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材料開発を通して経験したこと

令和3年度第4回(通算第89回)蔵前ゼミ印象記

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2021.09.06

2021年7月16日、ZOOM遠隔講義にて、令和3年度第4回蔵前ゼミ(通算第89回)が開催されました。

蔵前ゼミは同窓生による学生・教職員のための講演会です。日本社会や経済をリードしている先輩が、これから社会に出る大学院生に熱いメッセージを送ります。卒業後の進路は?実社会が期待する技術者像は?

卒業後成功する技術者・研究者とは?など、就職活動(就活)とその後の人生の糧になります。

講師:舟橋 正和 先生

1991年 東京工業大学 工学部 化学工学科卒業
1993年 東京工業大学 大学院理工学研究科 応用化学専攻 修士課程修了
出光興産株式会社 電子材料部 電子材料開発センター 所長付


講師の舟橋正和 先生

講師の舟橋正和 先生

当日の印象記を、博物館の広瀬茂久特命教授が綴りました。その一部をご紹介します。

予想していたスライドが出てこなかったのは驚きだったが、その分 舟橋さんの控えめな性格が強く印象に残った。『週刊ダイヤモンド』(2019年6月15日号)の“ものつくる ひと”欄で、「出光ブルー」(青色有機EL、electroluminescence)の開発者として紹介されているが、そのスライドが登場しなかったのだ。出光ブルーのお陰で、有機ELディスプレイを搭載した最新型のスマートフォンが誕生し、私たちは写真やゲームを思う存分に楽しめるようになっているが、これは有機ELの特徴である省電力・高精細・高速応答性によるものだ。先に普及した液晶やLED(light-emitting diode)を凌ぐ優れた性質を有することから、有機ELは次世代ディスプレイや照明用の素材として注目されているが、青色が実現できないために応用が大きく制限されていた。2014年に3人の日本人がノーベル賞を受賞した青色LEDの開発と似た状況だったのだ。この難局を打開したのが舟橋さんたちの出光グループだったと言えば、その偉業ぶりが分かるだろう; 平成30(2018)年度全国発明表彰の最高位「恩賜発明賞」を受賞。

イバラの道に踏み込むきっかけが、バブル経済の崩壊による景気低迷で、会社が研究開発テーマの選択と集中を迫られる中、当時はまだ小さなテーマだったが 将来性から継続となった「有機EL」グループに配置換えになったことだった;転職し会社を去った同僚も多かった。そんな状況下、途中でグループ解散の危機に直面しながらも、「出光ブルー」の灯を消さず、実用化できたのは、(1)学生時代に、目ぼしい成果は上げられなかったが、いい意味で失敗を恐れず様々な試行錯誤をしたことと(2)アイデアは既存の技術の組み合わせと考え、日ごろから社の内外を問わず、幅広く情報収集に努めていたからのようだ。

印象記の続きは以下のPDFよりご覧ください。

小倉康嗣 蔵前工業会神奈川県支部長、東京工業大学 監事、国立大学法人等監事協議会会長

淺川吉章(1977機械物理、79 MS)蔵前ゼミ担当チーフ幹事

舟橋様は純青色発光材料の開発で有機ELディスプレイパネルの実用化に多大な貢献をされるという顕著な業績を達成されました。以前企業で研究開発に携わっていたものとして、舟橋様の業績がいかに偉大なものであるか、そしてそれに至るまでのご苦労も並大抵のものではなかったことがよく分かります。しかしご講演ではそれらを誇張することなく、どちらかというと淡々とお話しになられた姿は、どこか学会発表を聞いているような印象がありました。

しかし、ご講演で示された「人との繋がりは財産」、「謙虚に学ぶ」、「バッターボックスに立つ」といった言葉は、ご自身の経験に基づく重みがあり、学生の心に響いたに違いありません。特に「実験では多くが無駄に終わるが日々努力を重ねる」ことで感覚を研ぎ澄ませ、わずかな違いに気付くことがブレークスルーに繋がることもあるというお話は、今まさに研究に励んでいる学生にとって、そして将来研究職を目指す学生にとっての「金言」です。

他にも数々のエピソードを交えてお話しされた、研究に対する姿勢や企業における研究開発の厳しさ、個人の信頼関係の重要さといったことを、学生にはしっかり受け止めてほしいと思います。

また、パネルディスカッションでは「研究活動」と「仕事」という大きな2つのテーマと、それぞれに対して具体的な問いかけを提示され、学生の率直な意見をうまく引き出していただきました。時間が許せばさらに議論が盛り上がったと思いますが、パネラーに限らず学生一人一人がテーマについて真剣に考え、何らかのヒントを得たのではないでしょうか。

純青色発光材料の開発で会社の業績に貢献、恩賜発明賞など著名な賞を受賞、そして今は後進の育成にも当たられている舟橋様のキャリアに、ふと「金を残すは三流、名を残すは二流、人を残すは一流」という故野村克也氏の言葉が頭をよぎりました。

小倉康嗣 蔵前工業会神奈川県支部長

「2021年度1Q2Q 蔵前ゼミを終えるにあたり」

小倉康嗣 蔵前工業会神奈川県支部長、東京工業大学 監事、国立大学法人等監事協議会会長

出光興産のイメージからは想像もつかないような素晴らしい研究を紹介いただき有り難うございました。今日のテーマはPanel Discussionにもありましたように「研究すること」と「働くこと」の2つでしたので、それらに関連した話をしたいと思います。

(1)博士号のすすめ: 皆さんの進路はいろいろだと思いますが、研究に興味のある方で企業志望の人も是非「博士号」を取って下さい。特に海外では、博士号を持っていることによって非常にステータスが高くなります。博士号を持って商談に臨むと一目置かれ有利です。日本がそうなっていないのは、日本の企業が「博士」に 海外企業並みの高い給料を払ってこなかったために、博士課程に進むよりは、「修士」で就職し給料をもらいながら開発研究に従事した方が メリットが大きかったからです。グローバル化が急速に進み、即戦力人材として中途採用も増えてきました。今後「博士」の価値は日本企業においても高まっていきます。博士課程の学生を経済的に支援するための制度も充実してきていますし、社会人ドクターも増やそうとしています。研究に関わりたいならば、アカデミアでも企業でも「博士号」の取得を目指しましょう。

(2)決断(Decision making): ものを決める時は俯瞰的視野を大事にしてください。仕事に際しては、様々な場面で決断を迫られます。例えば、組織の一員として仕事をする場合が多いと思いますが、そんな時はどうしても自分の組織の立場に固執してしまいます。組織対組織の話し合いでは、一段高いところから全体像をよく見た上で発言したり決断したりするように心がけてください。これは次に述べるリーダーシップの大事な要素にもなります。

(3)リーダーシップ: 東工大には「リーダーシップ教育院」があり、リーダーシップを身に付ける環境が整備されています。これとは別に、特に意識しない日常生活の中でもリーダーシップは育ちます。2人集まり何かしようとすればリーダーシップが出てきますし、会議で物事を決める時にもリーダーシップが発揮されますので、日常的な集団行動はリーダーシップ育成の機会でもあるのです。“ゆとり”ある日常生活を送っていれば、ちょっとした心がけ次第で、リーダーシップに限らず、身につくことは多いと思います。就職のことで頭がいっぱいかと思いますが、本ゼミが皆さんに少しゆとりをもって、将来について考える機会を提供できたとすれば幸いです。

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