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DNA中で機能する新たな人工塩基対の創製に成功

DNAの構成要素を増やす新たな設計概念を提案

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2022.03.17

要点

  • 自然界のDNAに含まれるA, G, T, Cとは異なる4種類の人工的な核酸塩基を開発し、これらを組み込んだ二重らせんDNAの形成に成功した。
  • 新たに開発した人工塩基対は、二重らせんDNAの外側で互いを認識し、選択的かつ安定な塩基対を組むことを明らかにした。
  • これらの人工塩基対を連続して組み込んだDNAは、非常に安定な二重らせん構造を形成できる。
  • DNAの高機能化に基づくバイオテクノロジー研究への応用が期待される。

概要

DNAは、4種類の核酸塩基(A, G, T, C)で構成される生体高分子であり、自然界では遺伝情報を保存する生命の設計図としての役割を担っています。近年は、DNAの正確な塩基対形成(A-T, G-C)を利用してナノ構造体を構築するなど、様々なバイオテクノロジーに応用されています。今回、東北大学 多元物質科学研究所の岡村秀紀助教と永次史教授(大学院理学研究科化学専攻 兼任)は、東京工業大学 生命理工学院の正木慶昭助教と清尾康志教授(共に生命理工学コース主担当)らと共同で、自然界のDNAに含まれるA, G, T, Cとは異なる構造をもつ4種類の人工的な核酸塩基の開発に成功しました。新たに開発した人工核酸塩基は、A-T、G-C塩基対とは異なる様式でユニークな塩基対を形成し、安定な二重らせんDNA構造を形成します。しかも、これらの人工塩基対を連続して組み込んだDNAは、予想外の高い安定性を持つ二重らせん構造を形成する性質があることも見出しました。今回開発した人工塩基対を用いることで、従来にはない高機能性DNA創製が可能であり、バイオテクノロジーや合成生物学研究を加速すると期待されます。

本研究成果は、2022年3月2日(英国時間)に国際科学雑誌「Nucleic Acids Research」のオンライン速報版で公開されました。

背景

DNAは、A(アデニン), G(グアニン), C(シトシン), T(チミン)の核酸塩基を構成要素とする生体高分子です。地球上のすべての生命は、これらの4種類の核酸塩基の並び方によって遺伝情報を保存しています。DNAはAとT、GとCが水素結合を介した相補的な塩基対形成により、二重らせん構造を形成し、遺伝情報の複製と伝達を担っています(図1a)。これら2対4種類の核酸塩基で構成されるDNAに、人工的な核酸塩基を用いた新たな塩基対を加えることができれば、自然界のDNAを超越する高機能性DNAの創製が可能となり、バイオテクノロジーや創薬研究に大きく貢献できると期待されます。このような背景のもと、A-T・G-Cとは独立して機能する人工的な塩基対の開発が注目を集めています(図1b)。

図1 (a)DNAの二重らせん中における天然型塩基対の構造。(b)人口塩基対の概念図。

図1.(a)DNAの二重らせん中における天然型塩基対の構造。(b)人口塩基対の概念図。

1989年に世界初の報告がなされて以来、複数の研究グループによって構造の異なる人工塩基対の開発研究が進められてきました。しかし、既存の人工塩基対は、正しい組み合わせの核酸塩基を識別する性質(塩基選択性)と、二重らせん構造を安定に維持する性質(熱的安定性)が十分ではありませんでした。そこで本研究では、これら2つの性質を兼ね備えた新たな人工塩基対の創製を目指しました。

研究の内容と成果

これまでの人工塩基対の開発においては、ワトソン-クリック面[用語1]における相互作用様式を工夫することによって、塩基選択性と熱的安定性の実現が試みられてきました。本研究では、従来とは全く異なる戦略として、天然型の核酸塩基とは離れた位置で互いを認識し、対を形成する人工塩基対を考案しました(図2a)。具体的には、スペーサーを介して核酸塩基に類似した構造(擬塩基)を付与した2対の人工塩基対NPu-OPzとOPu-NPzを設計しました。これらの人工塩基対は、それぞれの擬塩基同士が、DNAの二重らせんの外側で水素結合を形成することで、選択的かつ安定な塩基対を形成すると考えました(図2b)。

図2. (a)本研究で設計した人口塩基対の構造。スペーサーを介して擬塩基を付与した構造をもつ。(b)これらの擬塩基は、二重らせんの外側で水素結合を形成することで、塩基対を形成する。

  1. 図2.(a)本研究で設計した人口塩基対の構造。スペーサーを介して擬塩基を付与した構造をもつ。(b)これらの擬塩基は、二重らせんの外側で水素結合を形成することで、塩基対を形成する。

