生命理工学系 News

【研究室紹介】 蒲池研究室

金属イオンの生体内での機能解明 ~生物無機化学~

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2017.03.16

生命理工学系にはライフサイエンスとテクノロジーに関連した様々な研究室があり、基礎科学と工学分野の研究のみならず、医学や薬学、農学等、幅広い分野で最先端の研究が活発に展開されています。

研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、微生物を用いた有用物質生産、金属ポルフィリンを用いた細胞内酸素濃度イメージング、エネルギー変換などについて研究する、蒲池研究室です。

准教授 蒲池利章

生命理工学コース
教授 蒲池利章別窓

キーワード 生物無機化学 / 光エネルギー変換 / 細胞内酸素濃度イメージング
Webサイト 蒲池研究室別窓

研究紹介

生物無機化学 ~生物の中で働く金属イオン~

生物学は一般的に有機化学と関連した分野です。しかし、金属イオンも生体内の反応に必須です。例えば、呼吸・代謝・窒素固定・光合成・神経伝達など、多くの重要な生体反応で金属イオンが関わっています。生物無機化学は、このような生命過程にとって重要な金属イオンを対象とする研究分野であり、生物学と無機化学の境界領域の学問です。

例えば、人の血液中で酸素を運搬しているのは、赤血球中に含まれるヘモグロビンという鉄イオンを含む金属タンパク質です。鉄イオンはヘムと呼ばれる赤色を呈する色素をして含まれています。酸素分子は、このヘムの鉄イオンに結合することでヘモグロビンに結合し、血液中を運搬されます。貧血になったときに鉄イオンを多く含む食べ物を食べたり、鉄イオンを含む薬を服用するのはこのためです。

当研究室では金属タンパク質および金属化合物を対象として、微生物を用いたタンパク質・遺伝子工学実験、細胞内酸素濃度イメージング、新規ポルフィリン化合物の有機合成など、多岐に渡る研究を行っています。

  • 金属タンパク質を利用した有用物質生産

金属タンパク質には、生体内で起こる化学反応の触媒として機能するものが多く存在し、これらを酵素と呼びます。例えば、ヒドロゲナーゼというニッケルイオンと鉄イオンを含む酵素は、水から水素を生産することができます。また、メタンモノオキシゲナーゼという鉄イオンや銅イオンを含む酵素は、気体であるメタンを液体であるメタノールへ変換することができます。これらの酵素と光エネルギーを吸収する色素やタンパク質などを組み合わせることで、植物の光合成のように光エネルギーを用いた有用物質の生産が可能となります。また、これらの酵素を持つ微生物に遺伝子工学的な手法を用いることで、酵素の機能を向上させたり、改変させたりする研究にも取り組んでいます。

光エネルギーを用いたメタンからメタノール生産

光エネルギーを用いたメタンからメタノール生産

  • 細胞内酸素濃度イメージング

好気呼吸を行う生物では、細胞内のミトコンドリアで酸素を消費しながら、生体内でのエネルギーであるATPを合成しています。細胞内では酸素濃度は均一ではなく分布があり、これを顕微鏡で直接イメージングする研究に取り組んでいます。酸素濃度イメージングは、白金イオンを含む色素を細胞内に取り込ませ、この色素からのリン光を検出して行います。この色素は酸素の量に応答してリン光の寿命が変化するため、イメージング画像では酸素濃度が高いと赤色、低いと青色となるような疑似カラーで表示しています。その結果、一細胞内で酸素濃度の分布が観測され、さらに外部の酸素濃度の変化に伴った細胞内酸素濃度変化も測定できました。現在は、白金イオンを含む新たな色素の開発や、薬剤などの様々な刺激を細胞に与えた時の酸素動態の解明に取組んでいます。

