電気電子系 News
地球観測衛星の一つである「合成開口レーダー衛星(SAR衛星)」は、昼夜や天候に関係なく、地上の様子を観測できる衛星です。近年、衛星の小型化を通じた多数機観測による高頻度観測や、AI等の画像処理技術の発展により、防災、インフラ、環境、農業、金融等の様々な分野での利用が期待されています。
東京工業大学は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、東京大学、慶應義塾大学と共同で、革新的研究開発推進プログラム「ImPACT」の一つである「小型合成開口レーダー衛星システムの研究開発」に参画し、同衛星の小型化・高度化の開発を進め、同種の小型衛星としては世界トップレベルの小型化・高性能化に成功しました。従来主流であった大型衛星よりも低コスト・短納期で生産でき、多くの機体の打ち上げにより高い観測頻度を実現できることから、今後、利用分野・機会が飛躍的に拡大することが見込まれています。
本技術を活用することで、株式会社Synspective(シンスペクティブ)が、2020年12月15日に実証衛星“StriX-α”(ストリクス・アルファ)を打ち上げ、2月8日に衛星からの画像データ取得に成功しました。民間の100 kg級小型SAR衛星による画像取得は日本初となります。
早稲田大学の齋藤宏文客員教授とともに、ImPACTプログラムにおけるSAR衛星に搭載する軽量ハニカム導波路構造平面アンテナパネル、アンテナパネル間の非接触電力伝送用チョークフランジ、小型電力合成器の開発を担当しました。StriXの開発では、Synspective社との共同研究契約に基づき、引き続き、平面アンテナパネルの特性向上、高機能化に取り組んでいます。
ImPACTプログラムにおいて、白坂成功教授がプログラムマネジャーとして全体を統括するとともに、白坂研究室が小型SAR衛星の運用・サービスを行うことを想定した総合システムの構想設計を行いました。その後、Synspective社との共同研究契約に基づき、同研究室で開発した衛星データ活用手法や多方面のネットワーク等を活用した研究により、多様な想定ユーザーとの調整に貢献しました。
衛星搭載SAR技術について、衛星の試験及びその評価、衛星の小型化に欠かせない大電力放射機器や大容量・高速通信装置に関する研究開発を行い、小型軽量化する技術に関する基礎研究から始めた成果を実応用可能レベルに引き上げました。特に、Synspective社と協力して軌道上実証まで行うことで、衛星を小さく打ち上げ、大きく使うことを低コストで実現し、気象条件に関わらずいつでもどこでも地球観測を可能とするための重要技術を前進させました。 また、2019年2月からは、民間事業者等を主体とする事業を出口とした共創型研究開発プログラム「宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」による共創活動を通じて、ImPACTプログラムの技術成果の民間利用促進や将来計画の検討に加え、SARコンステレーション技術を活用したソリューションの事業化検討を実施しています。
中須賀真一教授の研究室は、SAR衛星に特徴的な大出力電源部や姿勢制御部を含む衛星バスの開発をImPACTプログラムにおいて担当しました。StriX-αの開発においては、Synspective社との共同研究契約に基づき、これまで開発してきた超小型衛星(100 kg以下の衛星の総称)の各種技術を適用し、短期かつ確実な開発・運用に貢献し、本StriX-αは同研究室の13基目の衛星となります。
Synspective社がImPACTプログラムから継承し、東工大を含む各機関との共創で実現した成功を軸に、今後着実な成果と事業展開を通じ、コンステレーション(衛星群)の実現と併せ、世界の災害対応能力の飛躍的な向上を目指します。
今後2023年までに6機、2020年代後半には30機のコンステレーション構築を目指します。低軌道を周回する30機のコンステレーションにより、世界のどの地域で災害が発生しても、2時間以内に観測することが可能になります。