生命理工学系 News

腸内細菌の代謝経路データベース「Enteropathway」を公開

疾患や健康状態と関連する細菌代謝パターンの解明に期待

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2024.11.29

ポイント

  • 腸内細菌の代謝経路に特化したデータベース「Enteropathway」を開発。
  • 他のオミクスデータと組み合わせることで、腸内細菌の遺伝子機能の詳細な解析を実現。
  • 健康維持と疾患予防に向けた新たな研究の進展に貢献すると期待。

概要

東京科学大学(Science Tokyo) 生命理工学院 生命理工学系の山田拓司准教授(生命理工学コース 主担当)、情報・システム研究機構 データサイエンス共同利用基盤施設 ライフサイエンス統合データベースセンターの五斗進教授、新潟大学 医学部メディカルAIセンターの奥田修二郎教授らの研究グループは、腸内細菌の代謝経路[用語1]に特化したデータベース「Enteropathway」を公開しました。

腸内細菌の研究は近年急速に進展していますが、その代謝経路に関する情報は限定的でした。そこで研究グループは今回、そうした腸内細菌の代謝経路のデータを網羅的に集めた革新的なデータベース「Enteropathway」を開発しました。

このEnteropathwayは、化合物、酵素反応、代謝経路のデータを統合した、ヒト腸内細菌叢の包括的な代謝データベースであり、研究者や医療従事者が腸内細菌の働きや、その複雑な代謝ネットワークをより深く理解するための貴重なリソースとなると期待されます。

「Enteropathway」Webサイト: https://enteropathway.org別窓

2024年10月1日に東京医科歯科大学と東京工業大学が統合し、東京科学大学(Science Tokyo)となりました。

背景

腸内細菌は人間の健康に大きな影響を与えることが知られており、そのバランスの乱れは様々な疾患と関連しています。これまでの腸内細菌の研究は、その種類や数に焦点が当てられてきましたが、細菌がどのようにしてエネルギーを産出し、どのような代謝経路を通じて人間の体に影響を与えるのかについての理解は不十分でした。一方、既存の腸内細菌に関するデータベースでは、そうした代謝機能が十分に網羅されておらず、機能リファレンスとして用いることができませんでした。

研究成果

今回公開した「Enteropathway」は、科学文献を手動でキュレーションすることで網羅的に収集した、腸内細菌の代謝経路に関するデータをもとに構築したデータベースです。このデータベースには、複数の腸内細菌種にわたる代謝経路の詳細な情報が含まれており、研究者はこの情報を利用して、特定の細菌がどのような環境下でどのような代謝活動を行うのかを推定することが可能となります。特に、各細菌が異なる栄養素をどのように利用し、どのような化学反応を介してエネルギーを生成するのかに関する情報を包括的に集めています。こうしたことから、このデータベースが提供する情報は、腸内環境の複雑な相互作用を解明する手がかりとなり得ます。

さらに「Enteropathway」は、既存の様々なデータベースで使用されている遺伝子やタンパク質、化合物のIDと統合されており、研究者は他のオミクスデータ(ゲノム、トランスクリプトーム、プロテオームなど)[用語2]と組み合わせて腸内細菌の機能を多角的に解析することが可能です。これにより、特定の疾患や健康状態と関連する細菌の代謝パターンを解明し、疾患の新しい治療法や予防法の開発に向けた基礎的な知見が得られることが期待されます。

一例として、100歳以上の百寿者の腸内における細菌由来遺伝子による代謝経路およびメタボロームデータをカスタマイズしました(図1、関連リンク2)。ここでは、百寿者に特有の化合物(丸)、反応(矢印)、およびモジュール(ボックス)が確認できます。

図1. enteropathway:百寿者の腸内環境全体図と拡大例
-代謝経路や詳細情報をweb上でインタラクティブに表示できる

また、「Enteropathway」はオープンアクセスデータベースであり、研究者だけでなく、教育者や医療従事者も利用できるため、腸内細菌に関する知識の普及にも貢献すると期待されます。さらにユーザーはログイン機能を通して、一層充実したインターフェースサービスを利用できます。また、APIによるデータアクセスも可能であることから、大規模なデータ解析にも対応しています。

このように、今回開発したEnteropathwayは、腸内細菌の代謝活動を多角的に理解するための強力なリソースとして、今後の研究の基盤を形成すると期待されます。

社会的インパクト

このデータベースの公開により、腸内細菌が健康や病気にどのように関与しているかについての新たな発見が期待されます。特に、腸内細菌の代謝活動が糖尿病、肥満、炎症性腸疾患等の疾患とどのように関連しているかを解明することで、予防医学や治療法の開発に大きく貢献できます。

今後の展開

本研究チームは今後、Enteropathwayのデータベースを継続的に更新し、より多くの腸内細菌データを追加する予定です。また、データベースの解析ツールの改良を進めることで、より詳細で正確な研究を実施できるようにすることを目指します。この取り組みを通じて、腸内細菌研究のさらなる発展と、それによる健康維持・病気予防の新しいアプローチの確立を期待したいと考えています。

  • 用語説明

[用語1] 代謝経路:細胞がエネルギーを得て身体機能を果たしたり、タンパク質や脂肪などの分子を構築したり、不要な物質を排泄したりする連鎖的な化学反応

[用語2] オミクスデータ:身体内に存在する分子を網羅的にまとめた情報のこと

  • 論文情報
掲載誌: Briefings in Bioinformatics, Volume 25, Issue 5, September 2024, bbae419,
論文タイトル: Enteropathway: the metabolic pathway database for the human gut microbiota
著者: Hirotsugu Shiroma, Youssef Darzi, Etsuko Terajima, Zenichi Nakagawa, Hirotaka Tsuchikura, Naoki Tsukuda, Yuki Moriya, Shujiro Okuda, Susumu Goto, Takuji Yamada
DOI: 10.1093/bib/bbae419別窓

関連リンク

お問い合わせ

東京科学大学 生命理工学院 生命理工学系

准教授 山田 拓司

Tel 03-5734-3629
Fax 03-5734-3591
Email info@jchm.jp

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