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従来よりも数百倍小さい磁界が検出可能に
横浜国立大学の水野洋輔准教授、東京工業大学の中村健太郎教授(ライフエンジニアリングコース 主担当)、芝浦工業大学の李ひよん助教、エスピリトサント連邦大学(ブラジル)のArnaldo Leal-Junior教授、アヴェイロ大学(ポルトガル)のCarlos Marques博士らの国際共同研究チームは、プラスチック光ファイバーヒューズという新たな物理現象に基づき、光ファイバーを用いて磁界を計測することに成功しました。モード間干渉と呼ばれる簡素な構成で、113.5 pm/mTという超高感度を達成しました。従来法よりも数百倍小さい、45 µTという微小な磁界(地磁気に相当)の検出が可能です。将来的に、電力機器、回転機、電磁環境の調査への応用が期待されます。
本研究成果は、2020年11月30日(現地時間)に国際科学雑誌「Advanced Photonics Research(アドバンストフォトニクスリサーチ)」のオンライン版に掲載されます。なお、本研究は、科学研究費補助金(課題番号17H04930、17J07226、20K22417)の支援を受けたものです。
高度経済成長期以降に建造・整備されたインフラの経年劣化や地震による損傷が社会問題となっています。そのための対策として、構造物に光ファイバーを埋め込むことで、その内部の変形や温度などを計測する「光ファイバーセンサー」[用語1]の開発が進んでいます。光ファイバーセンサーには、長距離、軽量、柔軟性、電気絶縁性、防爆性、耐雷性などの多くの利点があるほか、電磁ノイズに強いという性質があります。この性質は、強電磁界環境において変形や温度を測定する際には大きなメリットとなります。その一方で、磁界自体の計測は困難であることを意味します。
これまでに、光ファイバー型の磁界センサーがいくつか提案されてきました。しかし、実用に耐えうる感度を持つ従来のセンサーは全て、磁界に反応する物質を能動的に添加した特殊な光ファイバーを用いていました。例えば、内部を磁性流体で充填した光ファイバーや高濃度にテルビウムを添加した光ファイバーなどが挙げられます。しかし、これらの特殊光ファイバーは高コストであり、センサーのシステム構成自体も複雑でした。
そこで、特別な物質を添加する必要のない低コストの光ファイバーを用いた、高感度かつ簡素な構成の磁界センサーの実現が望まれています。
2014年に、水野准教授らは、プラスチック光ファイバー[用語2]中でのヒューズ現象[用語3]を初めて観測しました。その際、ヒューズが起きた後のプラスチック光ファイバーに、螺旋状の炭素跡が残されることは解明していました。今回、ヒューズ後のプラスチック光ファイバーが磁界に反応することを初めて発見し、モード間干渉センサー[用語4]に組み込むことで、低コストかつ超高感度な磁界計測に成功しました。5 cmの光ファイバーを用いた場合に、センサーの出力スペクトルのピーク波長が113.5 pm/mTという極めて高い感度でシフトすることを実証しました。本センサーは、日本国内の地磁気の大きさに相当する45 µTという微小な磁界の変化を検出することが可能です。これは、テルビウム添加光ファイバーを用いた従来法(20 mT)よりも、数百倍小さい値です。
ヒューズ現象を生じた後のプラスチック光ファイバーを、2本のシリカガラス光ファイバーで挟み込みました。そして、一方の端面から広帯域光源の出力光を入射し、もう一方の端面からの出射光のスペクトルを観測しました。プラスチック光ファイバーを横切る方向に磁界を印加し、スペクトルの変化を調査しました。
電力系統の各種機器、発電機やモータなどで磁界センサーが必要な場面で、電気絶縁性、長距離伝送性といった本センサーの特徴が活かされる可能性があります。また、利用が拡大するIoT機器から意図せずに放射される電磁波が他の機器に与える影響が問題となっており、機器近傍の電磁界の測定を通じた漏洩電磁波源の特定が重要になっています。多くの磁界センサーでは、信号伝送のために金属製の伝送線路が用いられます。しかし、強電磁界環境では特に、金属部品が電磁界自体を乱してしまうという問題がありました。一方、光ファイバーを用いた電磁界センサーには、この問題は本質的にありません。よって、本研究成果は、強電磁界環境、特に防爆性や耐雷性が要求される現場での電磁環境調査への応用が期待されます。
