生命理工学系 News
平成29年度第3回(通算第64回)蔵前ゼミ印象記
2017年6月23日、すずかけ台キャンパスJ221講義室にて、平成29年度第3回蔵前ゼミ(通算第64回)が開催されました。
蔵前ゼミは「企業社会論」(400番台科目)の一部として開催される同窓生による講義です。
日本社会や経済をリードしている先輩が、これから社会に出る大学院生に熱いメッセージを送ります。
卒業後の進路は?実社会が期待する技術者像は?卒業後成功する技術者・研究者とは?など、就職活動(就活)とその後の人生の糧になります。
当日の印象記を、博物館の広瀬茂久特命教授が綴りました。その一部をご紹介します。
博士課程への進学を決め、修士論文用の実験を日々進めていた時に、受け入れ先の教員から衝撃的な連絡が入った。体調不良で研究の継続が難しく、武田さんを受け入れることができなくなったというのだ。その先生の体調は回復することなく55歳の若さで亡くなった。行き先を失った武田さんは、就職担当教員を訪ね相談した。そこで紹介されたのが診断薬機器事業を主力とするダイナボット(アボットジャパンの前身)だった。就活をしていなかったこともあって、武田さんにとっては全く知らない会社だったが、ほかに選択肢はないので、目の前の道を進むことにした。このように自分の意思とは別のところで決まった進路だったが、結果的には充実した企業人人生を送ることができたそうだ。退職後は悠々自適の生活を望む人が多い中、武田さんは業界への恩返しのために新しい事業を立ち上げている最中だ。外資系企業で育った人が「恩返し」を考えるというのは、少し意外な気がしたが、職場環境の良さを思わせるエピソードだった。外資系企業といえば、「ドライで合理的で成果主義ゆえに個人主義が徹底している」というイメージが強いが、そういう偏った先入観が薄れ、興味を持った人も多いだろう。
外資系は自由度が高いといっても、予算には限りがあるので、何でも好きにやらせてくれるわけではない。いくら自分で優れたプロジェクトだと思っても、上司(米国本社のCorporate Vice President)を説得し、お金を付けてもらわないことには日の目を見ないのはどこも同じだ。実力があってもそれを発揮する機会に恵まれなければ、生き残ることは難しい。武田さんたちが10年近くかけて開発したエイズ診断薬は利便性において従来製品をはるかにしのぐ。それゆえに今でも世界市場を制覇しているが、開発の途中ではしばしば壁に突きあたった。そのたびに上層部を説得してきたが、危機一髪という場面もあった。その時は、クリスマスの夜に上司の家に電話をかけ、奥さんに頼んで、年明けに米国の本社に説明に行くアレンジをした。「ここまで本気なら、もう少しやらせてみよう」となり、世に出た製品も多かった。電気がなく高温多湿の発展途上国でも簡単に使えるエイズ診断キットが世に出ることになったのも、このような努力があったからだ。
印象記のつづきは以下のPDFよりご覧ください。