生命理工学系 News
令和2年度第3回(通算第82回)蔵前ゼミ印象記
2020年7月7日、ZOOM遠隔講義にて、令和2年度第3回蔵前ゼミ(通算第82回)が開催されました。
蔵前ゼミは同窓生による学生・教職員のための講演会です。日本社会や経済をリードしている先輩が、これから社会に出る大学院生に熱いメッセージを送ります。
卒業後の進路は?実社会が期待する技術者像は?卒業後成功する技術者・研究者とは?など、就職活動(就活)とその後の人生の糧になります。
当日の印象記を、博物館の広瀬茂久特命教授が綴りました。その一部をご紹介します。
パナソニックの共創ラボで「イノベーションのジレンマ」に挑んでいるのが井上さんだ。革新的イノベーションで新製品を世に送り出し大成功を納めると、その企業は自社製品の改良を重ねてさらに顧客の期待に応えようとする(持続的イノベーション)。市場を押さえているので、この努力は王道だ。しかし持続的イノベーションを続ければ続けるほど、新興技術(破壊的イノベーション)の将来性を見誤るようになる。なぜなら、新興技術は、赤ん坊と同じで、生まれ立ての時はとても使いモノになるとは思えないからだ。そして気づいた時には勝負が決まっていて退場を余儀なくされる。このようにイノベーションは破壊的に登場するが、主流となったとたんに持続的性格を強め、それ故に持続できないという“ジレンマ”を持っている。
井上さんは、複雑な現象をモデル化してアプローチし易くするのが「理学」や「工学」の本質と考えている。このような考えのもと、関数解析などの数学的なバックグラウンドを生かして社会貢献したいとの思いで、大手電機メーカー2社で、ICT基盤技術やデバイス開発、デジタル家電開発などに関わった。そして、40代後半からは、企画・組織運営に深く関わるようになり、本学在学中から漠然と考えていた「会社の中の仕組みも“システム”で記述できるのでは?」という思いが、「世の中や組織の仕組みって やっぱりシステムだな!」と確信できるようになった。システマティックなモデル化と実践というアプローチで、『イノベーションのジレンマ』という大組織が陥ってしまう課題に挑んでいる。そんな井上さんがパナソニックで立ち上げたのが社内外共創のためのラボ“Panasonic Laboratory Tokyo(PLT)”だ。
印象記の続きは以下のPDFよりご覧ください。
「産業化のためには、共創が必要である」とのお話は、「大変な時代に入ったのだなぁ」と学生も感じてくれたと思います。我々の時代は、安全・健康で、便利な社会を作り出すために、一人で頭を捻ってアイディアを出せばよかったのに、現在は人を幸せにするような(贅沢な願望を叶えるような)製品開発のためのアイディアを共創する必要がある時代になったと実感致しました。
更に、その共創を可能にする方法についてまで、貴重なご経験をお話し下さり、学生も大いに参考になったと思いますし、参考にして貰いたいものです。即ち、効率よく、自分の能力・スキルを社会に活かすために、(1)技術を取り巻く環境変化を先読みし、3~4年毎に新しいチャレンジをしよう、(2)積極的に機会を作って色々な人と話をしよう、(3)ここぞというときに自己アピールをする勇気を持とうなどなど、学生には大いに参考にして貰いたいと思います。
また、パネルディスカッションでは、現役学生の研究内容を知ることが出来る意見のやり取りをして頂きまして、OG/OBも楽しむことが出来ました。昔と違い、ミッションが明確化された難しい研究テーマに挑んでいる姿を頼もしく思いました。一方、修士の間にまとめられるのか多少心配を致しました。しかし、学生は楽しそうであり、ワクワクして活動しているようで、素晴らしいと思います。是非、頑張って貰いたいものです。心から声援を送りたいと思いました。ご講演にパネルディスカッション、誠に有難うございました。
今回のパネルディスカッションは東工大生らしさが出たと思います。東工大生の多くは、安定感のある大企業が大好きです。そんな中で、「安定って何?」と井上さんが問いかけてくださったのは、進路について深く考えるいい機会になったと思います。傘が大きければ居心地が良さそうだと期待したくなりますが、いつまでも受け身でいてはいけなくて、これも井上さんの「サバイバルのためのヒント」に出てきたように、ここぞというときには自己アピールをして責任のある仕事や職位につかないと“安定”どころか、“サバイバル”も難しい時代になっているというアドバイスは参考にしたいと思います。