設計した人工塩基は有機化学的手法で合成し、DNA固相合成法[用語2]を用いてDNAに組み込みました。NPu-OPzとOPu-NPzの二重鎖DNA中における熱的安定性をUV融解温度(Tm[用語3]測定により評価した結果、それぞれ天然型のG-C塩基対に匹敵する熱的安定性を示すことを見出しました(図3)。また、これら4種類の人工塩基は、天然型の核酸塩基とは安定な対を形成せず、高い塩基選択性を示すことがわかりました。そこで、核磁気共鳴分光法(NMR)[用語4]分子動力学計算(MD計算)[用語5]を用いてDNA中の人工塩基対の構造を詳細に解析しました。その結果、新たに設計した人工塩基対は設計通り、擬塩基同士が二重らせんの外側で水素結合を形成していることを明らかにできました。さらに、NPu-OPzをDNAに連続して組み込んだDNAでは、二重らせん構造が劇的に安定化されることを見出しました。このように、高い塩基選択性と熱的安定性を兼ね備えた新たな人工塩基対を創製し、DNA二重らせん中で機能させることに成功しました。

図3 本研究で開発した人工塩基対の熱的安定性と塩基選択性の評価結果。

図3. 本研究で開発した人工塩基対の熱的安定性と塩基選択性の評価結果。

今後の展開

DNAは、生命科学研究に限らず、機能性の高分子として近年大きな注目を集めています。例えば、DNAを機能性材料としてナノ構造体を作り出す「DNAナノテクノロジー」[用語6]や、塩基配列の形で情報を保存する「DNAストレージ」[用語7]が活発に研究されています。本研究で開発した人工塩基対は、A-T・G-C塩基対の共存下、二重らせんDNA中で選択的かつ安定な対を形成できることから、従来にはない新たな局所構造の構築が可能となり、高い機能を持つ機能性高分子の開発が期待されます。さらに、新たに開発した人工塩基対が、天然型の塩基対と同様に、複製・転写・翻訳過程において機能することを明らかにすることで、革新的な医薬品や新たなバイオテクノロジーの創製につながると考えられます。

  • 付記

本研究は、科学研究費補助金(KAKENHI Grant Number JP15H05838, JP19K15710)、武田科学振興財団、東京生化学研究会、東北大学学際科学フロンティア研究所 領域創成研究プログラムの支援を受けて遂行されました。

  • 用語説明

[用語1] ワトソン-クリック面 : 天然型の塩基対において、A, G, T, Cが水素結合を形成する部位のこと。A-T塩基対では2つの水素結合が形成されるのに対し、G-C塩基対では3つの水素結合が形成される。

[用語2] DNA固相合成法 : DNAを化学的に合成する技法の一つ。不溶性の固体担体上で、DNAの構成前駆体と反応試薬を順次反応させることによって、DNA鎖を段階的に伸長させる。

[用語3] UV融解温度(Tm : 二重鎖DNAの50%が解離して一本鎖DNAになる温度。DNAの二重らせん構造が安定であるほどTm値は高くなるため、塩基対の熱的安定性の指標に用いられる。

[用語4] 核磁気共鳴分光法(NMR) : 強力な磁場に置かれた原子核が固有の電磁波と相互作用する現象を利用して、分子構造や様々な分子間相互作用を原子レベルで解析する測定法。

[用語5] 分子動力学計算(MD計算) : コンピューターを用いて、原子ならびに分子の物理的な動きや構造をシミュレーションする手法。DNAをはじめ、複雑な物質の構造解析で力を発揮する。

[用語6] DNAナノテクノロジー : DNAが塩基配列に基づいて高次構造を形成することを利用して、有用な核酸構造を人工的に設計・作製する技術。ナノ医療などへの応用が期待されている。

[用語7] DNAストレージ : デジタルデータを塩基配列に変換し、合成したDNAに記録する技術。データを読み出す際は、DNAの塩基配列を解析し、配列情報をデジタルデータに変換する。

  • 論文情報
掲載誌 : Nucleic Acids Research
論文タイトル : Selective and stable base pairing by alkynylated nucleosides featuring a spatially-separated recognition interface
著者 : Hidenori Okamura, Giang Hoang Trinh, Zhuoxin Dong, Yoshiaki Masaki, Kohji Seio, Fumi Nagatsugi
DOI :

10.1093/nar/gkac140別窓

お問い合わせ先

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系

教授 清尾康志

E-mail : kseio@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5136

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