生命理工学系 News

瀧ノ上研究室 ―研究室紹介 #60―

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2019.05.22

准教授 瀧ノ上研究室

生命理工学コース
准教授 瀧ノ上 正浩別窓

キーワード 人工細胞・人工細胞核、DNAナノテクノロジー、生物物理、ソフトマター、分子ロボティクス、合成生物学、マイクロ流体工学
WEBサイト 瀧ノ上 研究室

研究紹介

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 生命システムは我々の宇宙の中で最も複雑なシステムの一つです。生命システムには、非生命の単純な物質システムにはないダイナミックな自律性、思いもよらない機能の創発、さらには知性(情報処理)など、興味深い豊かで複雑な時空間秩序現象が見られます。生命システムは複雑ではあるけれども、非生命の物質システムと同様に分子などの通常の物質系からできており、材料的には本質的な違いはありません。それでは、非常に多様な種類の分子を混ぜて、小さな容器の中に閉じ込めたら、それは生命システムになるのでしょうか。おそらく、部分的には生命システムの持つ機能を再現することができますが、これだけでは生命システムそのものにはならないでしょう。その違いは何なのか、両者の境界は何なのか、ということを明らかにしていくこと、および、その過程で得られた原理を応用して新しい科学技術を生み出していくことが当研究室の研究テーマの根底にあります。

 現在、生命システムに見られる自己組織化や自律性を備えた複雑な現象の原理を解読し、それらの機能を取り入れた人工分子システムを構築することは、基礎科学的にも工学的にも究極的な目標の一つです。このような観点から、当研究室は、生命システムのような非平衡下で動的に自己組織化するシステムの構築原理の解明と、設計・構築・制御手法の構築をめざして研究を進めています。

 具体的には、生体高分子やソフトマターを材料として生命システムのような複雑な生体分子システム(人工細胞、人工細胞核)や分子情報デバイス(DNAメモリ、DNAコンピュータ、分子ロボット)を創成しています。このような研究を通して、生命とは何か探求したり、生命システムを情報学的・物理学的な視点で考えたり、また、創り出された分子システムの応用により、他の分野への貢献を目指したりしています。このような分子システムを創り、理解するための手法として、近年、非常に発展しているDNA/RNAナノテクノロジーや、超精密科学を支えている微細機械工学(MEMS、マイクロ流体工学)、および、ソフトマターの生物物理学を利用しています。近年の研究成果には以下のようなものがあります。

(1)DNAゲルの相転移・相分離によるDNAマイクロ構造・液滴の構築

 本研究では、Y字型のDNAナノ構造をネットワーク状に会合させてDNAでできたゲルを構築しています。今までの研究で、DNAゲルは液滴のような振る舞いを見せることが分かってきました。近年、実際の細胞の中で、核酸やタンパク質の相分離の研究が進展し、生命機能に深く関わっていることが分かってきました。本研究では、DNAゲルをそのモデル系として探求するとともに、人工細胞や人工細胞核・人工染色体への応用を目指しています。(オリジナル論文[1])

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(2) DNAオリガミナノプレートによる人工細胞の構築

 DNAオリガミは、長鎖の一本鎖DNAを多数の短鎖の一本鎖DNAのハイブリダイゼーションによって、クリップ留めするようにフォールドさせて、約 100 nm × 100 nm のサイズの様々なDNAナノ構造を自由に構築する技術です。この研究では、DNAオリガミを利用した分子ナノテクノロジーや、界面のソフトマター物理学の研究を行っています。この技術を利用し、DNAオリガミを膜とする人工細胞膜の構築を行っています。膜がDNAナノ構造でできているので、DNAナノ構造の形状や機能をデザインするだけで、膜カプセル自体の性質をコントロールすることができるため、機能性カプセルの開発や細胞型の分子ロボットの構築に利用できると考えています。(オリジナル論文[2])

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(3) 人工細胞を頑強にする DNA 人工細胞骨格の構築

 人工細胞を頑強にする DNA 人工細胞骨格:我々の体を構成する細胞は、細胞骨格と呼ばれるネットワーク構造により非常に安定になっています。リポソームは薬の輸送用カプセルや化粧品の材料として使われてきましたが、細胞骨格のような構造が無いため、わずかな刺激により壊れてしまう問題がありました。本研究では、DNAナノテクノロジーによってDNAゲルでできた人工的な細胞骨格を作製し、リポソームの裏打ち構造として利用しました。この人工細胞骨格を持つリポソームは、従来の骨格を持たないリポソームが壊れてしまうような刺激に対しても崩壊せず、その形を維持しました。リポソームの耐久性を高めることは、薬用カプセルや化粧品などへ応用する上での最も大きな課題でしたが、今回の成果によりこの問題が克服される可能性があります。(オリジナル論文[3])

