【研究室紹介】 平沢研究室
微生物細胞を用いたものづくりのための代謝工学
生命理工学系にはライフサイエンスとテクノロジーに関連した様々な研究室があり、基礎科学と工学分野の研究のみならず、医学や薬学、農学等、幅広い分野で最先端の研究が活発に展開されています。
研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、微生物を宿主とした有用物質生産のための代謝工学に関する研究に取り組む、平沢研究室です。
生命理工学コース
准教授 平沢敬
キーワード |
応用微生物学、代謝工学、微生物細胞工場、ものづくり |
Webサイト |
平沢研究室
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研究紹介
私たちは、微生物細胞を用いたものづくり(有用物質生産)を行うための基盤となる技術を構築したいと考えています。微生物細胞は増殖の速さや代謝活性の高さから、ものづくりのための宿主として有用であると言えます。化学的に作られていた有用物質を微生物細胞に作らせることで、循環型社会の形成の一助となると期待されます。 私たちの研究室では、主に大腸菌やアミノ酸生産菌として知られるコリネ型細菌、アルコール発酵などに利用される出芽酵母を対象に、微生物による有用物質生産や、ものづくりに用いる炭素源の拡張、分子生物学や分子遺伝学による有用物質生産メカニズムの解明、有用物質生産プロセス技術の開発に取り組んでいます。
1. 有用物質生産を目指した代謝工学・微生物育種
微生物細胞によるものづくりのためには、目的となる物質を生産するような微生物細胞を育種する必要があります。これまでは変異による育種が主流でしたが、解析技術の発展によりゲノムワイドな解析(オミクス解析)を行うことが可能になってきており、そのような解析データを活用した合理的な育種技術の開発が求められています。また、コンピュータを用いた代謝シミュレーションを活用することで、育種戦略を立てることも可能になっています。私たちは、ゲノムワイドな解析や合成生物学、代謝シミュレーション技術を利用した微生物育種と有用物質生産に取り組んでいます。
図1 有用物質生産を目指した代謝工学・微生物育種
2. 微生物によるものづくりメカニズムの解明
我が国において微生物細胞を用いたものづくりは、古くから行われてきました。中でもコリネ型細菌によるアミノ酸発酵は、我が国において開発された技術です。しかしながら、アミノ酸発酵のメカニズムは未だわからないことが多いのが現状です。私たちは、このコリネ型細菌によるグルタミン酸発酵のメカニズムの解明を進めています。このような産業上有用な微生物によるものづくりのメカニズムを解明することで、そのメカニズムを他の微生物細胞を用いたものづくりに応用し、新たなものづくりを展開したいと考えています。
図2 Corynebacterium glutamicumのグルタミン酸生産の分子機構
3. 微生物の細胞増殖・代謝を制御する化合物の探索とものづくりへの応用
微生物を用いた有用物質生産において、細胞の増殖が停止する定常期で目的物質を生産させる手法は、投入した炭素源や窒素源などの資源を効率よく目的物質生産に利用することができる技術として注目を浴びています。私たちは、細胞増殖を人為的に制御して任意のタイミングで定常期へと導き、かつ細胞の代謝活性を維持させる技術の開発をめざし、培養液に添加するだけで微生物細胞を定常期へと導き、かつ増殖が停止しても目的物質生産のための糖代謝活性を維持させることを可能にする化合物を探索する実験系の構築を試みています。
研究成果
代表論文
- [1] Takashi Hirasawa, Hiroshi Shimizu (2016) Recent advances in amino acid production by microbial cells. Current Opinion in Biotechnology 42:133-146.
- [2] Yoshohiro Toya, Takashi Hirasawa, Shu Ishikawa, Onuma Chumsakul, Takuya Morimoto, Shenghao Liu, Kenta Masuda, Yasushi Kageyama, Katsuya Ozaki, Naotake Ogasawara, Hiroshi Shimizu (2015) Enhanced dipicolinic acid production during the stationary phase in Bacillus subtilis by blocking acetoin synthesis. Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry 79:2073-2080.
- [3] Yuto Yamauchi, Takashi Hirasawa, Masato Nishii, Chikara Furusawa, Hiroshi Shimizu (2014) Enhanced acetic acid and succinic acid production under microaerobic conditions by Corynebacterium glutamicum harboring Escherichia coli transhydrogenase gene pntAB. Journal of General and Applied Microbiology 60:112-118.
- [4] Kento Tokuyama, Satoshi Ohno, Katsunori Yoshikawa, Takashi Hirasawa, Shotaro Tanaka, Chikara Furusawa, Hiroshi Shimizu (2014) Increased 3-hydroxypropionic acid production from glycerol, by modification of central metabolism in Escherichia coli. Microbial Cell Factories 13:64
- [5] Yuma Ito, Takashi Hirasawa, Hiroshi Shimizu (2014) Metabolic engineering of Saccharomyces cerevisiae for improving succinic acid production based on metabolic profiling. Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry 78:151-159.
- [6] Yuki Usui, Takashi Hirasawa, Chikara Furusawa, Tomokazu Shirai, Natsuko Yamamoto, Hirotada Mori, Hiroshi Shimizu (2012) Investigating the effects of perturbations to pgi and eno gene expression on central carbon metabolism in Escherichia coli using 13C metabolic flux analysis. Microbial Cell Factories 11:87.
- [7] Jongpill Kim, Hirohisa Fukuda, Takashi Hirasawa, Keisuke Nagahisa, Kazuo Nagai, Masaaki Wachi, Hiroshi Shimizu (2010) Requirement of de novo synthesis of the OdhI protein in penicillin-induced glutamate production by Corynebacterium glutamicum. Applied Microbiology and Biotechnology 86:911-920.
