【研究室紹介】 増田研究室
生物の光環境適応機構の解明-生命活動は光が支え駆動している-
生命理工学系にはライフサイエンスとテクノロジーに関連した様々な研究室があり、基礎科学と工学分野の研究のみならず、医学や薬学、農学等、幅広い分野で最先端の研究が活発に展開されています。
研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、生物の光環境適応機構の解明を目指す、増田研究室です。
※増田教授は2023年4月1日に准教授から教授に昇任いたしました。
キーワード |
光生物学、光合成科学、植物生理学、微生物学 |
Webサイト |
増田研究室 |
研究紹介
地球における生命活動のエネルギー源は、ほぼ太陽の放射光に由来し、光合成はその根幹を支える反応です。光合成を通じて、光エネルギーが化学結合のかたちで有機化合物中に蓄えられ、それが多くの生物のエネルギー源となっているのです。したがって、光合成の調節機構の理解は、生物学的根本命題の一つと考えられます。
私たちは、光合成生物の環境適応機構を分子レベルで理解することを目標に研究を進めています。具体的には、植物や光合成細菌の光合成調節機構や(図1)、シアノバクテリアの光受容機構の解明(図2)などです。手法は生化学/分子生物学/遺伝学/分光学的解析が主ですが、基本的に、明らかにしたいことに対しては手段を選ばない、というスタンスで研究を行っています。
多くは基礎的研究ですが、それを基盤として、任意の遺伝子発現を光でON/OFFする技術、環境適応能力を強化した植物の開発(図3)も進めています。開発された技術は、様々な分野の研究に貢献できる可能性を秘めています。
図1:研究室で扱っている光合成生物と光受容体タンパク質の発表論文
図2:シアノバクテリアは光合成を効率良く行なうために、光の方向へプレート上を移動する。上は野生型(WT)、下はPixDと呼ばれる光受容体タンパク質を欠損した細菌で、逆に動いてしまう。
図3:本研究室で作成した組換え植物体は、通常条件下では、葉緑体のサイズは減少するが、個体は大きく育つ。この組換え体を窒素欠乏条件下にさらすと、緑色を保ち、光合成を継続した。
研究成果
代表論文
- [1] Masuda, S., and Tanaka, M. (2016) PICCORO: A technique for manipulating the activity of transcription factors with blue light. Methods Cell Biol. 135: 289-295.
- [2] Ihara, Y., and Masuda, S. (2016) Cytosolic ppGpp accumulation induces retarded plant growth and development. Plant Signal. Behav. 11:e1132966.
- [3] Maekawa, M., Honoki, R., Ihara, Y., Sato, R., Oikawa, A., Kanno, Y., Ohta, H., Seo, M., Saito, K., and Masuda, S. (2015) Impact of the plastidial stringent response in plant growth and stress responses. Nature Plants 1: 15167.
- [4] Tsukatani, Y., and Masuda, S. (2015) Elucidation of genetic backgrounds necessary for chlorophyll a biosynthesis toward artificial creation of oxygenic photosynthesis. Origins Life Evol. Biosph. 45: 367-369.
- [5] Ren, S., Sugimoto, Y., Kobayashi, T. and Masuda, S. (2015) Cross-linking analysis reveals the putative dimer structure of the cyanobacterial BLUF photoreceptor PixD. FEBS Lett. 589: 1879-1882.
- [6] Shimizu, T., Cheng, Z., Matsuura, K., Masuda, S. and Bauer C. E. (2015) Evidence that altered cis element spacing affects PpsR mediated redox control of photosynthesis gene expression in Rubrivivax gelatinosus. PLos ONE 10: e0128446.
- [7] Ihara, Y., Ohta, H. and Masuda, S. (2015) A highly sensitive quantification method for the accumulation of alarmone ppGpp in Arabidopsis thaliana using UPLC-ESI-qMS/MS. J. Plant Res. 128: 511-518.
- [8] Fujisawa, T., Takeuchi, S., Masuda, S. and Tahara, T. (2014) Signaling-state formation mechanism of a BLUF protein PapB from the purple bacterium Rhodopseudomonas palustris studied by femtosecond time-resolved absorption spectroscopy. J. Phys. Chem. B 118: 14761-14773.
- [9] Sato, R., Ohta, H. and Masuda, S. (2014) Prediction of respective contribution of linear electron flow and PGR5-dependent cyclic electron flow to non-photochemical quenching induction. Plant Physiol. Biochem. 81: 190-196.
- [10] Masuda, S., Nakatani, Y., Ren, S. and Tanaka, M. (2013) Blue light-mediated manipulation of transcription factor activity in vivo. ACS Chem. Biol. 8: 2649-2653.
- [11] Ren, S., Sato, R., Hasegawa, K., Ohta, H. and Masuda, S. (2013) A predicted structure for the PixD-PixE complex determined by homology modeling, docking simulation, and a mutagenesis study. Biochemistry 52: 1272-1279.
- [12] Masuda, S. (2013) Light detection and signal transduction in the BLUF photoreceptors. Plant Cell. Physiol. 54, 171-179.
主な日本語総説
- [1] 中里拓也、小笠原智也、増田真二 (2013) 植生分布で偏りが見られるルビスコ内アミノ酸置換の同定 光合成研究 23, 111-115.
- [2] 増田真二 (2011) 光合成細菌の光に依存したバイオフィルム形成機構 バイオサイエンスとインダストリー 69, 213-214.
- [3] 増田真二 (2010) 被子植物のプラスチドで形成されるプロラメラボディに関する新知見 生物物理 50, 36-37.
- [4] 増田真二 (2005) フラビンを発色団とする新規青色光受容体BLUFタンパク質の光反応と機能 生物物理 45, 308-313.
教員紹介
増田真二 准教授(理学博士)
2000年3月 |
東京都立大学大学院理学研究科生物学専攻博士課程修了
日本学術振興会特別研究員PD、インディアナ大学客員研究員、理化学研究所基礎科学特別研究員、東京工業大学生命理工学研究科生体システム専攻助手/助教を経て、2008年10月より現職 |
2009~2013年 |
科学技術振興機構さきがけ研究者 |
2013年より |
東京工業大学地球生命研究所協力研究員を兼任 |
2009年 |
日本植物生理学会奨励賞 |
2011年 |
東工大挑戦的研究奨励賞 |
- 教育活動
- 学部:生命科学基礎第一、植物生理学、光合成科学、生命倫理・法規
- 大学院:生物資源科学
- 所属学会
- 植物生理学会、生物物理学会、光合成学会
教員からのメッセージ
- 増田准教授より
-
研究は、誰も明らかにしていないことを明らかにする行為であるが故、その遂行には、独創的な考え方が元来必要です。
では、独創性を発揮するにはどうしたら良いのでしょうか。
答えは一つではなく、人それぞれ異なると私は思います。
ぜひ、学生時代の勉強や研究を通じて、独創性を発揮する術を自分なりに考えてみて下さい。
それが、今後どのような道に進むにせよ、役に立つと私は思っています。
※この内容は掲載日時点の情報です。最新の研究内容については研究室サイトをご覧ください。