生命理工学系 News
人類(ヒト)の誕生(WHO AM I ?)―DNAで探る私たちの起源―
クリスマス・レクチャー2019日本講演を、9月14日、15日に大岡山キャンパス西講義棟1のレクチャーシアターで開催しました。計4回行い、延べ約800名が参加しました。
「クリスマス・レクチャー」は、英国王立科学研究所(The Royal Institution of Great Britain。以下、RI)が青少年向けに開催するイベントで、190年以上続く人気の科学実験講座です。このクリスマス・レクチャーを日本で再現するイベントは1990年から毎年開催されており、東工大では5回目の開催となりました。
東工大は、2016年度からスタートした教育改革の取り組みの一つとして、新入生を対象とした「科学・技術の最前線」や「科学・技術の創造プロセス」などの実演・実験つき授業を開講しています。これらの授業はクリスマス・レクチャーを手本としており、レクチャーシアターを最大限活用した臨場感あふれる個性的な授業を展開しています。
今年のクリスマス・レクチャーは2018年12月にロンドンで開催されたレクチャーを日本向けにアレンジしたもので、遺伝学が専門のレスター大学教授トウーリ・キング博士が講師を務めました。今回は「人類(ヒト)の誕生(WHO AM I ?)-DNAで探る私たちの起源-」と題し、進化の歴史のなかでどのようにしてヒトは今の姿になったのか、実験を交えて紹介しました。東工大からも生命理工学院の田中幹子准教授(生命理工学コース主担当)が登壇し、今まさに研究が進められているトラザメのヒレから長い時間を経てどのようにしてヒトの手に進化したのか、実際の生きたトラザメを用いて説明し、合わせて約1時間半にわたる充実した内容のレクチャーとなりました。
9月11日にRIのスタッフ2名が来日して物品等を運び込み、講演に使われる機器の準備・調整が始まりました。9月12日には講師であるキング博士を迎え、打ち合わせおよびリハーサルを行いました。東工大の学生スタッフ7名が要領よく準備を整え、また子供たちを誘導するときのスムーズな動きはRIスタッフをはじめ読売新聞社の担当の方々からも好評でした。9月13日の最終リハーサル終了後には、キング博士、RIの職員、本学、読売新聞社、日本ガイシ等の関係者出席のもと歓迎レセプションが開かれ、参加者全員で親交を深めながら翌日からの講演に備えました。
講演第1回目は、一般の参加者に加え、東工大関係者にも100席の優先席が設けられました。各回の講演開始前には、司会の齊藤卓志准教授による注意事項やボランティア(講師の呼びかけによりステージで講師の実験に協力する参加者)への要望などの説明が行われました。講演に先立ち、第1回目は水本哲弥理事・副学長(教育担当)から、2回目は英国大使館から、そして3回目と4回目はものつくり教育研究支援センターの工藤明特命教授から挨拶がありました。
キング博士は親しみを感じる笑顔とわかりやすい英語で観客をとりこにし、「ヒトはどうやって遙か昔の生物から進化したのでしょう」と生命の樹を使いながら観客に語りかけました。そして各生物種に応じた実験を通して進化の歴史を説明し、大人から子どもまで誰もが熱心に聞き入っていました。本講演はすべて英語で行われましたが、一人ひとりに同時通訳の機器が配られ、英語が分からない人でも安心して楽しめるような配慮がなされました。この同時通訳の設備が整っていることは、レクチャーシアターの特徴の一つです。また、登壇するボランティアにはキング博士がやさしく話しかけ、緊張気味の子どもたちを上手にリラックスさせていました。多くの子供たちが英語で自分の名前を紹介し、日本の子供たちの急速な英語への適応を垣間見ることができました。
今回の講演では、最初に風船を使って細胞とDNAについて説明し、そして、動物は1500万年に渡る3回の突然変異で異なる動物に変化したことを説明しました。次に、進化の順番を示す生命の樹を用いて、初期に進化した動物として昆虫を示しました。会場には昆虫の代表として本物のショウジョウバエが持ち込まれ、紹介されました。次いで進化した動物は魚です。その代表としてトラザメが登場し、田中先生は、水槽内のこのサメを使ってサメのヒレの骨がどのように形を変えてヒトの手のようになっていったのか、田中研究室の最新成果をわかりやすく子供たちに説明しました。さらに鳥類の代表としてダチョウの卵が持ち込まれ、類人猿の代表であるチンパンジーとヒトのDNAが1%しか違わないこと、動物には環境に応じた自然選択が起こったこと、実際に地図上を歩行しながら人類はアフリカから世界中に広がったことを紹介、そしてヒトによる牛乳に対する耐性や味覚の感受性の違いは、DNAの違いによることを示しました。これらの実験には、多くの子どもたちが積極的にボランティアとして参加しました。 最後に、キング博士の研究の主要テーマであるリチャード3世の骨の発見について、DNA鑑定により子孫のDNAと一致したこと、DNAから想定される髪と目の色が残っている肖像画と一致したことなどから本人であると証明したことを紹介し、本講演が終了しました。
講演の終了時には、東工大学生スタッフらが全員登壇し、観客の大きな拍手に包まれました。講演終了後、キング博士は質問や写真撮影の要望に喜んで応えたので、子どもたちにとっては素晴らしい思い出となりました。このレクチャーから、将来科学者になることを目指して東工大で学ぶ子どもたちが生まれることを祈ります。