電気電子系 News
6Gに向けた0.1度の位相分解能と低位相誤差を実現した小型D-band移相器の研究
2024年度は電気電子系151名の中から14名が、優れた修士論文発表を行いこの賞を受賞しました。受賞者にインタビューです。
(左から)張 雲程助教、岡田 健一教授、内野 攻哉さん、國弘 和明特任教授、酒井 啓之特任教授
私の研究は、第6世代移動通信システム(6G)に向けた超高速無線機のための小型かつ高精度なD-band移相器に焦点を当てています。
近年のデータトラフィックの増加や、既存の周波数帯の逼迫などの問題を受けて、ミリ波帯を用いた高速通信を実現する6Gの開発が進められています。特に、D-band (110-170 GHz)は比較的大気減衰が少ないという理由から、6Gで用いられる有力な候補周波数帯の1つとされています。
ミリ波帯通信では、アンテナ素子を多数並列化したフェーズドアレイ無線機 によるビームフォーミングが必要不可欠です。しかし、D-bandではアンテナ間の距離が非常に近く(150 GHzで約1 mm)、小型かつ低消費電力な集積回路が求められます。また、フェーズドアレイ無線機の性能は移相器の位相精度に大きく依存しますが、従来の移相器には以下の課題がありました。パッシブ型移相器 は低消費電力である一方、位相分解能が低く、挿入損失が大きいという欠点があります。一方、アクティブ型移相器 は高い分解能を実現できるものの、消費電力が大きく、面積の増加が課題となっていました。
本研究では、これらの課題を解決するため、アクティブ型とパッシブ型を組み合わせた新しいD-band移相器を提案しました。提案回路は、360度の位相範囲を0.1度の細かい位相ステップでカバーし、低いRMS位相誤差を実現しています。この回路により、6Gで求められる高精度なビームステアリングの応用が期待できます。さらに、低消費電力かつ小面積であることから、無線基地局だけでなく、スマートフォンなどの無線端末にも展開可能です。
特に苦心したのは、新しいアイデアを回路に取り入れる過程でした。多くの論文や参考書に目を通して知識を蓄えるだけでなく、既存手法の課題を自ら発見し、それを解決する方法を模索し続けました。岡田教授や研究室の方々とのディスカッションを重ねる中で、徐々に新しい回路アイデアを形にすることができました。このプロセスは非常に大変でしたが、同時に最も充実した時間でもありました。特に、自分のアイデアが回路に組み込まれ、実験で正常に動作した瞬間は、今でも鮮明に記憶に残っています。
この度は優秀修士論文賞をいただきまして、大変光栄に思います。今日まで支えてくださった指導教員である岡田健一教授、並びに研究室の先生、秘書、先輩の方々に心より感謝申し上げます。大変で忙しい時もある反面、研究が一歩一歩進んでいくその道のりはとても楽しく充実したものでした。岡田研究室で得た経験と知識をこれからの人生に活かしていきたいと考えています。