電気電子系 News
こんにちは、電電HPサポーターズの小久保です!
すばらしい研究者の紹介シリーズでは、東工大電気電子系のすばらしい先生方を学生目線で気になることについて取材しています。
今回は、2023年4月より特任教授に就任された筒井先生にお話を伺いたいと思います。
筒井先生は企業で長年に渡って研究開発に携わり、去年度から東工大の特任教授を務められるという大変珍しい経歴を持つ先生です。筆者は去年度からお世話になっており、その経験や思いについて深掘りさせていただきたいとずっと考えていました。
小久保:今回はインタビューに応じていただきありがとうございます。早速ですが、特任教授という特殊な肩書が気になります。どのような経緯で就任されたのでしょうか。
筒井特任教授(以下、筒井):まず、華々しい成果を挙げられている先生方の紹介が続く中、赴任して間もない私のご指名で恐縮します。さて、従来の共同研究や寄付講座の良い所取りをした「共同研究講座」※という制度が有り、これを利用して2020年4月に東京工業大学と株式会社安川電機(以下 安川と省略)とが連携した「YASKAWA未来技術共同研究講座」が開設されました。この共同研究講座での研究は、“企業の研究者と本学の専任教員および共同研究費で有期雇用される教員(特任教員)が主として行う”ということになっており、講座開設時から安川の中村裕司さんが特任教授に就任していましたが今年の春に退任。一年間の引継ぎを兼ねて、後任として私が昨年春に就任したという流れになります。
※共同研究講座とは、企業等から共同研究費として資金を提供していただき、大学内に設置する研究組織です。研究組織として置かれる点が大きな特徴になり、従来の共同研究と違い安定した研究基盤が構築され、新規な研究展開が期待されています。
小久保:企業では、これまでどのようなお仕事をされてきましたか。特に思い入れのあるものをいくつかピックアップして教えていただきたいです。
筒井:元々興味が有ったモータを中心とする研究開発に入社以来携わって来ました。途中からは実務担当からマネージメント側へ移って行きましたが、大枠で言うと研究開発の道一本です。色々な研究開発に関わりましたが、その中から幾つか紹介いたします。一つ目は、レーザー光を鏡で反射して方向を制御する際に用いるガルバノスキャナの開発です。反射ミラーを駆動するアクチュエータに関しては新規の開発でしたが少数の部隊での取り組みとなったので、他社のベンチマークから構造検討、材料選定と設計、試作機評価から改良と一通り担当しました。試行錯誤を繰り返した後、後輩に量産設計を託して製品に仕上げてもらいました。二つ目は、インバータやサーボアンプに用いる新しいパワー半導体デバイスの開発です。米国の半導体ベンチャーとの共同開発だったのですが、仕様のすり合わせや不具合解決のために何度も単身で米国へ出向いて議論したことは、英語で会話する度胸が付く実践的なトレーニングになったと思っています。未だに英語は不得意ですが(笑)。その他には、調整に遅い時間まで掛かってしまったモータドライブの試作品と疲れ果てた担当者たちをワゴン車の後部座席に乗せて(寝せて)夜通し運転し、200km以上離れた客先でのテストに何とか間に合わせたというエピソードも。やはり、苦労の先で成果(製品化)に繋がったものは強く思い出に残っています。
小久保:企業に就職された後に博士号を取るなど、アカデミア寄りの道にも進もうと思われた理由をお聞きしたいです。
筒井:私が安川に入社して間もなく、外部の研究機関から研究員の派遣要請が有り、提案されたテーマに関連する研究を大学院時代に行っていた私が選任されて三年間の研究に取り組みました。その中で面白い事象を発見したのですが、研究室長をされていた大学教授から“この研究で社会人ドクターに進んではどうか?”とのお話しがあり、帰社してから学位論文を執筆・提出して博士号を頂きました。それ以後も定年まで安川で働くことをイメージしておりましたが、長らく研究開発畑を歩んできた者であること、また直前は産学連携の推進を担当していたこと等から、先述した経緯で今の立場に参っております。
小久保:現在は東工大でどのような研究をされているのですか。
筒井:共同研究講座としては、産業用ロボットの超軽量化をゴールとして、ロボットの駆動源であるアクチュエータの超軽量化や高性能化を実現するための研究を電気電子系と機械系、更に物質理工学院の先生方と連携して進めています。その中で、私たちの研究室(筒井・遠藤研究室)は新しい材料や最適化アルゴリズムを用いた設計による超軽量アクチュエータやリンク機構、高トルク密度のモータの実現といったテーマに取り組んでいます。
小久保:企業と大学の両方での研究を経験されてきたと思いますが、それぞれどのような所が楽しく、逆にどのようなところで大変だと感じますか。
筒井:安川の様な企業における成果の出口は販売製品であり、研究開発プロセスでのスケジュールの管理や費用対効果の検証、出来上がる物の品質・コストの作り込みなど大変な面は多いですが、自分たちの生み出した成果が直接的・間接的にも製品展開され市場に出て行くことは大きな達成感に繋がると思っています。また、製品づくりに関わる技術を網羅した設計試作部門があるので、机上で考えたことをスムーズに実体化できることも楽しさの一つでしょう。知的財産部門によるスムーズな知財化もしかり。ただ、実現の可能性が見えないとかレベル的・時間軸的に実現が難しそうなアイディアには取り組まなかった事もあります。今の立場は経験が浅いので分からないことだらけですが、目先の判断に捕らわれず腰を落ち着けて研究に取り組めそうなので、先述のようなアイディアの実現に改めてチャレンジしたいと思っています。大学は学生さんが卒業・修了で入れ替わるため研究が流動的な側面も有るでしょうが、新たな出会いが新たな気付きやアイディア創出につながることも期待したいですね。
小久保:企業に就職するか、アカデミアの道に進むか迷っている学生に向けたアドバイスをいただきたいです。
筒井:先の人生において何を重視するのかは人それぞれでしょうから、先ずは自身の将来を出来るだけイメージすることが大切だと考えます。そのうえでどちらがイメージに沿っているかで選ぶ。就職を選ぶならば、更にどの会社にするかを選ぶ。企業と大学とで給与面や働く環境、管理を受ける範囲などの違いは概ね世間で言われている通りだと思いますが、企業毎に待遇や条件は異なるもの。判断するためにも企業説明会に参加するとかOBの話しを聞くとか、或いは企業訪問などで出来るだけ情報を得た方が良いでしょう。なお、安易に選択することを勧める意味は毛頭ないのですが、私の例のように選択の機会は人生一度っきりでは無いということもありますので念のため。
小久保:最後にこれからの意気込みを伺いたいです。
筒井:目標としている、ロボットの高性能化に貢献する革新的なモータの創出に向けて邁進します。また、企業人としての経験と様々な繋がりを生かした学生の指導育成にも努めたいと思っております。