生命理工学系 News
東京工業大学の教授ら7名が、科学技術に関する研究開発、理解増進等において顕著な成果を収めたとして令和2年度科学技術分野の文部科学大臣表彰を受賞しました。科学技術賞(研究部門)が3名、若手科学者賞が3名、今回新設された研究支援賞が1名です。表彰式は新型コロナウイルス感染リスクを考慮し中止されました。文部科学省が4月7日、発表しました。
科学技術賞(研究部門)は科学技術の発展等に寄与する可能性の高い独創的な研究または開発を行った者が対象です。令和2年度は50件68名が受賞しました。
若手科学者賞は、萌芽的な研究、独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者を対象としています。令和2年度の受賞者数は97名です。
研究支援賞は、高度で専門的な技術的貢献を通じて研究開発の推進に寄与する活動を行い、顕著な功績があった者を対象としています。研究現場を支える技術職員等の育成及び活躍を促進することを目的として、今回新たに創設されました。第1回目の令和2年度は10件19名が受賞しました。
令和2年度受賞した東工大の関係者7名は以下のとおりです。
近年の有機合成化学のめざましい発展により合目的的に機能分子を構築できるようになってきました。一方、有機系物質は、原子からなる無機物質とは異なり、形がいびつでしかも柔らかい分子を構成要素とするため、実応用に資する巨視的スケールまで精緻に組み上げることは困難であり、それを実現する方法論が求められています。
本研究では、ナノカーボン系新素材や有機ナノチューブなどの新規ナノ材料を創製するとともに、これらを巨視的スケールに組み上げるための手法開発を通じて、常識を覆す自発的超長距離構造秩序を形成する分子集合体や、有機物質の凝縮相の理解を革新する新物質を見いだしました。また応用展開により、ナノスケールの太陽電池として機能する物質、ソフトロボティクス用アクチュエータ素材、伸縮性エレクトロニクスを拓いた導体などの開発に成功しました。本成果は基礎科学的に新規かつ重要な知見を提供するものであり、ひいては我が国の物質科学の発展に寄与するものと考えられます。
受賞対象となった研究は、共同研究者、研究室スタッフ、学生諸氏の多大なご尽力のもとに成し得たものであり、これまでお世話になった皆様に深く感謝申し上げます。
本研究では、大腸がんの患者さんを対象に、凍結便を収集しメタゲノム解析やメタボローム解析を行っています。これまで進行大腸がんに特徴的な細菌は特定されていましたが、前がん病変である腺腫や粘膜内がん、すなわち大腸がんの発症のごく初期に関連する細菌については解明されていませんでした。我々の研究の結果、多発ポリープ(腺腫)や非常に早期の大腸がん(粘膜内がん)患者さんの便中に特徴的な細菌や代謝物質を同定しました。
我々の研究の目指す所は、大腸がんの予防、治療、早期発見、作用機序の理解であり、その実現のためにはまだ多くの壁があります。しかしながら、今回の結果は、個々人の腸内細菌叢の違いにまで踏み込んでがん予防や治療選択を行う「Microbiome-Based Precision Medicine」時代の幕開けになると考えています。
我々の研究には、臨床現場の医師チーム、情報解析を行うデータ解析チーム、実際の実験を行う実験チームの協力体制が重要です。多くの共同研究者、協力者の皆様のご尽力があり、今回の受賞の一連の研究を成し得ることができました。この場を借りて、皆様に感謝いたします。
また、今後も共同研究を軸とした臨床現場からの様々なデータの蓄積を推進するとともに、そこからさらに発展させた研究を国内外の研究者と幅広く強力に連携し、協力し、多くの分野と融合しながら、研究推進をしていきたいと考えています。
現在の宇宙は大域的に一様・等方な空間が広がっていますが、これはビッグバン宇宙論では初めから地平線を越えた一様空間を仮定しない限り説明できない大問題です。これを解決するのが、創生直後の宇宙が指数関数的急膨張をした、というインフレーション宇宙論です。
本研究では、一般相対論を拡張し、インフレーションを起こすスカラー場を含み時間発展が二階微分方程式で与えられる最も一般的なインフレーション理論を構築し、これを一般化G-インフレーション理論と名付け、その枠組みの下で観測可能量である曲率ゆらぎ・密度ゆらぎや重力波の最も一般的な理論公式を導出しました。
本研究により、これまで個別のモデルを時間のかかる数値解析によって観測と比較していたのを、一挙にかつ包括的に解析することが可能になりました。また、ここで与えた公式は、宇宙論だけでなく、拡張重力理論から重力波天文学に至るまで、今日幅広く活用されています。
大変重要な賞を頂き、身に余る光栄に存じます。これまでの共同研究者の方々、諸先輩、学生諸氏など、多くの関係者の皆様に心からお礼申し上げます。
今後も、少しでも宇宙の謎が明らかになるよう研究を続けたいと思います。
