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【研究室紹介】刑部研究室

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2021.10.27

  生命理工学系にはライフサイエンスとテクノロジーに関連した様々な研究室があり、基礎科学と工学分野の研究のみならず、医学や薬学、農学等、幅広い分野で最先端の研究が活発に展開されています。 研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、ゲノム編集技術と植物の環境ストレス応答について研究する、刑部祐里子研究室です。

生命理工学コース
教授 刑部 祐里子別窓

キーワード ゲノム編集、遺伝子工学、植物環境応答

研究紹介

  私たちの研究室では、様々な生物機能改変に関わるゲノム編集技術開発の基盤技術開発と、植物の環境ストレス耐性機構の解明研究を進めており、特に環境変動に対応した植物の分子育種研究を推進しています。

Cas9-sgRNA-DNA複合体の構造. (Nishimasu et al. 2014 Cellより引用改変)

Cas9-sgRNA-DNA複合体の構造.
(Nishimasu et al. 2014 Cellより引用改変)

TiD (Cas7d) -sgRNA-DNA複合体の分子
動力学シミュレーション解析 (Osakabe et
 al. 2021 Nucleic Acid Researchより)

TiD (Cas7d) -sgRNA-DNA複合体の
分子 動力学シミュレーション解析
(Osakabe et al. 2021 Nucleic Acid Researchより)

図1. ゲノム編集技術CRSIPR-Cas9とCRISPR-Cas type I-D (TiD).

図2. ゲノム編集によるSlIAA9トマト変異体の作製.
トマトIAA9遺伝子を標的としたゲノム編集による
単為結果性(人工授粉無しに結実する形質) を示す
変異個体の作製 (Osakabe et al., 2020 Comm. Biol. より).

図2. ゲノム編集によるSlIAA9トマト変異体の作製.
トマトIAA9遺伝子を標的としたゲノム編集による
単為結果性(人工授粉無しに結実する形質) を示す
変異個体の作製 (Osakabe et al., 2020 Comm. Biol. より).

  ゲノム編集とは、任意の標的配列を特異的に切断する人工ヌクレアーゼを用いることにより、微生物から高等真核生物までの幅広い範囲の生物ゲノム・RNAに対して、標的配列特異的に変異を導入することで遺伝子の機能を改変する技術です。近年、ゲノム編集の応用研究が大きく進歩し、難病の克服を目指した遺伝子・細胞治療などの医療・創薬分野や、生物資源を活用する様々な産業、農畜産業での新しい有用品種開発など、様々な分野で広く活用されようとしています。ゲノム編集に広く利用されるCRISPR-Cas9は、微生物の獲得免疫システムの一つであり、標的DNA切断に機能するCas9と、標的DNA配列の認識に機能する20塩基のRNA分子(標的DNAと相補的なRNA)により構成されています。私たちは、微生物に存在する多様なCRISPR-Casの中から、これまで機能が不明だったシアノバクテリアMicrocystis aeruginosa (ミクロシスティス・エルギノーサ)のCRISPR-CasタイプI-Dに注目し、標的の認識やDNA切断活性を明らかにすることでゲノム編集ツールとして利用できることを見いだしました。このシステムを”TiD”と名付け、植物細胞や動物細胞での変異様式の解明と変異導入の効率化を目指した詳細研究を進めています。

図3. 植物の水分ストレス応答と耐性の分子メカニズムの解明

図3. 植物の水分ストレス応答と耐性の分子メカニズムの解明

  移動することが出来ない植物にとって外界環境の感知は生命維持に重要であり、特に水分は植物の生存や生産性に大きく影響します。植物体内における水環境の感知と防御のための応答反応は重要であり、植物は進化の過程でその応答反応を発達させています。気孔開閉は特に、水分ストレスと光合成とのバランスを制御しています。水分欠乏センサーにより感受されたシグナル伝達の下流では、植物ホルモンの生合成、転写因子や膜局在性輸送体の活性化、重要な代謝経路の調節など様々な制御が行われ環境条件に応じて機能調節し、悪環境に対し生存できるように柔軟に対応しています。私たちは、環境応答における重要な機能タンパク質の新たな役割について解明を進めており、ストレス環境に対する植物の柔軟で精巧な生存戦略を明らかにすることを目指しています。ゲノム編集などの新しい遺伝子工学技術により、環境応答分子機構の解明研究から得られた知見を作物の分子育種に活用する応用研究を進めています。環境ストレス耐性を付与した有用な作物の作出が可能となると期待できます。

