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時代とともに築く“自分ブランド”

令和3年度第3回(通算第88回)蔵前ゼミ印象記

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2021.08.02

2021年6月25日、ZOOM遠隔講義にて、令和3年度第3回蔵前ゼミ(通算第88回)が開催されました。

蔵前ゼミは同窓生による学生・教職員のための講演会です。日本社会や経済をリードしている先輩が、これから社会に出る大学院生に熱いメッセージを送ります。卒業後の進路は?実社会が期待する技術者像は?

卒業後成功する技術者・研究者とは?など、就職活動(就活)とその後の人生の糧になります。

講師:山本 佳世子 先生

1988年 お茶の水女子大学 理学部 化学科卒業
1990年 東京工業大学 大学院総合理工学研究科 電子化学専攻 修士課程修了
2011年 東京農工大学 大学院工学府 応用化学専攻 博士課程修了
日刊工業新聞社 論説委員兼編集委員


講師の山本佳世子 先生

講師の山本佳世子 先生

当日の印象記を、博物館の広瀬茂久特命教授が綴りました。その一部をご紹介します。

子供の頃から国語が好きで、その日の出来事や気持ちを文章にすると落ち着いたそうだ。そんな少女の心をとらえたのが、文豪の作品ではなく、「水分子の構造」だったというから、小説の書き出しになるような導入だった。中学の理科の時間に、分子模型を用いて「水は酸素と水素がこのように結びついて出来ている」と教わり、自分が住む世界の成り立ちに開眼するとともに、理系の研究者を目指すことにした。お茶大の化学科を出て、より厳しい研究環境を求めて本学の電子化学専攻に入学し、電気化学反応を利用する有機合成に挑んだが、1年経っても目ぼしい成果は得られず、指導教員から「巡り会わせもあるから、残念だけど、テーマを変えよう」と言われショックを受けた。「研究の世界ではよくあることだ」とは分かっているのだが、「どうしてこんなにショックを受けるのだろう?!」と悩み、考え抜いた末に「自分はどうも研究者向きではない」と思うに至り、理系の素養を生かしつつ社会と関われる仕事に従事するべく日刊工業新聞社に勤めることにした。当初は科学技術部に所属し大学・研究所を担当したのでとても楽しく仕事ができた。次に希望して、会社の看板ともいうべき産業部に移り企業を担当するようになると、大手報道機関と競争でスクープを狙う毎日となり、薬を飲んでも治らない胃痛を抱えての仕事となった。キャリアの危機に直面したわけだ。その後、国立大学が法人化され「産学連携」の機運が高まると同時に、政策的にも産学連携が強力に推進されることになり、山本さんには“千載一遇のチャンス”が巡ってきた。この領域を深掘りした記事を書けるのはどこを探しても山本さんしかいない。大学・産学連携担当として活路を見出し、社会人コースに入学して働きながら3年半で論文「工学系大学発ベンチャーを中心とする産学官連携コミュニケーションの研究」をまとめ博士号まで取得した。山本さんは「幸運だっただけで、“自分ブランド”などというのは恥ずかしいのですが…」と謙遜していたが、表題のように時代の潮流を読み、社会に“自分ならではの”価値ある製品やサービスを提供できるようになりたいものだ。

印象記の続きは以下のPDFよりご覧ください。

小倉康嗣 蔵前工業会神奈川県支部長、東京工業大学 監事、国立大学法人等監事協議会会長

淺川吉章(1977機械物理、79 MS)蔵前ゼミ担当チーフ幹事

論説委員といえば社説を担当する、いわば新聞社の顔ともいえる存在ですが、そのイメージとは対極にあるような、終始にこやかな表情と穏やかな語り口が印象的でした。また、ご講演では「キャリアの危機」というキーワードが通奏低音のように流れているように感じました。

最初の危機は修士課程在学中に、研究テーマを1年で変更することになったこと。ご自身には大きなショックだったわけですが、それが自分を見つめ直す契機となり、「短期集中」、「社会と直接に関わる」、「科学技術」の仕事が向くと冷静に自己分析されました。それが将来にわたってのぶれない軸と柔軟性、ポジティブ思考の原点だったということがよく分かりました。

そして「弱みを強みに転換する」、「自分の本質に合う仕事」というキーワード。科学技術コミュニケーターを目指して日刊工業新聞社に入社されてからも幾度もキャリアの危機に直面されましたが、自分の弱みは視点を変えれば強みになること、周囲がいう「いい仕事」よりも「自分らしい仕事」を目指すということを、学生の皆さんにはぜひ心に留めてほしいと思います。記事を読んだだけで「あの人の企画だな」とか「あの人が書いたんだな」と分かるような仕事は本当に素晴らしいと思います。

パネルディスカッションでも学生の発言に丁寧にコメントしていただきましたが、その学生にだけでなく全員に向かっての発信だということが伝わってきましたし、優しい語り口の中にも自信に裏付けられた「力」で参加者の心をしっかり捉えた蔵前ゼミでした。改めて心から感謝申し上げます。

世の中に厳然と存在する男女格差是正のためにも、これからも鋭い切り口の記事をますます発信されますことをお祈りしております。

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