機械系 News
東京工業大学とエイブリック株式会社(代表取締役社長:石合信正、本社:東京都港区、以下「ABLIC」)は、超小型衛星搭載用のオーロラ観測用紫外線カメラ"UVCAM"(図1)を共同開発しました。このカメラは東工大が開発した可変形状実証衛星「ひばり」に搭載し、宇宙航空研究開発機構(以下「JAXA」)の革新的衛星技術実証2号機の実証テーマとして、2021年10月1日に内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられる予定です。
紫外線カメラ"UVCAM"を搭載した可変形状実証衛星「ひばり」は、300~340 ナノメートルの近紫外線帯にて、衛星軌道上から北極・南極上空に現れるオーロラの紫外線発光を観測し、地球磁気圏と荷電粒子の相互作用などを観測します。
今回のプロジェクトは、紫外線での天体観測のための基礎実験として、紫外線に感度をもつ小型カメラ "UVCAM"をABLICと東工大で共同開発し、高度550~565 kmの宇宙空間から高層大気からの輝線放射や高緯度地域上空のオーロラからの紫外線などを計測します。
東工大 理学院 河合・谷津研究室では、マルチメッセンジャー時間領域天文学のための飛翔体搭載観測装置の研究開発を2012年から行っており、特に地上からは観測のできない高エネルギー放射を捉えることをテーマに研究を進めてきました。例えば、超新星や重力波現象の様に瞬間的に莫大なエネルギーが放出されると、天体表面の温度は瞬時に加熱され、紫外線や軟X線などで光り輝くと考えられています。爆発の瞬間に放射される紫外線をいち早く探索することで未知の天体現象を探し出すために、独自の紫外線天文衛星の開発を計画していましたが、紫外線は物質中で吸収されやすく、従来のシリコンセンサではその検出が困難でした。
そこで、ABLICと東北大学が共同開発した信号差分型の紫外線フォトダイオードにも導入している、紫外線高感度・高耐光性技術を用いたCMOS画像センサが採用されました。この画像センサは、シリコンフォトダイオードの表面高濃度不純物層の構造・形成方法やパッシベーション膜の透過特性を工夫することで、表面照射型センサでありながら、可視光から190 ナノメートルまでの紫外線に感度を持たせることが可能です。
また、"UVCAM"のセンサ回路開発も車載用の高信頼性半導体デバイス開発に実績のあるABLICが担当し、厳しい環境にも耐えられる設計を目指しました。
一方、東工大の研究チームは、地上では通常問題になることのない宇宙放射線の影響を確認するため、東工大の先導原子力研究所コバルト照射施設や若狭湾エネルギー研究センターのシンクロトロン加速器を用いて放射線耐性を入念に検証しました。科学観測に必要なセンサの詳細な性能評価を行い、宇宙環境での動作を想定した光学系のアライメント・フォーカス調整を行い、制御ソフトウェアを開発して、大きさ118 mm×65 mm×60.3 mm 重さ433.5 gの衛星搭載センサシステム"UVCAM"を完成させました。
"UVCAM"は、2021年5月に東工大 工学院で開発している可変形状実証衛星「ひばり」に組み込まれ、打ち上げに伴う強烈な振動・衝撃を模擬する機械環境試験や、宇宙空間の温度環境を模擬する熱真空試験を無事通過しました。ひばり開発チームは8 月18日には打ち上げ前の全ての環境試験を完了して、内之浦宇宙空間観測所へ衛星を出荷しました。
"UVCAM"を搭載した可変形状実証衛星「ひばり」は、2021年10月1日にJAXA内之浦宇宙空間観測所からイプシロンロケット5号機によって打ち上げられる予定です。ロケットからの衛星分離後、太陽電池パネルが展開されるまでのクリティカルフェーズ運用が行われます。その後、システム健全性を確認したうえで、姿勢制御実験やAI利用姿勢計測実験、紫外線天体観測を順次開始します。
(関連記事:可変形状姿勢制御実証衛星「ひばり」を開発|機械系News)
お問い合わせ先
紫外線カメラ"UVCAM" 研究
東京工業大学 理学院 物理学系
准教授 谷津陽一
E-mail : yatsu@hp.phys.titech.ac.jp
Tel / Fax : 03-5734-2224
ひばり衛星 研究
東京工業大学 工学院 機械系
教授 松永三郎
E-mail : Matunaga.Saburo@mes.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3176 / Fax : 03-5734-2644