研究成果

  • 代表論文
  1. 1.Osakabe, K., Wada, N., Murakami, E., Miyashita, N., Osakabe, Y. (2021) Genome editing in mammalian cells using the CRISPR type I-D nuclease. Nucleic Acids Res. 49, 6347. doi: 10.1093/nar/gkab348.
  2. 2.Abe-Hara, C., Yamada, K, Wada, N., Ueta, R., Hashimoto, R., Osakabe, K., Osakabe, Y. * (2021) Effects of the sliaa9 mutation on shoot elongation growth of tomato cultivars. Front Plant Sci. 12, 627832. doi: 10.3389/fpls.2021.627832.
  3. 3.Osakabe, K.*, Wada, N., Miyaji, T., Murakami, E., Marui K., Ueta, R., Hashimoto, R., Abe-Hara, C., Kong, B., Yano, K., Osakabe, Y.* (2020) Genome editing in plants using CRISPR type I-D nuclease. Communications. Biol. 3, 648. *Corresponding authors.
  4. 4.Wakabayashi, T., Hamana, M., Mori, A., Akiyama, R., Ueno, K., Osakabe, K., Osakabe, Y., Suzuki, H., Takikawa, H., Mizutani, M., Sugimoto, Y. (2019) Direct conversion of carlactonoic acid to orobanchol by cytochrome P450 CYP722C in strigolactone biosynthesis. Science Advances, 5, eaax9067
  5. 5.Toda E, Koiso N, Takebayashi A, Ichikawa M, Kiba T, Osakabe K, Osakabe Y, Sakakibara H, Kato N, Okamoto T (2019) An efficient DNA- and selectable-marker-free genome-editing system using zygotes in rice. Nature Plants, 5, 363-368.
  6. 6.Osakabe, Y. *†., Liang, Z., Ren, C., Nishitani, C., Osakabe, K., Wada, M., Komori, S., Malnoy, M., Velasco, R., Jung, M-H., Koo, O-J., Viola, V., and Kanchiswamy, C.N*. (2018) CRISPR/Cas9 mediated genome editing in Apple and Grapevine. Nature Protocols, 13, 2844-2863. *Corresponding authors, Equally contribution
  7. 7.Takahashi, F., Suzuki, T., Osakabe, Y., Betsuyaku, S., Kondo, Y., Dohmae, N., Fukuda, H., Yamaguchi-Shinozaki, K., Shinozaki, K. (2018) A small peptide modulates stomatal control via abscisic acid in long distance signalling. Nature, 556, 235–238.
  8. 8.Li, W., Nguyen, K., Chu, H.D., Ha, C.V., Watanabe, Y., Osakabe, Y., Leyva-González, M., Sato, M., Toyooka, K., Voges, L., Tanaka, M., Mostofa, M.G., Seki, M., Seo, M., Yamaguchi, S., Nelson, D.C., Tian, C., Herrera-Estrella, L., Tran, L-S (2017) The karrikin receptor KAI2 promotes drought resistance in Arabidopsis thaliana. PLoS Genetics, 13(11): e1007076.
  9. 9.Nishitani, C., Hirai, N., Komori, S., Wada, M., Okada, K., Osakabe, K., Yamamoto, T., and Osakabe, Y. * (2016) Efficient Genome Editing in Apple Using a CRISPR/Cas9 system. Sci. Reports, 6, 31481, doi:10.1038/srep31481 *Corresponding author
  10. 10.Osakabe, Y. *., Watanabe, T., Sugano, SS., Ueta, R., Ishihara, R., Shinozaki, K., and Osakabe, K. (2016) Optimization of CRISPR/Cas9 genome editing to modify abiotic stress responses in plants. Sci. Reports, 6, 26685. *Corresponding authors
  11. 11.Osakabe, Y*., Osakabe, K., Shinozaki, K., and Tran, L-S* (2014) Response of plants to water stress. Frontiers in Plant Sci., 5: 86. doi:10.3389/fpls.2014.00086