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(4) 人工細胞型の非平衡開放系リアクタの構築と制御

  マイクロ流体システムによる細胞サイズの非平衡開放系微小反応リアクタを構築しました。細胞サイズの体積(∼ピコリットル)の反応溶液で、物質の供給と散逸をコンピュータで動的に制御できる、より細胞システムに近い非平衡状態を実現しました。分子反応制御とコンピュータ制御によるハイブリッド型人工細胞の構築も目指しています。(オリジナル論文[4])

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研究成果

オリジナル論文

  1. [1]佐藤 佑介, 瀧ノ上 正浩, "配列設計と相転移に基づいたDNAマイクロ構造の構築と制御",化学とマイクロ・ナノシステム, 18(1), 24-27, (2019).
  2. [2]D. Ishikawa, Y. Suzuki, C. Kurokawa, M. Ohara, M. Tsuchiya, M. Morita, M. Yanagisawa, M. Endo, R. Kawano, *M. Takinoue, "DNA Origami Nanoplate-Based Emulsion with Designed Nanopore Function", ChemRxiv, Preprint. DOI: 10.26434/chemrxiv.7046495.v1 link
  3. [3]C. Kurokawa, K. Fujiwara, M. Morita, I. Kawamata, Y. Kawagishi, A. Sakai, Y. Murayama, S.-i. M. Nomura, S. Murata, *M. Takinoue, *M. Yanagisawa, "DNA cytoskeleton for stabilizing artificial cells", Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 114(28), 7228-7233, (2017). doi: 10.1073/pnas.1702208114. link  Press release: [Japanese] [English]
  4. [4]H. Sugiura, M. Ito, T. Okuaki, Y. Mori, H. Kitahata, *M. Takinoue, "Pulse-density modulation control of chemical oscillation far from equilibrium in a droplet open-reactor system", Nature Commun., 7, 10212, (2016). DOI: 10.1038/ncomms10212 link  Press release: [Japanese] [English]

レビュー論文

  1. [5]*Y. Sato, *M. Takinoue, "Creation of artificial cell-like structures promoted by microfluidics technologies", Micromachines, Vol.10(4), 216, (2019), DOI: 10.3390/mi10040216
  2. [6]瀧ノ上正浩, "生体内で働く分子ロボットの実現へ:情報媒体としてのDNA分子とDNAコンピューティング", 情報管理(JST), vol. 60, no. 9, pp. 629-640 (2017). DOI: 10.1241/johokanri.60.629
  3. [7]M. Takinoue, *S. Takeuchi, "Droplet microfluidics for the study of artificial cells", Anal. Bioanal. Chem., vol. 400, pp. 1705-1716 (2011). DOI: 10.1007/s00216-011-4984-5

教員紹介

瀧ノ上 正浩 准教授

  • 学歴・職歴
2002年 東京大学理学部物理学科 卒業
2007年 東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 修了 博士(理学)取得
        
2007-2008年 日本学術振興会特別研究員(PD)
2008-2009年 京都大学大学院理学研究科物理学第一教室 博士研究員
2009-2011年 東京大学生産技術研究所 特任助教
2011-2015年 東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻 講師
2015-2016年 同専攻 准教授
2016年-現在 東京工業大学情報理工学院情報工学系 准教授(現職)
2018年-現在 同大生命理工学院生命理工学系 副担当
2011-2015年 JSTさきがけ「細胞機能の構成的な理解と制御」 研究者(兼任)
2013年 お茶の水女子大学理学部非常勤講師(兼任)
2018年 École Normale Supérieure, Paris, France 招聘教授(兼任)
  • 受賞
2013年 平成25年度「東工大挑戦的研究賞」学長特別賞受賞
2017年 平成28年度「東工大の星」授与
2017年 平成29年度 文部科学大臣表彰 若手科学者賞受賞
所属学会
生物物理学会、化学とマイクロ・ナノシステム学会、「細胞を創る」研究会、分子ロボティクス研究会

教員からのメッセージ

瀧ノ上准教授より
学生の頃から、物理学も生物学も情報科学も好きで、それらがちょうど重なったところで常に生きてきました。生命とは、情報を持ち情報を自ら操作できる物質システム(生命=物質+情報)であり、研究には異分野融合が本質的に重要です。生命理工学院はまさにこのような異分野融合によって、チャレンジ精神旺盛な学生・教員が新しい研究分野を作り続けているところです。現在異端である萌芽的な研究は10年後には最先端の研究になります。チャレンジ精神を持つ学生の皆さんと一緒に、異端であることを目指し、今後も新しい学問を切り拓いて行きたいと思っています。

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