会社の海外派遣制度に応募するだいぶ前から英語の研鑽を積まれていた計画性など、受講生を大いにインスパイアしたに違いありません。
派遣先での気付きとこれまでの経験を比較することでより深く理解する「思考の相対化」や、自分のキャリアと世の中や企業との関係を表す「関心の輪」、「影響の輪」といった言葉も印象的でした。
パネルディスカッションでは、パネラーもキャリアについてよく考えていましたが、別の観点からの気付きを引き出すコメントに、ご自身の経験に裏打ちされた自信や哲学を感じ取ることができました。パネラーのみならず全受講生にとって貴重なアドバイスになったものと確信しております。
語り口はあくまでも穏やかでしたが、「キャリアとは自分で作るもの」という強いメッセージが伝わってくる蔵前ゼミでした。そして、それを実現するための指針として、「偶然の出会いを大切に」、「仕事をしていると次第にやる気が出てくる」、「分からない中でも準備や計画をする」ということを示していただきました。