  12. 12.Osakabe, Y*., Yamaguchi-Shinozaki, K., Shinozaki, K., and Tran, L-S*. (2014) ABA control of plant macroelement membrane transport systems in response to water deficit and high salinity. New Phytol., 202, 35-49. DOI: 10.1111/nph.12613 *Corresponding authors
  13. 13.Osakabe, Y., Arinaga, N., Umezawa, T., Katsura, S., Nagamachi, K., Tanaka, H., Ohiraki, H., Yamada, K., Souk, S., Abo, M., Yoshimura, E., Shinozaki, K., and Yamaguchi-Shinozaki, K. (2013) Osmotic stress response and plant growth controlled by the potassium transporters in Arabidopsis. Plant Cell, 25, 609-624.
  14. 14.Osakabe, K. Osakabe, Y., and Toki, S. (2010) Site-directed mutagenesis in Arabidopsis using custom-designed zinc finger nucleases. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 107 12034-12039.
  15. 15.Osakabe, Y., Mizuno, S., Tanaka, H., Maruyama, K., Osakabe K, Todaka, D., Fujita, Y., Kobayashi M, Shinozaki, K., and Yamaguchi-Shinozaki, K. (2010) Overproduction of a membrane-bound receptor-like protein kinase1, RPK1, enhances abiotic stress tolerance of Arabidopsis. J. Biol. Chem., 285, 9190-9201.
  16. 16.Sakuma, Y., Maruyama, K., Qin, F., Osakabe, Y., Shinozaki, K., and Yamaguchi-Shinozaki, K. (2006) Dual function of an Arabidopsis transcription factor DREB2A in water-stress- and heat-stress-responsive gene expression. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103, 18822-18827.
  17. 17.Osakabe, Y., Maruyama, K., Seki, M., Satou, M., Shinozaki, K., Yamaguchi-Shinozaki, K. (2005) Leucine-rich repeat receptor-like kinase1 is a key membrane-bound regulator of abscisic acid early signaling in Arabidopsis. Plant Cell, 17, 1105-1119.
  • 主な和文総説および著書
  1. 1.刑部祐里子、篠崎和子「植物の乾燥と高塩ストレス応答と耐性の獲得」化学と生物, 日本農芸化学会 (2006) 44巻, 4号, 265-271.
  2. 2.刑部敬史、刑部祐里子、土岐精一「人工制限酵素を利用した高等植物における標的遺伝子特異的改変技術の開発」バイオインダストリー (2011) 28巻, 6号, 53-57.
  3. 3.刑部敬史、刑部祐里子、土岐精一「高等植物において特定の遺伝子だけを標的として破壊する技術」化学と生物 (2011) 9, 592-594
  4. 4.刑部敬史、刑部祐里子、土岐精一 (2012)「シロイヌナズナの部位特異的変異導入法」形質転換プロトコル(植物編) (バイオサイエンス アドバンスドマニュアルシリーズ) 編(分担執筆)、東京化学同人編集部, 372-379.
  5. 5.刑部敬史、刑部祐里子「人工エンドヌクレアーゼを利用した高等植物ゲノム改変技術の新展開」細胞工学 (2013) 5, 520-525.
  6. 6.刑部祐里子「植物の水環境の感知メカニズムとカリウムイオン輸送」バイオサイエンスとインダストリー(B&I)(2013)71, 520-524.
  7. 7.刑部祐里子、菅野茂夫、刑部敬史(2015)「人工ヌクレアーゼを用いた植物の遺伝子変異導入技術への応用展開」進化するゲノム編集技術(分担執筆)真下知士、城石俊彦監修, エヌ・ティー・エス, 229-233 10月
  8. 8.安本周平、關光、刑部祐里子、刑部敬史、村中俊哉 (2015)「第11章 植物でのゲノム編集」論文だけではわからないゲノム編集成功の秘訣Q&A, (分担執筆)山本卓編集、羊土社、228-244、11月
  9. 9.刑部祐里子、刑部敬史「第2章 4. 植物ゲノム編集の最新展開-分子育種の新技術を目指して-」「All Aboutゲノム編集」真下知士編集, 実験医学増刊 (2016) 34, 3356-3362 (104-110) 羊土社.
  10. 10.刑部祐里子、刑部敬史 (2018) 「第III部18章 ゲノム編集」基礎から学ぶ植物代謝生化学(分担執筆)士反伸和、水谷正治、杉山暁史編集、羊土社、308-313、12月
  11. 11.刑部祐里子、原千尋、橋本諒典、宮地朋子、刑部敬史 (2019) 「第2章17 植物でのゲノム編集」完全版ゲノム編集実験スタンダード (実験医学別冊) (分担執筆)山本卓、佐久間哲史編集、羊土社、282-295、12月
  12. 12.刑部祐里子「植物におけるゲノム編集技術と応用の最新展開」生化学 (2020) 92, 3, 462-466.
  13. 13.宮地朋子、刑部祐里子* (2021) 「植物ゲノム編集の効率化を目指した発現制御と導入技術」ゲノム編集食品―農林水産分野への応用と持続的社会の実現, 第3章 導入技術の進歩, 田部井豊 監修, エヌ・ティー・エス、46-51、2月
  14. 14.和田直樹、刑部祐里子、刑部敬史 (2021)「高等動植物に利用可能な新規ゲノム編集ツールの開発」 最新のゲノム編集技術と用途展開, シーエムシー, 山本卓監修, 60-67、2月

