リベラルアーツ研究教育院 News
~原案本監訳者による解説講演会を開催~

独自の解説講演会が人気の理学院物理学系の山崎詩郎助教
リベラルアーツ研究教育院は、2026年7月21日、解説講演会「映画『オッペンハイマー』の科学」を開催しました。講師は、映画『オッペンハイマー』の原案本『アメリカン・プロメテウス』の科学監修者であり、同じくクリストファー・ノーラン監督作品『TENET テネット』の字幕科学監修も手がけた物理学者、山崎詩郎氏(東京科学大学 理学院物理学系 助教)が務めました。

講演会を企画したリベラルアーツ研究教育院の北村匡平教授(左)と、
司会進行を担当したリベラルアーツ研究教育院の多久和理実講師

山崎先生は、クリストファー・ノーラン監督作品の映画『インターステラー』への強い思い入れをきっかけに科学解説活動を始め、その活動が縁でノーラン監督作品との関わりを深めてきました。
映画『オッペンハイマー』の原案本『アメリカン・プロメテウス』は、これまで科学的な記述について、いくつかの不正確さが課題とされていましたが、文庫化にあたって山崎先生が科学監修を担当。講演会の冒頭では、日本語・英語あわせて紙の高さにして約25センチ分の原稿を検証し、約2,000カ所を修正したというエピソードが紹介されました。
当初は映画本編の字幕科学監修もあったのですが、配給会社の急な変更でなくなるという残念な出来事があり、その経験を経てクラウドファンディングを実施し、広島・長崎をはじめ全国各地で同様の科学解説会を重ねてきたといいます。

冒頭、山崎先生からの簡単なアンケートに加えて、参加者同士で近くの人と3〜5人程度のグループを作り、映画『オッペンハイマー』の中で「科学的に何だったのか気になったシーン」を一人一つずつ挙げ合うという短いワークも行われました。初めて顔を合わせる参加者同士が数分間言葉を交わす時間となり、会場には和やかな雰囲気が広がりました。

そして解説講演会では、原子核の構造やウラン235・238の同位体(アイソトープ)の違い、中性子を吸収して分裂する核分裂反応、そして核分裂が連鎖していく仕組みなど、「原爆の父」と呼ばれた天才物理学者、J・ロバート・オッペンハイマーが原子爆弾の開発に大きく関与するプロセスについて、映画の具体的なシーンと重ねながら解説されました
また、映画冒頭に描かれる粒子や波が揺らめく抽象的な映像についても、1920〜30年代にかけて完成していった量子力学の歴史を凝縮したものだと説明。山崎先生の「原子爆弾に賛成か反対かは話さず、物理学的な事実だけを伝える」という講演の立場も、あらためて示されました。

後半の質疑応答では、爆縮実験で起爆装置を32個に分割した理由や、トリニティ実験で観測地点が爆心地から9キロと15キロに設定された根拠など、学生や高校生、一般参加者から専門的な質問が相次ぎました。核兵器の解体に必要な労力についての質問も挙がり、山崎先生はスーパーコンピューターによるシミュレーション技術の役割にも触れながら回答しました。

質疑応答は予定時間を超えるほど活発な議論となり、この日司会を務めたリベラルアーツ研究教育院の多久和理実講師(科学史)は「映画の脚色と史実の違いを、原作本の科学監修者から直接聞くことができた」と閉会の挨拶を述べ、盛況のうちに講演会は幕を閉じました。