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【研究室紹介】黒田研究室

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2023.04.25

生命理工学系にはライフサイエンスとテクノロジーに関連した様々な研究室があり、基礎科学と工学分野の研究のみならず、医学や薬学、農学等、幅広い分野で最先端の研究が活発に展開されています。研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、哺乳類社会の基礎をなす、親子関係の神経機構について研究する、黒田公美研究室です。

黒田公美教授

ライフエンジニアリングコース
教授 黒田 公美

キーワード 社会性、行動神経科学、子育て、愛着、輸送反応、親子関係、視床下部
WEBサイト 黒田研究室Outer

研究室紹介

社会を支える脳のメカニズム

人間は社会的動物であり、家族や学校、職場など、身近な人たちとの交流が生きる上で欠かせません。このような人間の社会は、進化の過程で哺乳類が獲得した様々な社会行動によって支えられています。特に親子関係はもっとも基本的な社会であり、子どもが心身ともに成長し、将来の社会性を身につける上で重要です。私たちは社会性の脳内機構を明らかにすることで、親子や家族などの親密な関係を科学的に理解し、支援することを目指しています。

哺乳類の子育て行動の神経回路機構

 子どもを守り、栄養を与えて育てる「子育て(養育)」行動はすべての哺乳類の子の成長に必須です。そのため、親の脳には子育て行動に必要な神経回路の基礎が備わっています。実際に上手に子育てができるようになるためには、子育てをしてもらった経験、周りの人の子育てを見る経験、そして実際にやってみる経験によって、この回路が洗練される必要があります。

 子育てに必要な神経回路のもっとも重要な部分は、脳の中でも前脳底部、視床下部の前方にある「内側視索前野MPOA」という場所です。私たちはMPOAの中でもとくに中央部cMPOA(上図、オレンジの〇部分)が母・父双方の子育てに必須であることを、2013年と2015年に報告しました。さらにこのcMPOAの中で特に子育てに重要なCalcr神経細胞を同定し、2021年に報告別窓しています(詳しくはリンクをご覧ください)。

子育てから進化した親和的社会性は子育て回路を利用していた

 おとな(成体)同士が親密な社会性を持つ動物種は、ほぼ例外なく子育てをすること、また大人同士の社会行動に子育てから派生した行動が多く用いられていることから、おとな同士の社会性は子育てから進化したのではないかと考えられてきました。私たちはcMPOAのCalcr細胞を活性化するAmylin細胞が、おとな同士が孤独を感じ仲間と一緒にいようとする行動をを引き起こすことを見出し2022年に報告別窓しています。つまり、Amylin-Calcr細胞からなるcMPOAの神経回路は、子育てに起源をもつ親和的社会性を司っていると考えられます。

 なお、親和的な社会性にはもう一つの起源があります。それは恐怖・逃走であり、不安のために仲間のもとに逃げ込もうとする行動です。こちらはcMPOAとは別の神経機構によって行われていると考えられました。

輸送反応:子の親への愛着行動

 子どももただ子育てをされるだけの受け身な存在ではありません。親(世話をしてくれる人。生物学的な親でなくてもよい)を覚え、積極的に近づき、泣いたり笑ったりして信号を送り、よい関係を築こうと努力しています。このような、子どもの行動を愛着行動と呼びます。愛着行動がどのような脳のメカニズムで成り立っているのかは、まだあまりよくわかっていません。

 私たちは人間でもマウスでも、赤ちゃんを親が運ぶとただちに泣きが減り、大人しくなることを、2013年に報告別窓しました(動画リンク別窓)。このことは当たり前のように思えますが、実は科学的な証明はこれがはじめてでした。赤ちゃんの科学はまだまだ遅れているといえます。

 そしてこの輸送反応を利用して、親にとってストレスになる過剰な泣きを鎮め、寝かしつけを促進する方法について、2022年に報告別窓しました(ページ上部に動画あり)。具体的には、赤ちゃんを体にぴったりつけて抱っこし、あまり止まらないようにしながら5分間連続で歩くと、かなり泣きが減り、半分近い赤ちゃんが眠ることがわかりました。