細胞内酸素濃度イメージング

細胞内酸素濃度イメージング

細胞内酸素濃度イメージング

研究成果

代表論文

  • [1] M. Tsukada, T. Nakashima, T. Kamachi, Y. Niwano, Prooxidative Potential of Photo-Irradiated Aqueous Extracts of Grape Pomace, a Recyclable Resource from Winemaking Process. PLoS ONE 11, e0158197 (2016).
  • [2] T. Haruyama, T. Namise, N. Shimoshimizu, S. Uemura, Y. Takatsuji, M. Hino, R. Yamasaki, T. Kamachi, M. Kohno, Non-catalyzed one-step synthesis of ammonia from atmospheric air and water. Green Chemistry 18, 4536-4541 (2016).
  • [3] H. Kurokawa, H. Ito, M. Inoue, K. Tabata, Y. Sato, K. Yamagata, S. Kizaka-Kondoh, T. Kadonosono, S. Yano, M. Inoue, T. Kamachi, High resolution imaging of intracellular oxygen concentration by phosphorescence lifetime. Sci. Rep. 5, 10657, (2015).
  • [4] T. Kobayashi, T. Yoshida, T. Fujisawa, Y. Matsumura, T. Ozawa, H. Yanai, A. Iwasawa, T. Kamachi, K. Fujiwara, M. Kohno, N. Tanaka, A metabolomics-based approach for predicting stages of chronic kidney disease. Biochem. Biophys. Res. Commun. 445, 412-416 (2014).
  • [5] Kudo, F.; Hoshi, S.; Kawashima, T.; Kamachi, T.; Eguchi, T., Characterization of a Radical S-Adenosyl-l-methionine Epimerase, NeoN, in the Last Step of Neomycin B Biosynthesis. J. Am. Chem. Soc. 2014, 136 (39), 13909-13915.
  • [6] Kobayashi, T.; Matsumura, Y.; Ozawa, T.; Yanai, H.; Iwasawa, A.; Kamachi, T.; Fujiwara, K.; Tanaka, N.; Kohno, M., Exploration of novel predictive markers in rat plasma of the early stages of chronic renal failure. Anal. Bioanal. Chem. 2014, 406 (5), 1365-1376.
  • [7] Ito, H.; Mori, F.; Tabata, K.; Okura, I.; Kamachi, T., Methane hydroxylation using light energy by the combination of thylakoid and methane monooxygenase. RSC Advances 2014, 4 (17), 8645-8648.
  • [8] Tabata, K.; Hida, F.; Kiriyama, T.; Ishizaki, N.; Kamachi, T.; Okura, I., Measurement of soil bacterial colony temperatures and isolation of a high heat-producing bacterium. BMC Microbiol. 2013, 13 (1), 56-62.
  • [9] Ito, H.; Kamachi, T.; Yashima, E., Specific surface modification of the acetylene-linked glycolipid vesicle by click chemistry. Chem. Commun. 2012, 48 (45), 5650-5652.
  • [10] Yamamura, T.; Suzuki, S.; Taguchi, T.; Onoda, A.; Kamachi, T.; Okura, I., Porphyrin arrays responsive to additives. Fluorescence tuning. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131 (33), 11719-11726.
  • [11] Saito, T.; Asakura, N.; Kamachi, T.; Okura, I., Oxygen concentration imaging in a single living cell using phosphorescence lifetime of Pt-porphyrin. J. Porphyr. Phthalocya. 2007, 11 (3-4), 160-164.
  • [12] Iida, S.; Asakura, N.; Tabata, K.; Okura, I.; Kamachi, T., Incorporation of unnatural amino acids into cytochrome c3 and specific viologen binding to the unnatural amino acid. ChemBioChem 2006, 7 (12), 1853-1855.
  • [13] Ihara, M.; Nishihara, H.; Yoon, K. S.; Lenz, O.; Friedrich, B.; Nakamoto, H.; Kojima, K.; Honma, D.; Kamachi, T.; Okura, I., Light-driven hydrogen production by a hybrid complex of a [NiFe]-hydrogenase and the cyanobacterial photosystem I. Photochem. Photobiol. 2006, 82 (3), 676-682.
  • [14] Ihara, M.; Nakamoto, H.; Kamachi, T.; Okura, I.; Maeda, M., Photoinduced hydrogen production by direct electron transfer from photosystem I cross-linked with cytochrome c3 to [NiFe]-hydrogenase. Photochem. Photobiol. 2006, 82 (6), 1677-1685.
  • [15] Asakura, N.; Kamachi, T.; Okura, I., Direct monitoring of the electron pool effect of cytochrome c3 by highly sensitive EQCM measurements. J. Biol. Inorg. Chem. 2004, 9 (8), 1007-1016.

主な総説

  • [1] Okura, I.; Kamachi, T., Application of porphyrins and related compunds as optical oxygen sensors. In Handbook of Porphyrin Science: with Applications to Chemistry, Physics, Materials Science, Engineering, Biology and Medicine (volumes 12), Kadish, K. M.; Smith, K. M.; Guilard, R., Eds. World Scientific: 2011; Vol. 12.
  • [2] 田畠健治; 蒲池利章, メタン高度化学変換技術集成(分担), 「膜結合型メタンモノオキシゲナーゼを利用したメタンからの環境低負荷型メタノール生産技術の開発」. シーエムシー: 2008; p 330-342.
  • [3] 蒲池利章; 大倉一郎, エコバイオエネルギーの最前線 -ゼロエミッション型社会を目指して-(分担). シーエムシー: 2005; p 294-298.
  • [4] 蒲池利章, 図解バイオ活用技術のすべて(東京工業大学生命理工学研究科編). 工業調査会: 2004; p 161-163.
  • [5] 蒲池利章; 大倉一郎, 最新酵素利用技術と応用展開. シーエムシー:2001; p 350-360.

教員紹介

蒲池利章 教授 工学博士

1995年 3月 東京工業大学 生命理工学研究科 バイオテクノロジー専攻 博士課程修了
1995 - 2001年 東京工業大学 大学院生命理工学研究科 助手
2001 - 2006年 東京工業大学 大学院生命理工学研究科 講師
2006 - 2007年 東京工業大学 大学院生命理工学研究科 助教授
2007 - 2010年 名古屋大学 大学院工学研究科 准教授
2010 - 2018年 東京工業大学 大学院生命理工学研究科 准教授
2018年より 現職
1995年 鎌田泉博士論文賞
2005年 文部科学大臣表彰若手科学者賞
2005年 東工大挑戦的研究賞
教育活動
学部:物理化学第二、バイオ機器分析、生物無機化学、酵素工学
大学院:生物物理学
所属学会
日本化学会、Society of Bioinorganic Chemistry、高分子学会、石油学会

教員からのメッセージ

蒲池教授より
各自が責任もって自分の研究を進められる人材を育てたいと思っています。
メリハリのある生活で、研究と自由な時間をともにエンジョイできると良いのではないでしょうか。
様々なことに興味を持つことができる人は、是非、研究室を見学に来てください。

お問い合わせ先

教授 蒲池利章
大岡山キャンパス 緑が丘6号館 301A号室
E-mail : tkamachi@bio.titech.ac.jp

※この内容は掲載日時点の情報です。最新の研究内容については研究室サイト別窓をご覧ください。

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