教員紹介

  • 学歴
1990年 東京農工大学大学農学部 卒業
1992年 東京大学大学院 農学系研究科 修士課程 修了
1996年 東京農工大学大学院連合農学研究科後期博士課程 修了 博士(農学)取得
  • 職歴
1996年-1999年 米国ミシガン州ミシガン工科大 博士研究員
2000年-2006年 独立行政法人国際農林水産業研究センター 特別研究員
2006年-2011年 東京大学大学院農学生命科学研究科 講師
2011年-2014年 国立研究開発法人理化学研究所 研究員
2015年-2016年 徳島大学 特任准教授
2016年-2020年 徳島大学 准教授
2020年-2021年 徳島大学 教授
2021年- 現職
  • 受賞
2016〜2020年 Clarivate Analyticsによる高被引用論文著者に選出 (Highly Cited Researchers 2016 - 2020 『論文の引用分析による世界で影響力の高い科学者2016』 から2020年まで毎年受賞)
2019年 徳島大学 康楽賞受賞
  • 所属学会

日本分子生物学会、日本農芸化学会、日本ゲノム編集学会、日本植物生理学会、日本植物学会、日本植物バイオテクノロジー学会

学生へのメッセージ

  刑部祐里子研究室は、2021年4月より開始した新しいラボです。私たちが進めているゲノム編集技術および植物の環境応答分子メカニズムの基礎研究に加えて、最新の遺伝子工学による分子育種や周辺技術開発研究を通し、環境変動下における食糧危機や難病治療など様々な社会問題の解決にチャレンジする生命科学の重要さと面白さがあると思います。なぜ・なにを追求する精密な科学の世界と、不思議・面白いを追求する感性の世界が融合した先に新しい発見が隠れています。生命原理に挑む日々の研鑽を積み上げ新しい研究・技術の世界を作り上げること、そして、その先に待っている社会に役立てられる瞬間を一緒に体験しましょう。

お問い合わせ先

刑部 祐里子 教授 

すずかけ台キャンパス J2棟 1011号室

E-mail : osakabe.y.ab@m.titech.ac.jp

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