【研究室紹介】 上野研究室
タンパク質で分子サイズの機械を創る
生命理工学系にはライフサイエンスとテクノロジーに関連した様々な研究室があり、基礎科学と工学分野の研究のみならず、医学や薬学、農学等、幅広い分野で最先端の研究が活発に展開されています。
研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、蛋白質からなる超分子構造体を化学的に機能化し、人工酵素やドラッグデリバリー材料を合成する、上野研究室です。
キーワード |
タンパク質工学、生物無機化学、バイオマテリアル、ケミカルバイオロジー |
Webサイト |
上野研究室 |
研究紹介
私達のグループでは、タンパク質と金属を使った様々な分子ツールの開発を進めています。精密に動く分子機械、天然を凌駕する人工酵素、さらには、精製も不要、かつ安定にタンパク質を保存する分子カゴ等々、ラボメンバーのユニークなアイディアから新しいタンパク質が次々と生み出されています。
1. タンパク質集合体の理解と生体材料応用
タンパク質の特徴の一つに、複数のタンパク質が自発的に集まり、複雑かつ精密な集合体となる「自己集積反応」があります。天然では、この集合体の表面や内部空間に形成される特異な化学反応場を使って、人工的には合成が困難な多くの物質が作り出されています。
細胞内は種類の異なる生体分子が高濃度で存在する環境にもかかわらず、如何にしてこのような精密な集合体が形成されるのでしょうか?これらの疑問の解明から、針状、カゴ状、格子状等、様々な構造をもつ人工タンパク質を作り出し、ワクチン開発などにつながる生体材料の応用研究を進めています。
2. 金属機能の理解と生体内利用
近年、多くのタンパク質の反応や構造の制御に、金属が大きな役割を果たしていることが次々と明らかにされています。
私達のグループでは、体内に多く存在する鉄に着目し、細胞内の貯蔵方法と、機能化の解明を進めています。鉄が関与する生体内反応の理解を深めることができれば、鉄以外の金属の生体内利用も可能となります。我々が見出してきた研究成果から、有機溶媒中でしか実現できない反応を水中で触媒する人工金属酵素の開発や、天然では使われていない金属反応の生体利用も実現されています。現在は、新たな生体機能材料開発へ向け、生体イメージングや、シグナル伝達制御などを実現する分子ツールの作成にも挑戦しています。
研究成果
代表論文
- [1] B. Maity, S. Abe, and T. Ueno. Observation of gold sub-nanocluster, nucleation within a crystalline protein cage. Nat. Commun., 8,14820, (2017). DOI:10.1038/ncomms14820
- [2] S. Abe, H. Tabe, H. Ijiri, K. Yamashita, K. Hirata, K. Atsumi, T. Shimoi, M. Akai, H. Mori, S. Kitagawa and T. Ueno. Crystal Engineering of Self-Assembled Porous Protein Materials in Living Cells. ACS Nano, in press.
- [3] K. Fujita, Y. Tanaka, S. Abe and T. Ueno. A Photoactive CO Releasing Protein Cage for Dose-Regulated Delivery in Living Cells. Angew. Chem. Int. Ed., 55, 1056-1060 (2016). (selected as a Hot Paper). It was featured on Kagaku Kogyo Nippo (Sep. 11, 2015), PHYS.ORG, and Wn.com.
- [4] H. Tabe, T. Shimoi, M. Boudes, S. Abe, F. Coulibaly, S. Kitagawa, H. Mori, T. Ueno. Photoactivatable CO Release from Engineered Protein Crystals to Modulate NF-κB Activation. Chem. Commun., 52, 4545-4548 (2016).
- [5] B. Maity, K. Fukumori, S. Abe and T. Ueno. Immobilization of two organometallic complexes into a single cage to construct protein-based microcompartment. Chem. Commun., 52, 5463-5466 (2016).
