電気電子系 News
東京工業大学の赤木泰文名誉教授(現・イノベーション人材養成機構特任教授)が、公益財団法人ヒロセ財団の「第1回ヒロセ賞」を受賞しました。3月27日にザ・キャピトルホテル東急(東京都千代田区)で贈呈式と受賞記念講演が行われました。
ヒロセ財団によると、ヒロセ財団は電気電子機器に使用するコネクタ等の大手企業であるヒロセ電機株式会社の創業者 廣瀬銈三氏の夫人、廣瀬静江氏からの多額の寄附金を基本財産として1995年に設立されました。アジア諸国からの留学生の人材育成と諸国間の友好親善を目的とし、留学生への奨学援助事業、さらに日本の大学や研究機関で引き続き研究をしている若い研究者(元留学生)への研究助成事業を推進しています。
「ヒロセ賞」は、財団設立25周年の2020年に新設された学術賞で、「情報・通信・電気・電子工学分野において顕著な業績を挙げた日本国籍を有する研究者」を対象としています。ヒロセ賞の選考は、(1)新しい学術を切り拓く優れたものか(研究の独創性)、(2)他分野の研究に影響を与えるか(研究の波及効果)、(3)世の中に役立つものか(研究の有益性)、に重点を置いています。候補者の推薦は電気情報系の学会、大学、研究機関に依頼しています。
赤木名誉教授は、学生時代から50年近くにわたってパワーエレクトロニクス(電力電子工学)の研究を行っています。受賞理由は「三相回路の瞬時無効電力理論の確立と半導体電力変換システムの回路・制御・応用に関する先駆的研究」で、独創性・波及効果・有益性が評価されました。赤木名誉教授は、米国電気電子学会(IEEE:Institute of Electrical and Electronics Engineers)と欧州パワーエレクトロニクス学会(EPE:European Power Electronics and Drives Association)からそれぞれ最高位の賞(メダル)を受賞しています。これまでに発表した論文の被引用回数は56,700回に達し、現在も増加の一途をたどっています。
電気回路は電気系学科の必修科目です。そこで学習する無効電力は、電圧と電流を正弦波かつ定常状態を仮定し、単相回路から説明を始めて三相回路に展開しています。同様に考えて単相回路の瞬時無効電力を定義しようとすると、過去の電圧と電流の情報を必要とするため、厳密な意味での「瞬時」とは言えません。
世界の研究者は1970年前後からこの難問に挑戦していましたが、専門家が納得する理論に到達できませんでした。この難問を解決したのが「三相回路の瞬時無効電力理論」であり、逆転の発想の賜物です。具体的には、三相回路から出発し、その時刻の電圧値と電流値から瞬時無効電力を一義的に定義し、その物理的意味を数式証明しました。現在では「pq理論」とも呼ばれ、三相回路の基礎理論として世界の研究者・技術者に活用されています。
長岡技術科学大学在職中に発表した「3レベル中性点クランプインバータ」は、IEEEの論文賞を受賞しましたが、論文発表から実用化まで10年以上を要しました。1999年3月に営業運転を開始したJR東海の700系「のぞみ」から、N700、N700A、そして最新のN700Sまで、すべての新幹線電車の主変換装置(コンバータ・インバータ)に採用されています。
大学発の基礎理論・インバータ回路が実際の製品に活用・採用されたことは研究者冥利に尽きます。