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結合場所に基づいて抗体をグループ分けする新手法

抗体医薬品開発を加速させる大規模分類法

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2024.06.18

要点

  • 抗原結合場所に基づいて多数の抗体を並列分類する手法Epitope Binning-seqを開発
  • 遺伝子改変により1細胞膜上で抗体の抗原結合場所を評価可能に
  • 大規模抗体分類による高性能抗体医薬品の効率的な開発に期待

概要

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の門之園哲哉准教授(ライフエンジニアリングコース 主担当)とNing Lin(ニン・リン)大学院生らの研究チームは、結合場所に基づいて抗体をグループ分けする新手法Epitope Binning-seqの開発に成功した。

抗体医薬品開発の初期段階では、治療標的となる抗原に結合する多数の候補抗体を、結合場所(エピトープ[用語1])に基づいて分類する必要がある。しかし、これまでに開発されている分類方法は、1種類ずつ抗体を調製して評価するため、大規模解析が難しいという課題があった。そこで今回、研究チームは、複数の抗体を同時に解析するための新手法Epitope Binning-seqを開発した。このシステムでは、遺伝子改変により抗原発現細胞膜上に抗体を発現させて抗原と結合させ、蛍光標識した参照抗体とのエピトープ類似性をフローサイトメトリー[用語2]で解析する。この時、参照抗体と類似したエピトープを持つ抗体は、次世代シークエンシング解析[用語3]によって同定することが可能である。例として、乳がんマーカーHER2に結合する抗体12種類と結合しない抗体2種類を混ぜてEpitope Binning-seqで解析した結果、14種類全ての抗体のエピトープを正しく分類することに成功した。

本研究は、科学雑誌「Communications Biology」(5月28日付)に掲載された。

背景

がん、自己免疫疾患、炎症性疾患などのさまざまな疾患の治療薬として、抗体を主成分とする抗体医薬品が続々と開発され、高い治療効果をあげている。抗体が結合する抗原上の場所はエピトープとよばれ、鍵と鍵穴のように、個々の抗体はそれぞれ特定のエピトープに結合する。エピトープの違いは抗体を特徴付ける重要な要素であり、抗体医薬品の作用機序や治療効果と密接に関連している。そのため、抗体医薬品開発の初期段階では、治療標的となる抗原に結合する多数の候補抗体を、エピトープ類似性に基づいて分類する必要がある。しかし、これまでに開発されている分類方法は、1種類ずつ抗体を調製して評価するため手間や時間がかかり、大規模解析が難しいという課題があった。現在開発されている全自動測定装置を利用しても、1度に解析できる抗体の数は500種類以下である。

研究成果

今回、研究チームは、多数の抗体を並列に解析できる新手法Epitope Binning-seqの開発に成功した。このシステムでは、遺伝子改変により抗原発現細胞膜上に抗体を発現させるため、各抗体の調整が不要である。細胞膜上で抗体を抗原と結合させ、蛍光標識した参照抗体とのエピトープ類似性をフローサイトメトリー(FCM)で解析を行う(図1A)。図に示した通り、抗体がすでに抗原に結合している場合、参照抗体は結合できない。すなわち、その抗体は参照抗体に類似したエピトープを持つと考えられる。参照抗体が結合しなかった細胞をFCMにより回収し、次世代シークエンシング解析(NGS)により抗体の遺伝子配列を同定することで、参照抗体と類似したエピトープを持つ抗体を同定することが可能である。例として、乳がんマーカーHER2に結合する抗体12種類、および、HER2に結合しない抗体2種類を混ぜてEpitope Binning-seqで解析した結果、14種類全ての抗体のエピトープを正しく分類することに成功した(図1B)。

図1 Epitope Binning-seqによる抗体分類 (A)Epitope Binning-seqの概要。抗原発現細胞の遺伝子改変により、抗体を細胞膜上に発現させ抗原と結合させる。蛍光標識した参照抗体と細胞を反応させ、参照抗体が結合しない細胞をフローサイトメトリー(FCM)で回収し、ゲノム配列を次世代シークエンシング解析(NGS)で同定する。これにより参照抗体と類似のエピトープを持つ抗体の配列が同定される。(B)14種類の抗体を混ぜたモデル抗体ライブラリーのエピトープ分類。抗原HER2に結合する参照抗体1あるいは参照抗体2と類似のエピトープを持つ抗体をそれぞれ6種類ずつ、さらにHER2に結合しない抗体2種類を混ぜてライブラリーを作製した。Epitope Binning-seqの結果、14種類の抗体は全て正しいグループに分類された。

図1. Epitope Binning-seqによる抗体分類

  1. (A)Epitope Binning-seqの概要。抗原発現細胞の遺伝子改変により、抗体を細胞膜上に発現させ抗原と結合させる。蛍光標識した参照抗体と細胞を反応させ、参照抗体が結合しない細胞をフローサイトメトリー(FCM)で回収し、ゲノム配列を次世代シークエンシング解析(NGS)で同定する。これにより参照抗体と類似のエピトープを持つ抗体の配列が同定される。
    (B)14種類の抗体を混ぜたモデル抗体ライブラリーのエピトープ分類。抗原HER2に結合する参照抗体1あるいは参照抗体2と類似のエピトープを持つ抗体をそれぞれ6種類ずつ、さらにHER2に結合しない抗体2種類を混ぜてライブラリーを作製した。Epitope Binning-seqの結果、14種類の抗体は全て正しいグループに分類された。

社会的インパクト

Epitope Binning-seqは、原理上1,000万種類程度の抗体を一括解析することが可能な画期的な手法であり、研究機関や製薬企業など抗体開発の現場に導入されれば、開発の効率化に活用されることが期待される。

今後の展開

抗体を細胞膜上に発現させて機能を解析する本研究戦略は、抗体だけでなく、キメラ抗原受容体、二重特異性抗体、小型抗体、ペプチドなどさまざまな創薬モダリティの解析にも有効な戦略である。また、抗原もHER2のような比較的簡単な構造を持つ分子から、Gタンパク質共役受容体や7回膜貫通型受容体のように複雑な構造を持つ分子も対象にできることから、Epitope Binning-seqの汎用性は極めて高く、エピトープ解析の標準手法となることが期待される。

  • 付記

本研究は、AMED先端的バイオ創薬等基盤技術開発事業(JP19am0401023h0001、JP20am0401023h0002、JP21am0401023h0003、JP22am0401023h0004、JP23am0401023h0005)の支援を受けて実施された。

用語説明

[用語1] エピトープ : 抗体が特異的に結合する抗原の部分を指す。エピトープは抗原の表面に存在する。

[用語2] フローサイトメトリー : 細胞を流体中で個別に高速で測定・分析する技術。レーザー光を細胞に当てた際の散乱光や蛍光を測定する。

[用語3] 次世代シークエンシング解析 : DNAやRNAの配列を高速かつ大量に解読する技術。従来のシークエンシング技術に比べて、はるかに大量のデータを高速かつ低コストで取得できる。

  • 論文情報
掲載誌 : Communications Biology
論文タイトル : Epitope binning for multiple antibodies simultaneously using mammalian cell display and DNA sequencing
著者 : Ning Lin, Kotaro Miyamoto, Takumi Ogawara, Saki Sakurai, Shinae Kizaka-Kondoh, Tetsuya Kadonosono
DOI : 10.1038/s42003-024-06363-7別窓
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お問い合わせ先

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系

准教授 門之園哲哉

E-mail tetsuyak@bio.titech.ac.jp
Tel 045-924-5848

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