[用語1] 光ファイバーセンサー : 建物や橋、トンネル、ダムやパイプラインなど、さまざまな社会インフラの経年劣化や地震による損傷を正確に診断する技術の需要が高まっています。従来の電気センサーは、大量の電気配線を必要とし、限られた箇所の情報しか得られないなどの課題がありました。このような背景の下、光ファイバーをさまざまな構造物にセンサーとして埋め込もう、という取り組みが始まっています。この光ファイバーセンサーが機能すれば、構造物自身が「ここが痛い」「ここが熱い」など、人間と同じような反応を示してくれることになり、維持管理の効率が飛躍的に向上すると期待されます。
光ファイバーセンサーで伸びの分布を検出している様子
[用語2] プラスチック光ファイバー : 従来の光ファイバーセンサーの研究で主に用いられていたのは、通信向けに広く利用されている石英ガラス光ファイバーでした。しかし、ガラス光ファイバーは数%伸びるだけで切れてしまうため、それ以上の大きな変形を計測することはできませんでした。そこで、近年では、100%を超える巨大な伸びにも耐えられるほど高い柔軟性をもつプラスチック光ファイバーを用いたセンサーの研究も推進されています。
ガラス光ファイバーよりもコアの直径が大きいため、光の経路が多数存在します(多モード光ファイバー)。この性質を用いた種々の計測原理が提案されており、今回用いたモード間干渉もその一つです。
[用語3] ヒューズ現象 : 光ファイバーヒューズ現象とは、高パワー光の入射により光ファイバーに発生した光放電(輝点)がその光ファイバーを破壊しながら光源に向かって伝搬する現象で、これまでガラス光ファイバーにおいては多くの研究がなされてきました。2014年、水野准教授らは、プラスチック光ファイバー中でのヒューズ現象を初めて観測することに成功しました。そして、ガラス光ファイバー中よりも1~2桁遅い伝搬速度や180倍小さい閾値パワー密度、圧倒的に低い伝搬損失をはじめ、螺旋状の炭素跡やその導電性など、さまざまな性質を解明しました。本研究成果を契機に、工学応用に向けた取り組みが活性化されるものと期待されます。
[用語4] モード間干渉センサー : モード間干渉とは、多モード光ファイバーにおいて、異なる経路(モード)を通った多数の光が相互に干渉することです。多モード光ファイバーを2本の単一モード光ファイバーで挟み込む構造により、容易に生じさせることができます。この構造に広帯域の光を入射すると、モード間干渉の結果、透過光のスペクトルには複数のピークが生じます。このピークが現れる波長が多モード光ファイバーの状態によって変化する性質を利用し、これまでに伸びや温度のセンサーとして応用されてきました。
掲載誌 : | Advanced Photonics Research, 2020年11月30日オンライン版 |
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論文タイトル : | Highly sensitive fiber‐optic intrinsic electromagnetic field sensing (光ファイバーを用いた高感度な電磁界センシング) |
著者 : | Arnaldo Leal-Junior, Camilo Díaz, Anselmo Frizera, Heeyoung Lee, Kentaro Nakamura, Yosuke Mizuno, Carlos Marques (Arnaldo Leal-Junior、Camilo Díaz、Anselmo Frizera、李ひよん、中村健太郎、水野洋輔、Carlos Marques) |
DOI : | 10.1002/adpr.202000078 |
お問い合わせ先
横浜国立大学 大学院工学研究院 知的構造の創生部門
准教授 水野洋輔
E-mail : mizuno-yosuke-rg@ynu.ac.jp
Tel : 045-339-4276
東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所
教授 中村健太郎
E-mail : knakamur@sonic.pi.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5090
芝浦工業大学 工学部 情報通信工学科
助教 李ひよん
E-mail : hylee@shibaura-it.ac.jp
Tel : 03-5859-8257