生命理工学系 News
IT創薬技術と化学合成技術の融合による革新的な中分子創薬フローの事業化
3月22日、東工大 中分子IT創薬研究推進体(MIDL)と川崎市産業振興財団は、文部科学省 地域イノベーション・エコシステム形成プログラム「IT創薬技術と化学合成技術の融合による革新的な中分子創薬フローの事業化」キックオフシンポジウムを川崎市産業振興会館ホールにて開催しました。バイオ・製薬企業等の企業、金融機関・ベンチャーキャピタル、公的研究機関、自治体・財団、大学などから228名の参加がありました。
「IT創薬技術と化学合成技術の融合による革新的な中分子創薬フローの事業化」は、東工大が保有するIT技術を利用した創薬支援(IT創薬)と化学合成技術等の融合による革新的な中分子創薬事業フローを構築し、川崎市殿町国際戦略拠点「キングスカイフロント」を中心とした川崎市内企業等との産学官連携により進めています。基礎・基盤研究と創薬事業を橋渡しするイノベーション・エコシステムを形成することで、我が国における中分子創薬の開発効率を大幅に向上させることを目的とする文部科学省による補助事業です。
本キックオフシンポジウムは、2017年に採択された文部科学省 地域イノベーション・エコシステム形成プログラム「IT創薬技術と化学合成技術の融合による革新的な中分子創薬フローの事業化」(実施機関:東京工業大学、川崎市)の取り組みを広く社会に発信することを目的として開催されました。
冒頭の挨拶では、主催者を代表して、本学の屋井鉄雄副学長と、川崎市産業振興財団の曽禰純一郎理事長からそれぞれ本事業の取組への抱負が述べられました。
本事業のコア技術を推進する事業化プロジェクトについて、本学 情報理工学院の秋山泰教授からプロジェクト概要説明がなされ、創薬研究における第2のパラダイムシフトについての説明、事業化までの進め方、および殿町地区における交流機会の促進を狙いとすることなどが示されました。
続いて、秋山教授は、事業化プロジェクト1について中分子IT創薬技術のターゲットがペプチド創薬における細胞膜透過性や体内持続性の向上であることを示し、計算機技術、特にTSUBAME3.0を活用した大規模並列計算や拡張サンプリング法によって計算スピードの加速が期待されることなど同プロジェクトの狙いについて述べました。
事業化プロジェクト2を担う、本学 生命理工学院の清尾康志准教授からは、同プロジェクトでは、多様な修飾が可能となる人工核酸ライブラリー技術の構築を進展させていくことが述べられました。また、人工核酸技術についての現状と問題点、特に副作用や有効性の対策として、独自に開発したin silico(インシリコ、計算機実験による)技術によって副作用や毒性予測の仕組みへの応用を目指していくと抱負を語りました。
川崎市産業振興財団の進照夫 ライフサイエンスチーフコーディネータからは、「中分子×IT×創薬ビジネス研究会」の紹介と、第1回を2018年2月に開催した旨の説明があり、次回以降の参加が呼びかけられました。
パネルディスカッションでは、本学 環境・社会理工学院の仙石慎太郎准教授の進行により、基調講演者である舛屋氏、矢野氏に加え、日本製薬工業協会 医薬産業政策研究所の戸邊雅則主任研究員、MPO株式会社の天野徹也代表取締役社長がパネリストに加わりました。戸邊氏、天野氏からの個別報告をパネルディスカッションの冒頭に実施したのち、「中分子創薬ビジネスの将来展望」をテーマに、創薬の研究開発におけるITへの期待や中分子創薬の現状と課題、ビジネスにするために必要なことなどについて討論されました。会場からの質問も交えて、活発な意見交換がなされました。
閉会に当たっては、川崎市産業振興財団の河野裕副事業プロデューサーより、事業成功へ向けた期待と関係者への協力のお願いが述べられました。
キックオフシンポジウム終了後には情報交換会が開催され、100名弱の参加者らと登壇者らが活発に情報交換会を行いました。今後、川崎市殿町地区を中心に、交流が広がっていくことが期待されます。
情報交換会の様子
中分子IT創薬研究推進体(MIDL)は、東京工業大学における独自の組織である「イノベーション研究推進体」の一つとして、2017年9月に設置されました。
今日における創薬研究開発では、情報科学・ITが欠かせない状況ですが、既存の支援システムは低分子化合物用に開発されていたため、中分子創薬には適用できません。MIDLでは、これらを解決する新たなシミュレーション技術や中分子設計手法を開拓し、実験研究者と密接に協力して、中分子創薬の開発現場における実証評価を進めています。
また、本学が保持するペプチドや核酸に優れた合成技術に対して、情報技術の支援を行い、中分子創薬における実用化を目指します。
中分子創薬では、例えば細胞内のタンパク質間相互作用(PPI)の阻害が可能になるなど、従来の低分子創薬とは異なる標的分子を狙うことも可能になります。計算と実験の協働によるPPIの網羅的予測法や、未知の標的分子の実験的な同定技術の開発なども併せて行っています。