 今後はこの方法を利用し、育児を助けるウェアラブル端末と連携アプリを開発し、過剰な泣きに起因する産後うつや児童虐待の防止に役立てたいと考えています。

研究成果

  • 最近の主要な論文・解説文

Kazutaka Shinozuka, Saori Yano-Nashimoto, Chihiro Yoshihara, Kenichi Tokita, Takuma Kurachi, Ryosuke Matsui, Dai Watanabe, Ken-ichi Inoue, Masahiko Takada, Keiko Moriya-Ito, Hironobu Tokuno, Michael Numan, Atsuko Saito, Kumi O. Kuroda, "A calcitonin receptor-expressing subregion of the medial preoptic area is involved in alloparental tolerance in common marmosets", Communications Biology, 5, Article number: 1243 (2022) Website別窓

Ohmura N, Okuma L, Truzzi A, Shinozuka A, Saito A, Yokota S, Bizzego A, Miyazawa E, Shimizu M, Esposito G, Kuroda KO: "A method to soothe and promote sleep in crying infants utilizing the Transport Response", Current Biology, 32(20), 4521-4529.e4 (2022) Website別窓

Fukumitsu K, Kaneko M, Maruyama T, Yoshihara C, Huang AJ, McHugh TJ, Itohara S, Tanaka M, Kuroda KO: "Amylin-Calcitonin receptor signaling in the medial preoptic area mediates affiliative social behaviors in female mice", Nature Communications, 13, Article number: 709 (2022) PDFPDF

Yoshihara C, Tokita K, Maruyama T, Kaneko M, Tsuneoka Y, Fukumitsu K, Miyazawa E, Shinozuka K, Huang AJ, Nishimori K, McHugh TJ, Tanaka M, Itohara S, Touhara K, Miyamichi K, Kuroda KO: "Calcitonin receptor signaling in the medial preoptic area enables risk-taking maternal care", Cell Reports, 35(9), 109204 (2021) Website別窓

黒田公美 編著『子ども虐待を防ぐ養育者支援』岩崎学術出版社, 2022 Website別窓

黒田公美 「親子のつながりを作る脳つながる脳科学 2016, 281-313 Website別窓

  • 原著論文

https://researchmap.jp/oyako/published_papers別窓

  • 著書

https://kurodalab.net/page/publication/book別窓

  • 日本語総説

https://kurodalab.net/page/publication/japanese-review別窓

教員紹介

  • 学歴
1992年 京都大学理学部 卒業
1997年 大阪大学医学部 卒業
2002年 大阪大学大学院医学系研究科博士課程 修了 博士(医学)を取得
  • 職歴
2002年-2004年 McGill大学精神神経科科 博士研究員
2004年-2007年 理化学研究所 脳科学総合研究センター 博士研究員
2008年-2014年 理化学研究所 脳科学総合研究センター 黒田研究ユニット リーダー
2015年-2023年 理化学研究所 脳神経科学研究センター 親和性社会行動研究チーム チームリーダー
2023年- 現職
  • 受賞
2019年 第15回ヘルシーソサエティ賞 パイオニア部門受賞(公益社団法人日本看護協会/ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループ)
  • 所属学会
  1. 1.日本神経科学会
  2. 2.日本生物学的精神医学会
  3. 3.米国神経科学会
  4. 4.日本神経化学会会員
  5. 5.日本子ども虐待防止学会会員
  6. 6.Parental Brain Conference(国際学術集会、Advisory committee member)
  7. 7.NPO法人 脳の世紀推進会議 正会員
  8. 8.日本行動神経内分泌学会会員

学生へのメッセージ

親子関係や社会性は、毎日の私達自身の生活に直結する身近なテーマですが、自然科学的研究はやや遅れています。この新しい研究分野では、学問の面白さに加え、成果が直接に社会の人々の考えや行動に影響を与えうるという点で、やりがいも責任も肌で感じることができます。また研究の道に進まなくても、家族や職場の人間関係について学ぶことは、社会人として生きる上で役立つこともあると思います。もちろん、遺伝子組換え技術を用いた動物実験や組織化学、生体情報の統計解析、論文作成などの技術も身につきます。一緒に研究に取り組んでみたいという学生さんを歓迎し応援します!

お問い合わせ先

黒田 公美 教授 

B1棟 409号室

E-mail : kurodalab[at]bio.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5441

※この内容は掲載日時点の情報です。最新の研究内容については研究室サイト別窓をご覧ください。

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