- [6] S. Abe, B. Maity, and T. Ueno. Design of a Confined Environment using a Protein Cage and Crystals in Development of Biohybrid Materials. Chem. Commun., 52, 6496-6512 (2016). (Selected as an Inside Front Cover)
- [7] B. Maity, and T. Ueno. Design of Bioinorganic Materials At the Interface fo Coordinaton and Biosuprmolecular Chemistry. Chem. Rec., in press. (Personal Account selected as a front cover)
- [8] S. Abe, H. Ijiri, H. Negishi, H. Yamanaka, K. Sasaki, K. Hirata, H. Mori, and T. Ueno. Design of Enzyme-Encapsulated Protein Containers by in Vivo Crystal Engineering. Adv. Mater., 27, 7951-7956 (2015). It was featured on Kagaku Kogyo Nippo (Oct. 26, 2015), Nikkan Kogyo shinbun (Oct. 27, 2015), and Kyoto Shinbun (Nov. 03, 2015)
- [9] H. Nakajima, M. Kondo, T. Nakane, S. Abe, T. Nakao, Y. Watanabe and T. Ueno. Construction of an enterobactin analogue with symmetrically arranged monomer subunits of ferritin. Chem. Commun., 51, 16609-16612(2015). (Selected as an Inside Front Cover)
- [10] K. Fujita, Y. Tanaka, T. Sho, S. Ozeki, S. Abe, T. Hikage, T. Kuchimaru, S. Kizaka-Kondoh, and T. Ueno. Intracellular CO Release from Composite of Ferritin and Ruthenium Carbonyl Complexes. J. Am. Chem. Soc., 136, 16902-16908 (2014). It was featured on The Nikkei-sangyo (Nov. 21, 2014), Zaikei shinbun (Nov. 24, 2014), Nikkan Kogyo shinbun (Nov. 25, 2014), PHYS.ORG, nanotechweb.org, and nanowerk.
主な日本語総説
- [1] 稲葉央、安部聡、上野隆史 「超分子タンパク質を用いて金属の反応を操る」 化学, 70, 41-46 (2015)
- [2] 稲葉央、上野隆史 「タンパク質分子針の動的機能と細胞制御」 生物物理, 55, 89-91 (2015)
著書
- [1] 安部 聡、上野隆史 金属錯体による細胞機能制御フロンティア生物無機化学(錯体化学会フロンティア選書、三共出版) pp476-496 (2016)
- [2] T. Ueno, and Y. Watanabe, Eds. Coordination Chemistry in Protein Cages-Principles, Design and Applications, Wiley, 2013
教員紹介
上野隆史 教授 理学博士
1998年3月 |
大阪大学 大学院理学研究科 高分子学専攻 博士後期課程修了 |
1995年 - 1998年 |
日本学術振興会 特別研究員 |
1998年 - 2000年 |
三菱化学株式会社 |
2000年 - 2002年 |
分子科学研究所 助手 |
2002年 - 2008年 |
名古屋大学 大学院理学研究科 助教 |
2008年 - 2012年 |
京都大学 物質-細胞統合システム拠点 准教授 |
2012年3月より |
現職 |
2006年 - 2009年 |
科学技術振興機構 さきがけ研究者兼任 |
2011年 - 2014年 |
最先端・次世代研究開発支援プログラム研究者兼任 |
2003年 |
日本化学会 第4回 生体機能関連化学部会講演賞 |
2008年 |
平成20年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞 |
2009年 |
平成19年度 錯体化学会研究奨励賞 |
2017年 |
平成28年度 手島精一記念研究賞 研究論文賞 |
- 教育活動
学部:生体高分子工学、生物無機化学、 物理化学第一(熱力学、反応速度)、最先端生命研究概論
大学院:生物物理学
- 所属学会
- 日本化学会、錯体化学会、高分子学会、アメリカ化学会
教員からのメッセージ
- 上野教授より
-
私達のグループでは、タンパク質と金属を組み合わせた新しい生体機能材料を創り出す研究を進めています。タンパク質と金属?一見、全く相入れない関係のように見えますが、ヘモグロビンをはじめとする多くのタンパク質では、金属が反応の中心的な役割を担っています。
研究室では、人工酵素はもとより、薬となる金属や分子を体内に送り込む分子キャリアー、細胞内で目的タンパク質を精製してしまう分子カゴだったりと、多岐にわたる人工タンパク質を合成しています。従って、化学と生物をベースとする幅広い分野の知識や技術が必要となりますが、日々の実験やディスカッションを通して、それらを習得していきます。このような異分野融合の研究において成功の鍵を握るのは、メンバー各々のもつ斬新な発想です。そのために、
(1)既存の概念にとらわれない実験へのチャレンジ
(2)分野を越えた研究者との交流
(3)文化を越えた国際的な連携
を大切にしています。世界の人々と“サイエンス”でつながり、新しい研究分野の開拓や発見を共有することは、研究室でしか味わえないエキサイティングな作業です。
興味をもった人は是非、研究室に足を運んでください。日々の実験の積み重ねから、新しいサイエンスをつくりだそうとしているメンバー達がそこにいます。
※この内容は掲載日時点の情報です。最新の研究内容については研究室サイトをご覧ください。