生命理工学系 News
平成29年度第5回(通算第66回)蔵前ゼミ印象記
2017年10月13日、すずかけ台キャンパスJ234講義室にて、平成29年度第5回蔵前ゼミ(通算第66回)が開催されました。
蔵前ゼミは同窓生による学生・教職員のための講演会です。
日本社会や経済をリードしている先輩が、これから社会に出る大学院生に熱いメッセージを送ります。
卒業後の進路は?実社会が期待する技術者像は?卒業後成功する技術者・研究者とは?など、就職活動(就活)とその後の人生の糧になります。
当日の印象記を、博物館の広瀬茂久特命教授が綴りました。その一部をご紹介します。
講師の佐藤さんは、世界が大きく変わろうとしている時に高校時代を過ごした。今から約50年前だ。ベトナム戦争(1964~1975)が泥沼化し、中国では文化大革命(1966~1976)の嵐が吹き荒れ、国内では公害問題や大学紛争が新聞の一面をにぎわせていた。実際、受験の年には、大学紛争の影響で東大の入学試験が中止になった(1969)。このような時代背景もあって、“社会”に興味を持ち始めていた佐藤さんは本学の「社会工学科」を目指して6類に入学し、2年次では希望通り社会工学科に所属した。熱心に勉強し、3年次までに、卒業に必要な単位をすべて取り、残すは 卒業研究のみだったが、ここで1年間休学し社会勉強をすることにした。不思議に思って理由を聞いてみると、人文系の先生方(社会思想史の判沢弘、1919~1987;政治学の永井陽之助、1924~2008)や元教授(文化人類学の川喜田二郎、1920~2009)から大きな刺激を受けたが、肝心の「社会工学とは何か?」が自分の中で見えてこない上に、社会工学科に所属しながら実社会のことを何も知らないことに気づいたからだとのことだった。
そんなわけで、佐藤さんは1年近く技術系のコンサルティング会社でアルバイト(今はやりのインターンシップの先駆けと言えそうだ。)をし、その年度末の3月に3週間かけて東南アジア(香港・タイ・マレーシア・インドネシア・ベトナム)を足で体験するツア ーに参加した。多くのことを学び視野が広くなった。この時の体験を友人たちに報告した際に「佐藤はレポートがうまい」と褒められたことが新聞記者を目指す1つのきっかけになったようだ。筆を執ることが苦にならない佐藤さんを羨ましく思った人も多かったに違いない。
佐藤さんを休学へと追いやった言葉が“Interdisciplinary”だったのではないかと推測した。「社会工学とはInterdisciplinary(学際的)な学問だ」といって何となくわかった気分になり、本質的な議論に踏み込まないで満足しがちだが、突き詰めて考えると確かに佐藤さんが言うように「学際的な学問といっても、その基盤となっているもの(学問)があるはずで、それは何?」となる。結果的に佐藤さんの休学は正解だったが、Interdisciplinaryのような漠然としていて実態がつかみにくい言葉は、ややもすると人を理解した気持ちにさせ、さらなる思考を停止させるゆえ要注意だ。私たちは往々にして、質問に対する答えに窮した時には、難しい(少しかっこいい)言葉で切り抜けようとするが、これはNGなのだ。
印象記のつづきは以下のPDFよりご覧ください。