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N-メチル化ペプチドを高収率・短時間で合成

安価な反応剤で生成した高活性中間体を活用

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2020.05.19

要点

  • 医薬品候補として重要な「N-メチル化ペプチド」の高効率合成法を開発
  • 安価な反応剤で生成した高活性中間体でN-メチルアミノ酸の低反応性補完
  • 既存の手法と比べより短時間・高収率でN-メチル化ペプチド合成を達成

概要

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の小竹佑磨大学院生(研究当時)、物質理工学院 応用化学系の川内進准教授(同)、科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の中村浩之教授(ライフエンジニアリングコース主担当)、布施新一郎特定教授(研究当時 准教授、現 名古屋大学教授)らの研究グループは、医薬品候補として重要なN-メチル化ペプチド[用語1]の新たな高効率合成法の開発に成功した。N-メチル化ペプチドを基盤とする医薬品開発の加速、低コスト生産につながる成果といえる。

同研究グループは安価な反応剤を用いて、高活性な中間体を生じさせることによりN-メチルアミノ酸[用語2]の反応性の低さを補完することに成功した。この開発手法を既存の手法と比較したところ、より短時間、高収率でN-メチル化ペプチドが得られることがわかった。また、開発した手法はマイクロフロー合成法[用語3]固相合成法[用語4]と組み合わせて実施することができる。

N-メチル化ペプチドは代謝安定性や標的への親和性・選択性、さらに膜透過性が通常のペプチドより高まるとされるため、医薬品候補として重要だが、これまでは反応性の低いN-メチルアミノ酸の連結は高価な反応剤を大量に用い、長時間反応を実施しても低収率となることが珍しくなかった。

研究成果は4月9日に国際的学術誌「Angewandte Chemie International Edition(アンゲヴァンテ・ケミー・インターナショナル・エディション)」に掲載された。

研究成果

布施特定教授らの研究グループは安価な反応剤を用いて高活性な中間体を生成し、これをN-メチルアミノ酸との連結に用いることで反応性の低さを補完、短時間でも高収率でN-メチル化ペプチドを合成することに成功した。

多数のN-メチルアミノ酸を含むテトラペプチド[用語5]の合成において、開発した合成手法とN-メチル化ペプチド合成に有効とされる複数の既存の合成手法を比較した。既存の手法は反応時間24時間で収率が0~47 %だったが、今回の開発手法は反応時間2時間で収率は98 %に達した。

開発した合成手法は通常のフラスコを用いて実施できるだけでなく、マイクロフロー合成法と組み合わせて実施することで、さらに収率が高まる。さらに、固相合成法への適用も可能であることを確認している。

N-メチル化ペプチドの短時間・高収率での合成

図1.N-メチル化ペプチドの短時間・高収率での合成

研究の背景

N-メチル化ペプチドは代謝安定性や標的への親和性・選択性、さらに膜透過性が通常のペプチドより高まるとされるため医薬品候補として重要である。だが、反応性の低いN-メチルアミノ酸の連結は高価な反応剤を大量に用い、長時間反応を実施しても低収率となることが珍しくない。この問題が、N-メチル化ペプチドを基盤とする医薬品開発、低コスト生産の障害となっており、世界中の企業や大学においてこの問題を解決するための研究開発が進められている。

研究の経緯

布施特定教授らはこれまでマイクロフロー合成法を駆使した、安価で高活性な反応剤を用いるペプチド合成法の開発に過去10年ほどにわたって取り組んできた。今回の研究ではN-メチルアミノ酸の反応性の低さをいかに補完するかという点が反応開発のポイントになったが、通常は反応を阻害するリスクが高いとされる酸を添加することによりペプチド結合形成反応[用語6]を加速させられることがわかり、これがブレイクスルーとなった。

今後の展開

この手法は安価で入手容易な反応剤を用いているにも関わらず既存の反応剤と比較しても高成績を与える。また、固相・液相どちらの合成法にも対応でき、さらに、マイクロフロー合成法と組み合わせて実施できる。マイクロフロー合成法は連続・並列運転により容易にスケールアップが可能であるため、産業への展開も十分期待できる。

既に特許を出願しており、現在、産業利用を目指した研究を推進している。今後のさらなる研究開発により、N-メチル化ペプチドを基盤とする医薬品開発加速、低コスト生産につながると期待される。

図2. フロー合成セット

図2.フロー合成セット

  • 付記

本研究は主にJST未来社会創造事業 探索加速型「共通基盤」領域研究開発課題「機能性ペプチドの超高効率フロー合成手法開発(研究開発代表者:布施新一郎)」の成果である。

  • 用語説明

[用語1] N-メチル化ペプチド : ペプチドはアミノ酸とアミノ酸がペプチド結合(-CONH-)を介して、2個以上つながった構造のもの。N-メチル化ペプチドはペプチド鎖中の窒素原子上にメチル基をもつペプチドのことであり、代謝安定性や標的への親和性・選択性、さらに膜透過性がメチル基をもたない通常のペプチドより高まるとされるため医薬品候補として注目されている。

[用語2] N-メチルアミノ酸 : ペプチド結合を形成する窒素原子上にメチル基をもつアミノ酸。一般的にメチル基の存在により反応性が低下している。

[用語3] マイクロフロー合成法 : 微小な流路を反応場とするマイクロフローリアクターを駆使する合成法。旧来のフラスコ等を用いるバッチ合成法と比較して、反応時間(1秒未満も可)、反応温度の厳密な制御が可能である。

[用語4] 固相合成法 : 樹脂上に化合物を共有結合で担持して反応させる合成法。固相に反応剤の溶液を作用させて、反応後に溶液を洗い流すだけで簡便に精製できる点が特長。ペプチド合成において、ペプチドの溶解性の低さを補完するために多用されている。

[用語5] テトラペプチド : 4つのアミノ酸が連結したペプチド。

[用語6] ペプチド結合形成反応 : アミノ酸もしくはペプチドとアミノ酸もしくはペプチドがペプチド結合を形成しつつ連結する反応。

  • 論文情報
掲載誌 : Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル : N-Methylated Peptide Synthesis via Acyl N-Methylimidazolium Cation Generation Accelerated by a Brønsted Acid
著者 : Yuma Otake1,2, Yusuke Shibata3, Yoshihiro Hayashi3, Susumu Kawauchi3, Hiroyuki Nakamura1 and Shinichiro Fuse.4,*
所属 :

1 Laboratory for Chemistry and Life Science, Institute of Innovative Research, Tokyo Institute of Technology, 4259 Nagatsuta-cho, Midori-ku, Yokohama 226-8503, Japan

2 School of Life Science and Technology, Tokyo Institute of Technology, 4259 Nagatsuta-cho, Midori-ku, Yokohama 226-8503, Japan

3 School of Materials and Chemical Technology, Tokyo Institute of Technology, 2-12-1 Ookayama, Meguro-ku, Tokyo 152-8552, Japan

4 Department of Basic Medicinal Sciences, Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Nagoya University, Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya 464-8601, Japan

DOI : 10.1002/anie.202002106別窓

お問い合わせ先

名古屋大学 創薬科学研究科 基盤創薬学専攻 プロセス化学分野

教授 布施新一郎

Email : fuse@ps.nagoya-u.ac.jp
Tel : 052-747-6927 / Fax : 052-747-6928

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