生命理工学系 News
「第2回Taki Plaza講演会」を実施
東京工業大学学生支援センター未来人材育成部門と学務部学生支援課支援企画グループは、一般社団法人蔵前工業会共催のもと、10月18日、学生のための国際交流拠点「Hisao & Hiroko Taki Plaza(ヒサオ・アンド・ヒロコ・タキ・プラザ以下、Taki Plaza)」において、第2回Taki Plaza講演会「理工系人材に未来はあるか~東工大生の君はどうする~」を開催しました。
この講演会は、本学の卒業生でもある株式会社ぐるなび取締役会長・創業者の滝久雄氏の支援を受けて立ち上げた、Taki Plazaを拠点として活動する東工大生を応援するプロジェクト「未来人材応援プロジェクト」の一環として行われ、57人の学生が参加しました。
はじめに、プロジェクトのメンバーである、理学院 化学系の福田義季さん(修士課程2年)と、環境・社会理工学院 融合理工学系の柳瀬梨紗子さん(学士課程3年)が司会を務め、開会を宣言しました。
東工大井村順一理事・副学長(教育担当)が本講演会の概要を説明した上で、「様々な経験、視点から議論をするこの講演会が、今後の学生生活の糧になってもらうことを祈念いたしまして、開会のあいさつにかえさせていただきます」と述べました。
続いて、修士課程学生の立場から福田さんが「基礎研究分野で博士進学することへの不安」について話をし、学士課程学生の立場から柳瀬さんが「多くの分野を広く浅く学び続け、俯瞰することを目指す」方が良いのか、それとも「何か1つ専門的な分野を決め、その軸をベースとして他の分野を見ることを目指す」方が良いのか、という悩みについて話をしました。
第1部では、この問題提起に基づき今回の講演会テーマである「理工系人材に未来はあるか~東工大生の君はどうする~」について、リベラルアーツ研究教育院の池上彰特命教授、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典栄誉教授、そして益一哉学長がそれぞれ講演しました。
最初の講演者である池上特命教授は、MITに視察に行ったときに購入したというマグカップを示し、「マグカップにかかれている文字『NERD PRIDE(オタクであることに誇りを持つ)』これがまさにMITおよび東京工業大学の強みだと思う」と話をしました。 また、旧約聖書の冒頭部分を方程式で表した別のマグカップを示し、「このユニークな発想はオタクだからこそできる発想であり、理系からみた教養の深さだと思う。だからオタクであるということに誇りを持ち、研究を一生懸命やり、それだけでなくユニークな発想で様々な教養を横に広げていってほしい」と述べました。
大隅栄誉教授は「若い人たちは、『人類の未来も日本の未来も自らの手にかかっている』ということを自覚して、積極的に色々なことを展開していってほしい」と参加者に語りかけました。各国の大学院進学年齢の比較表を用い「日本は最も若い年齢で、修士課程や博士課程への進学を決めている。他国では大学院とは年齢関係なく目的をもって勉強する場という意識が強いが、日本では学部を卒業したら流れで博士課程に進学する人が多い。世界と比較した大学院進学年齢の差についても、後のパネルディスカッション時に議論をしてみたい」と提案しました。
第1部の最後は益学長が講演し、学生からの「専門はいつ決めたらよいか」という質問に対し自分の体験談を語りました。「自分の選んだ道は信じるしかない。どこにいっても何を選んでも一寸先は闇である。企業についても、今良い企業を選んだからといって安泰ではない。能力とやる気とモチベーションを持ち続けることが大事である」「昔は良いものを作れば売れるし技術を追求することが一番大切だと思っていたが、それだけでは自己満足は出来ても社会を本当の意味で良くすることはできない。このことについて皆さんも考えてほしい」と述べました。
第2部では、学生からの問題提起および事前に学生から集めた質問をもとに、パネルディスカッションを実施しました。司会の福田さんと柳瀬さんもモデレーター兼パネリストとして参加し、池上特命教授、大隅栄誉教授、益学長とともに議論を深めました。
福田さんが「博士進学やその後の進路選択に対する疑問」を問題提起し、パネルディスカッションはスタートしました。「修士号、博士号をとることにどういう価値があるのか」という問いに対して、大隅栄誉教授は第1部の講演会にて述べた「大学院への進学年齢」について言及しながら「博士号を持っているということは、研究者として社会が認めるということと同義であるが、日本ではその部分が曖昧である。しかし企業に就職し海外で働く際、博士号を持っていないと全く相手にされない。博士号というのは必須の条件というのが先進国のスタンダードであるので、日本においても博士課程に進学する人が増えるのが国際的にも大切である」と語りました。
続いて池上特命教授は、「イスラエル、スウェーデン、韓国において大学院への進学年齢が高いのは、徴兵制が関係している。日本では学士を卒業したら修士、修士を卒業したら博士にすぐにいかなくてはいけない、というプレッシャーがあるが、海外ではそんなことは無い。社会に出たけどもう一度学び直すというのが当たり前の社会になりつつあるので、一度就職したとしてもどこかの段階で入り直すことはできるし、企業にいながら博士号をとることもできる。このルートしかないと思いこまないことが大切」と述べました。
パネルディスカッション前半の総括として、益学長は「どこかで必ず決断をしなくてはいけない時がくる。どう決断したとしても選べるのは1つだけであり、選んだ後は自分を信じるしかない。隣の芝生はいつも青いので、自分の決断が正しいと信じないと、次の決断もできない」という言葉で締めくくりました。
続く柳瀬さんの「浅くとも広い分野を学ぶ姿勢と、狭くともある分野を深める姿勢とどちらが大切だと思われますか」という問いに対して、大隅栄誉教授は「学ぶことには終わりがない。あれもこれも学ばないといけないという発想はやめた方がいい。自分の軸を元に考えた方が良いと私は思う。ただ知識に基づいて自分の考えができるというのが大切なので、広く浅く学ぶことだけでは『いっぱい知っているね』というだけで自らの力にはならないと思う」と話しました。
同じ質問に対し、池上特命教授は「全体を知ったうえで深堀するのが大切だと思う。あることを研究した結果、他も見えてくるということがある。この問いは二項対立ではなく、アウフヘーベンするという発想が大事だと思う」と述べました。
益学長は「色々チャレンジして研究する学生もいると思う。その際自分がやろうとしたことの基礎に立ち戻り、今を見つめ直すことが重要である。産業界の研究は『解』を出さないといけないが、『解』を求めるだけでなく常に基礎に戻ることができる目を持っているのが大学の研究者だと思う」と述べました。
パネルディスカッション後に、株式会社ぐるなびの滝会長は「素晴らしく大変貴重な話を聞くことができた。世界一級の先生方から直に普段聞けないようなことを聞く機会を、このTaki Plazaを利用して開催できたことを嬉しく思う」と述べ、「どんなことでも一生懸命やればできないことはない。今回のような『人を集めてシンポジウムをやりたい』という皆さん自身の夢を考え、学生が中心となりこのTaki Plazaで実現してもらいたい」と参加者に語り掛けました。
閉会のあいさつは、学生支援センター長の岡村哲至副学長(学生支援担当)が「色々なことを本音で語ってくれた貴重な話だった。広い視野を持ち、好きなことをやったら良いという懐の深いものの見方をしていると感じた。皆さまも広い視野で『失敗してもよいのだ』という、ゆったりとした気持ちでこれからの進路を決めていただきたい」と述べ締めくくりました。
「Taki Plaza講演会」は今後もTaki Plazaにて、多くの方々が交流する場になるよう継続的に開催していく予定です。
このイベントは東工大基金によりサポートされています。