超伝導とはある臨界温度(Tc)以下において電気抵抗が完全にゼロになる現象です。2008年に1111型鉄系超伝導体REFeAsO1-xFx (RE=ランタノイド)において銅系に次ぐ高いTcが報告されて以降、Tcの更なる高温化と超伝導発現機構の解明を目指し、世界中で活発な研究が展開されました。しかし、合成とドーピング、結晶育成の困難さから、1111型の研究は次第に下火となってしまいました。
私は「水素の陰イオン」というこれまで物性物理において全く注目されてこなかったイオンを用いて1111型への高濃度電子ドーピングに成功し、鉄系最高温超伝導が二つの異なる反強磁性相の境界に生じることを見出しました。
本研究成果は鉄系の“多軌道性”、つまり複数の電子軌道が物性に寄与する、という特徴が顕著に表れた例であり、今後、新規高温超伝導体の候補物質として多軌道系が有望である事、さらに、候補を絞り込む上での具体的な指針を与えるものと期待されています。
本受賞は細野秀雄栄誉教授、松石聡准教授をはじめとするご指導いただいた先生方や共同研究者のご支援ご指導の賜物です。この場を借りて改めて深く感謝申し上げます。
世の中にはわかっているようで実はわかっていないことが沢山あります。例えば、「摩擦」は高校で学習しますが、そのメカニズムは未だわかっておらず、経験則で利用されています。この摩擦による経済損失は我が国だけでも年間10兆円を超えるといわれ、摩擦がどのように生じているかナノスケールで明らかにし、制御できるようにすることが重要です。私はこのような現象のメカニズムを明らかにするために、ナノスケールで現象を観察しながら実験を行いました。具体的には、多機能性が特徴であるマイクロマシンを電子顕微鏡に組み込み、ナノスケールの観察下で摩擦や電気、熱等の実験を可能にしました。さらにマイクロ流路と電子線透過膜を電子顕微鏡に組み込み、物理・化学・生物という分野の垣根を超えたナノスケール観察下での実験を可能にしました。本研究によって、ナノテクノロジーのさらなる発展が期待でき、多くの社会課題の解決につながります。今後は本成果を足掛かりに、バイオ・医療の研究に発展させる所存です。
最後に、本研究の成果は、国内外の多くの共同研究者の方々との協力のもと得られたものです。この場をお借りして心より感謝申し上げます。今後、この分野のさらなる発展には、より多くの人の協力が必要です。ご興味のある皆さん、ぜひ一緒に研究しましょう。
遷移金属酸化物は光触媒や燃料電池等の多彩な物性・機能を示すことから、基礎から応用まで非常に関心の高い物質です。その一方で、その機能を司る表面の原子配列は制御できていませんでした。そこで我々は、「原子レベル基板表面制御」・「高品質薄膜合成」・「非破壊原子レベル観察」の全過程を大気非曝露で行う装置を一から開発し、高品質薄膜を用いたモデル表面における機能の本質に原子レベルで迫りました。その成果として、遷移金属酸化物を初めとした新奇な低次元構造をもつ材料創製と導電性・磁性などの物性制御に成功しました。バルク結晶の理想切断面ではなく、実在する原子レベルの配列構造を提示することで、理論シミュレーションにおける予測精度のさらなる向上に貢献できます。また、このような「高品質材料合成」と「高度計測」を大気非曝露で両立する取り組みは、全固体Li電池等の実用材料の研究分野においても、ますます重要なコンセプトとなっています。
この度、栄誉ある賞を賜りまして大変光栄に感じております。ご指導くださった先生方、共同研究者に厚く御礼申し上げますとともに、本学・東北大学(前任校)の多大なご支援にも感謝いたします。
マイクロメートルサイズのデバイス分野の研究開発においては、半導体微細加工技術を利用する高度な技術的支援が必要とされています。特に共用クリーンルームにおいては、研究成果の創出に直結する高度な技術レベルのサポート人材が必須とされています。これに応えるため、12年に亘り技術部研究支援部門長として高度技術専門人材である技術職員のスタッフとともに取り組みました。その結果は、年間約120 名登録の共用クリーンルームの管理運営、利用講習会開催、利用者の研究成果の創出に活かされております。また、先端研究に関しては、半導体光デバイス、グラフェン、フォトニック結晶、新材料デバイス、バイオチップ等のさまざまな研究の発展に貢献しました。特に、伊賀健一元学長発明の面発光レーザの研究には、30年に亘り半導体微細加工技術での支援を行い性能向上にも貢献しました。これらの研究支援の成果は内外の学術論文誌に120報の論文として掲載されています。
この度の第1回目の研究支援賞をいただくにあたり、歴代の技術部長、当部門の技術職員の皆さん、クリーンルーム利用者の皆様、本学関係者の皆様にはこの場を借りて心より感謝申し上げます。
本年4月より技術部はオープンファシリティセンターに改組し、研究設備の共用推進機能の中心となりました。今後はより一層、学内外の研究者の成果創出に貢献したいと考えております。