リベラルアーツ研究教育院 News

科学はAI時代の資本主義を変えられるか ― 斎藤幸平氏による特別講演を開催

~気候崩壊・脱成長・民主的計画経済をめぐり、学生との対話が深まる~

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2026.06.26

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2026年5月11日、東京科学大学(Science Tokyo) リベラルアーツ研究教育院は、一般財団法人 三菱みらい育成財団の支援を得て、特別講演会「科学は世界を救うのか 斎藤幸平氏と考えるAI時代の資本主義と脱成長」を開催しました。

「パリ協定はすでに失敗した」― 気候崩壊という現実

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登壇した斎藤幸平氏(東京大学大学院総合文化研究科准教授)は、専門であるマルクス研究とエコ・ソーシャリズムの知見をもとに、近刊『人新世の黙示録』の内容も交えながら、「AI時代の資本主義と脱成長」と題し約50分にわたって講演しました。そこでは、気候危機と資本主義の関係、そしてこれからの社会設計が問題とされました。

斎藤氏はまず、2024年の世界平均気温が産業革命前との比較で1.55度に達し、2015年のパリ協定で定められた「1.5度目標」がすでに形骸化しつつある現状を示しました。「デカップリング(経済成長と排出削減の両立)は起きているが、経済成長を優先しているために削減ペースが遅すぎる」と指摘しました。その例として、本来は小型EVや公共交通への転換が優先されるべき場面でも、利益優先から大型EVの開発や高速道路への投資が選ばれてしまうことを挙げ、こうした構造が脱炭素の速度を確実に落としていると論じました。

また、再エネやEVの普及に伴うリチウム・コバルトなどレアメタルの需要急増が、チリやコンゴなどの現地コミュニティーや生態系などに新たな負荷を生んでいることにも言及。その上で、気候変動への対応はいまや「緩和」から「適応」へと重心が移りつつあり、「全員を救う」という方向性ではなく、経済的に発展した先進国や高所得国である北半球の国々を中心とする “グローバルノース”だけが生き残るような選民的な戦略への転換が起きているのではないかと述べました。

「暗黒社会主義」という逆説的な希望

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こうした流れを「気候ファシズムの萌芽」と呼び、Palantir(パランティア)社※1のような監視・選別技術の台頭とともに、警戒すべきものと述べました。そして、斎藤氏がこのような状況にどう向き合うかという問いに対する答えとして提示したのが「暗黒社会主義(ダーク・ソーシャリズム)」という構想でした。危機の時代にこそ、社会が資源の優先配分を民主的に決める「計画」の力を取り戻すべきだと訴えました。

※1:Palantir Technologies Inc.は、データを統合・分析する高度なソフトウエアを提供するアメリカの企業で、特に政府機関や大企業向けに特化している

その具体例として、専門家や官僚、無作為で抽出された市民が複数のプランを立案し、国民投票で大枠を選択した上で、各企業や自治体が労働者・住民・消費者・環境団体も加わった意思決定のもとで動く、という参加型の経済を挙げました。デジタル技術についても、「ソ連時代※2とは比較にならないリアルタイムのフィードバックが可能になった」として、センサーやデジタルツイン、POSシステムの高度化を計画の柔軟性と透明性のために活用できると述べました。

※2:社会主義経済体制下のソビエト社会主義共和国連邦は、国家が生産・分配・流通を中央計画に基づき統制し、経済活動を計画的に運営する計画経済を推進していた

また、斎藤氏の前著『人新世の資本論』では批判していたCCS(Carbon dioxide Capture and Storage:二酸化炭素回収・貯留)についても、「大気中のCO2がすでに多すぎる以上、使わざるを得ない」という見解を提示。ただし「CCSは市場原理下では普及しない。国家的・社会的スキームでなければ大規模導入は不可能だ」と付け加えました。

理工学系・医歯学系の知と人文知の統合へ

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質疑応答では、原子核工学を専攻する学生から「気候変動の課題は未来技術で挽回できるのでは」という問いが投げかけられました。斎藤氏は「技術の可能性は否定しないが、まず2030年までに排出量を半減させる速度が先決。その上でCCSや核融合も補助線として必要になる」と答えました。また、創作や余暇が制限されるのかという問いに対しては、「むしろ逆だ」と即答。「価格に還元されない価値こそ本質的で、そうしたものが重みを持つ社会こそ、資本主義でない社会だ」と述べ、アートや余暇・図書館・自然といった領域の拡充を脱成長の重要な柱として位置づけました。さらに「人文学を広げるにはどうすればよいか」との問いには、「みんながマルクス研究者になる必要はない。理系の研究者が『どういう社会を作りたいか』という問いを持った時、そこに倫理や哲学が入り込む。その裾野が広がることが人文知の広がりだ」と語りました。

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本講演会開催を担当したリベラルアーツ研究教育院の三ツ堀広一郎教授と鈴木健雄講師

講演の最後に斎藤氏は、水俣病や植民地支配などの歴史を引きながら、「原因が分かっていても垂れ流し続けた構造は、気候変動と全く同じだ」と指摘。過去の被害と抑圧を直視することが「包摂的な技術」を作るための第一歩になるとし、技術と人文知を統合した「民主的な科学」の構築に向けて、参加者とともに考える密度の高い講演をしめくくりました。

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