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次世代スピン軌道トルク磁気抵抗メモリの実現に期待
Pham研究室の博士課程のNguyen Huynh Duy Khangさんが次世代スピン軌道トルク磁気抵抗メモリの実現に向けた、トポロジカル絶縁体であるBiSbの(012)面方位を用いた世界最高性能の純スピン注入源を開発しました。
スピン軌道トルク磁気抵抗メモリ(SOT-MRAM)は、スピンホール効果による純スピン流を用いて、高速で書き込みができる次世代の不揮発メモリ技術です。しかし、従来から純スピン流源として使われている白金やタングステンなどの重金属は、スピンホール角が低い(0.1~0.4程度)という問題がありました。一方、トポロジカル絶縁体はスピンホール角が大きいことが知られていますが、よく研究されているBi2Se3(ビスマス/セレン)など、バンドギャップが大きいトポロジカル絶縁体は電気伝導率が小さく、実用的ではありませんでした。今回の研究では、BiSb(ビスマス/アンチモン)トポロジカル絶縁体薄膜を評価したところ、電気伝導率が金属並みと高い上に、室温でも超巨大なスピンホール角(~52)を示すBiSb(012)面を発見しました。図1に今回に開発したBiSbと今まで研究されてきた重金属とトポロジカル絶縁体の常温におけるスピンホール角、電気伝導率およびスピンホール伝導率を示します。BiSbは従来の材料よりも2桁も高いスピンホール伝導率を示すことが分かります。
図1.本研究で開発したBiSbと今まで研究されてきた重金属とトポロジカル絶縁体の常温におけるスピンホール角θSH、電気伝導率σおよびスピンホール伝導率σSH
さらに、図2に示すように、BiSb/MnGa垂直磁性体の接合において、従来よりも1桁~2桁少ない超低電流密度でMnGaのスピン軌道トルクによる磁化反転を実証しました。これらの成果から、BiSbをスピン軌道トルク磁気抵抗メモリへ応用した場合、データの書き込みに必要な電流を1桁、エネルギーを2桁、記録速度を20倍、記録密度を1桁向上できることが分かりました。
図2.幅50μmのBiSb(5nm)/MnGa(3nm)接合におけるSOTによる磁化反転の実証(左)および磁化反転電流密度のベンチマーク(右)。MnGaの磁化の向きを異常ホール効果により評価しました。BiSbによるMnGa磁化反転の電流密度は1.5x106A/cm2と既存の材料より1桁~2桁少ないことを見出しました。
本成果は、トポロジカル絶縁体を用いた場合、特性が優れたSOT-MRAMを実現することで、トポロジカル絶縁体の産業応用のきっかけになる可能性があります。トポロジカル絶縁体を応用した高性能磁気メモリが実現できれば、組み込みメモリ(SRAMやFLASH)やワーキングメモリ(DRAM)の置き換えができることから、電子機器の省エネルギー化というインパクトがあるだけでなく、5~10兆円の新メモリ市場の展開も期待できます。今後は、産業界と連携して、SOT-MRAMの早期実用化を目指します。
本研究成果は、7月30日16時(英国時間)に英国の学術誌『Nature Materials』に掲載されます。
掲載誌: | Nature Materials |
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論文タイトル: | A conductive topological insulator with large spin Hall effect for ultralow power spin-orbit torque switching |
著者: | Nguyen Huynh Duy Khang, Yugo Ueda, Pham Nam Hai |
DOI: | 10.1038/s41563-018-0137-y |