- [8] Nobuyoshi Ishii#, Kenji Nakahigashi#, Tomoya Baba#, Martin Robert#, Tomoyoshi Soga#, Akio Kanai#, Takashi Hirasawa#, Miki Naba, Kenta Hirai, Aminul Hoque, Pei Yee Ho, Yuji Kakazu, Kaori Sugawara, Saori Igarashi, Satoshi Harada, Takeshi Masuda, Naoyuki Sugiyama, Takashi Togashi, Miki Hasegawa, Yuki Takai, Katsuyuki Yugi, Kazuharu Arakawa, Nayuta Iwata, Yoshihiro Toya, Yoichi Nakayama, Takaaki Nishioka, Kazuyuki Shimizu, Hirotada Mori, Masaru Tomita (2007) Multiple high throughput analyses monitor the response of E. coli to perturbations. Science 316:593-597. (#Equally contributed)
- [9] Takashi Hirasawa, Katsunori Yoshikawa, Yuki Nakakura, Keisuke Nagahisa, Chikara Furusawa, Yoshio Katakura, Hiroshi Shimizu, Suteaki Shioya (2007) Identification of target genes for conferring ethanol stress-tolerance to yeast Saccharomyces cerevisiae based on DNA microarray data analysis. Journal of Biotechnology 131:33-44.
- [10] Takashi Hirasawa, Masaaki Wachi, Kazuo Nagai (2000) A mutation in the Corynebacterium glutamicum ltsA gene causes susceptibility to lysozyme, temperature-sensitive growth, and L-glutamate production. Journal of Bacteriology 182:2696-2701.
著書
- [1] Takashi Hirasawa, Masaaki Wachi (2016) Glutamate fermentation-2: Mechanism of L-glutamate overproduction in Corynebacterium glutamicum. In Advances in Biochemical Engineering/Biotechnology. (in press)
- [2] Takashi Hirasawa, Hiroshi Shimizu (2016) Glutamic acid fermentation: Discovery of glutamic acid-producing microorganisms, analysis of the production mechanism, metabolic engineering, and industrial production process. In Industrial Biotechnology: Products and Processes. Christoph Wittmann and James C. Liao (eds), Wiley. pp. 339-360.
- [3] Takashi Hirasawa, Hiroshi Shimizu (2014) Glutamic acid. In Bioprocessing of renewable resources to commodity bioproducts. Virendra S. Bisaria and Akihiko Kondo (eds), Wiley. pp. 473-496.
- [4] Takashi Hirasawa, Jongpill Kim, Tomokazu Shirai, Chikara Furusawa, Hiroshi Shimizu (2012) Molecular mechanisms and metabolic engineering of glutamate overproduction in Corynebacterium glutamicum. In Subcellular Biochemistry, Volume 64, Reprogramming Microbial Metabolic Pathways. Xiaoyuan Wang, Jian Chen and Peter J. Quinn (eds), Springer. pp. 261-281.
- [5] 平沢敬(2008)ベーシックマスター生化学「第9章 クエン酸回路と電子伝達系」大山隆監修 西川一八・清水光弘共編 オーム社
- [6] Hiroshi Shimizu, Takashi Hirasawa. (2007) Production of glutamate and glutamate-related amino acids: Molecular mechanism analysis and metabolic engineering. In Microbiology Monograph. Volume 5. Amino acid biosynthesis-pathways, regulation and metabolic engineering. Volker F. Wendisch (ed), Springer. pp 1-38.
教員紹介
平沢敬 准教授 博士(工学)
1997年3月 |
東京理科大学 理工学部 応用生物科学科 卒業 |
2002年3月 |
東京工業大学 大学院生命理工学研究科 バイオテクノロジー専攻 博士後期課程修了
博士(工学)取得 |
2002年4月 - 2005年4月 |
大阪大学 大学院工学研究科 博士研究員 |
2005年5月 - 2007年3月 |
慶應義塾大学 先端生命科学研究所 特別研究助手 |
2007年4月 - 2013年8月 |
大阪大学 大学院情報科学研究科 バイオ情報工学専攻 助教 |
2013年9月 - 2016年3月 |
東京工業大学 大学院生命理工学研究科 生物プロセス専攻 准教授 |
2013年12月 - 2016年3月 |
大阪大学 大学院情報科学研究科 バイオ情報工学専攻 招へい准教授 |
2016年4月より |
現職 |
2002年3月 |
第8回鎌田泉博士論文賞 |
2011年9月 |
日本生物工学会第19回生物工学論文賞 |
- 教育活動
- 学部:微生物学、生物化学工学、生命理工学基礎実験第三
大学院:生物代謝科学
- 所属学会
- 日本農芸化学会、日本生物工学会、日本ゲノム微生物学会、日本分子生物学会、化学工学会
教員からのメッセージ
- 平沢准教授より
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微生物はこれまで醸造や発酵食品製造の分野で広く用いられていますが、その生産にはまだまだ解き明かされていない謎が多く存在しています。
私は、そのような謎を解き明かし、解き明かした結果を応用することができれば、新たな微生物細胞によるものづくりが展開できると考えています。
研究においていちばん大切なことは、研究を楽しむことです。
生物の持つ潜在能力を解き明かしそれを応用する研究を通して、ともに生命科学の研究を楽しみましょう。
※この内容は掲載日時点の情報です。最新の研究内容については研究室サイトをご覧ください。