生命理工学系 News
脳神経の謎と可能性を探る
生命理工学系にはライフサイエンスとテクノロジーに関連した様々な研究室があり、基礎科学と工学分野の研究のみならず、医学や薬学、農学等、幅広い分野で最先端の研究が活発に展開されています。
研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、脳画像解析(MRI)を用いて研究し技術開発につなげてゆく、赤間啓之研究室です。
ライフエンジニアリングコース
准教授 赤間啓之
キーワード | 脳画像解析(fMRI)、機械学習、複雑ネットワーク、計算神経言語学 |
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Webサイト | 赤間啓之研究室 |
赤間研はMRI(磁気共鳴画像法)を利用した脳神経科学の研究をしています。特に多ヴォクセルパターン解析(Multi-voxel pattern analysis, MVPA)と呼ばれる、機械学習の脳機能的磁気共鳴画像法(fMRI)への応用を行っています。MVPAは人間の脳の心理的・生理的状態を「読む」技術として、意思表明が困難な障碍を持つ人々への支援を目標に、基礎研究が盛んに行われています。
赤間研では、直接的な生命現象以外の情報から、生命現象としての脳神経の反応を予測することはできないか、ということをテーマに脳磁気共鳴画像法(MRI)装置を用いて研究しています。人間の心を精確に読む、神経系をグラフ解析する、複雑な言語能力の根源を探るなど、脳画像解析(MRI)を利用した人間情報学の研究です。
脳神経反応の予測研究(脳データの機械学習)としては、赤間研はこれまで、ヒトが頭の中で考えている単語の推定や、バイリンガル話者が使っている言語の判別などで、有意かつ実用性に足るモデルを構築することができました。しかし重要な問題は個人差です。ヒトの反応は様々です。ヒトはそれぞれ違う事を違うように考えます。また脳神経の機能・構造にも微妙な個人差があります。特定の個人から得られた神経反応モデルを他の個人に適用しようとすると、判別精度が大きく落ち込みます。赤間研では、独自の素性選択法で、横断的な被験者「間」脳反応解読モデルの精度向上に成功しました。一人ひとりの有限性と個性に向き合い、少ない外部データ、短い神経科学実験時間でも、個人の神経・認知活動の充分なプロファイルを作成し、それをできるだけ他の個人の神経・認知活動の研究に再活用できるようにすることが、赤間研の究極の目標です。
特に赤間研は、ヒトの意味処理活動がピークで検出できるタイミングを網羅的に解析し、意味判別に関わる情報の時間変化について、それが個人差にかかわらず、血流動態を典型的に表すとされる基底関数と相同な機械学習精度関数を形作ることを突き止めました。
赤間研は、マルコフ逆F尺度(MiF)という新しいグラフ指標を提案し、それを小さな単語連想辞書に適用すると、言葉の意味を考える脳について、そのfMRI(機能的磁気共鳴画像法)反応予測モデルの精度が有意に向上することを解明しました。カーネギーメロン大学チームのScience論文(2008)以来、電子化された言語資料の集成(コーパス)をもとに、人間の脳がそれぞれの言葉の意味をどう処理して反応するか、個別の単語についてfMRIデータに現れるパターンを分類し推定する人工知能の手法が開発されてきました。fMRIデータの機械学習はMVPA(多変量パターン解析)と呼ばれますが、言語コーパスからの情報を変数としてモデル化すると、人間の脳がいまどんな言葉を考えているか、たとえfMRIデータがその言葉の反応情報を含んでいなくとも、言語コーパスの方から予測できます(いわゆる「心を読む」ことができるわけです)。これまでは、GoogleやWikipediaのような大規模知識資源を利用する場合が多かったのですが、簡単に計算できる極めて小さいコーパスからも精度の高い予測モデルを計算することは行われていませんでした。
この研究では、脳の意味処理をめぐってカーネギーメロン大学のfMRIデータに対し、非常に小さい単語連想辞書EATの意味ネットワークから計算したマルコフ逆F尺度(MiF)値行列を適用すると、脳の反応が、小さなコーパスサイズでも従来の方法より高い78%の精度で推定できることがわかりました。さらに、単語連想辞書の意味ネットワーク、すなわち単語と単語の間の概念の関連関係を表すネットワーク(グラフ)を、単語の意味処理を行う脳神経内の同時賦活ネットワーク(グラフ)に投影させる手法を提案し、異なるネットワーク(グラフ)間の関連性を解析する糸口を見出すことができました。
その他の研究成果はResearchGateをご覧ください。
1983年 | 東京大学 教養学部 卒業 |
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1992年 | パリ第I大学 パンテオン・ソルボンヌ校 博士課程 修了 Nouveau Doctoratを取得 |
1992年 - 1996年 | 東京工業大学 工学部 講師 |
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1996年 | 東京工業大学 工学部 助教授 |
1996年 - 2016年 | 東京工業大学 大学院社会理工学研究科 助教授(准教授) |
2003年 - 2004年 | ハワイ大学 言語学部 客員研究員 |
2016年より | 東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院(生命理工学院担当) 准教授 |
2003年 | 文理シナジー学会学術奨励賞 |
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2007年 | Pacific Asia Conference on Language, Information, and Computation-2007, Best Paper Award受賞 |
赤間研は主に磁気共鳴画像法(MRI)施設を利用し、ライフエンジニアリング、生命理工学の分野で脳神経科学の教育研究を行う研究室です。脳画像解析を中心とした研究を行いたい、そして英語で海外の研究者と国際交流できる意欲ある学生を歓迎します。脳神経科学は、多様な学問分野の融合の形で成立しており、現代の知の総合的体系と言って過言ではありません。赤間研では脳画像解析に必要な様々なプログラミング言語の個別指導を行いますが、学生諸君は、幅広く、様々な学問分野にチャレンジしてください。特に、線形代数、確率・統計、実験計画法に関する基礎学力を学部のうちに身につけることが重要です。
准教授 赤間啓之
大岡山キャンパス 西9号館 614号室
E-mail : akama@dp.hum.titech.ac.jp
※この内容は掲載日時点の情報です。最新の研究内容については研究室サイトをご覧ください。