生命理工学系 News
大学レベルの講義内容に高校生がグループあるいは個人で立ち向かい、「未知の分野への挑戦から何かをつかみ、何かを生みだす」ユニークな夏の合宿「サマーチャレンジ2016」が開催され、2004年以来13回目の開催となりました。しっかりとした基礎学力の上に培った発想力・独創性・グループワーク力こそが、未来の科学技術を担う人材の必要条件と考え、高校生のうちからそうした力を身につけてほしいと意図して実施しています。
今年は初めての屋外スケッチ体験、自由研究チャレンジなど新機軸もあり、運営面では合宿途中でのグループメンバーの交代といった新しい試みも行われました。参加校12校、参加生徒数64名、うち女子生徒数は31名と、ついにほぼ半数となりました。64名の高校生の真剣なまなざしの先に、あっと驚く創意工夫にあふれた科学の冒険のかずかずが広がり、たくさんの知的冒険と出会いの花が咲いた嵐山の森の3日間でした。
生命理工学系からは、山田拓司准教授(生命理工学コース主担当)が講師として参加しました。
事前に各自が執筆してきた短い文章を、匿名の状態でディスカッションして評価しあうという、東工大の名物講義をそのまま持ち込んで、初対面のメンバー同士のアイスブレイクとしました。
今年のお題は「青」。空を見上げたり青春を謳歌したりと個性を競うなか、意表を衝いたスポーツドリンクネタが一等賞でした。自分たちが書いた文章を議論することで、メンバー同士の親しみも湧き、個性を認めあってのテイク・オフをどの班も達成できたようです。
「外に出て日本庭園周辺でスケッチしてきてね、20分後に再集合」
いきなりのムチャ振りから始まります。お題は「大切な人に見せたい情景」。虫除けスプレーを噴射して、てんでに緑まぶしい戸外へ行き、大急ぎでスケッチして戻ってくると、ムチャ振りその2が待っていました。
「その情景を室内から見られる部屋を設計してください。制限時間10分」
大騒ぎしながらも、そこは高校生ならではの柔軟性を発揮します。外の道がそのまま室内に入ってくる奇抜な設計だったり、大切な人は将来生まれてくる自分の子どもだから低い視線で見られる窓にしましたというほのぼのした発想だったり、ユニークなアイディア続出の作品発表会となりました。
誰のための建築であるかということから起案する重要性をしっかり体得したチャレンジでした。
初日の夜から翌日午前へとつながる長丁場のチャレンジです。今年のグッズは何かなと、わくわくしながら会場入りした高校生たちを出迎えたのは、なんとおそうじグッズのラインナップでした。スポンジ、クロス、そしてスプレー。
身近なモノを分解し、その材質や機構がどうやって機能に結びつくのかを考える毎年恒例のチャレンジ「身近なグッズを分解してみよう」、通称「分解チャレンジ」が今年は変身して、便利な日用品の「なぜ?」を考える自由研究へと進化しました。みるみる汚れの落ちるスポンジ2種類、ぐんぐん水を吸い取るクロス3種類、独自の視点で各製品の違いを解明します。
各班、様々なアイディアを出しあって、吸水力をチェックしたり、繊維の構造をマイクロスコープで覗き込んでまとめたり、成果を余すことなく翌日のチャレンジで発表しました。
初めて聞く「コンビナトリアル・ケミストリー」とは、無限にある組み合わせへの挑戦ともいえる、コンピュータを駆使して、大量にある材料を一挙に合成し、すばやく評価しようという最先端テクノロジーです。分子を自由に組み合わせて、地球上にまだ存在しない新しい物質をつくりだすということに期待が膨らみます。
そして、この並列合成と高速評価という発想法を、身近な何かの解明に応用してみるという課題が出されました。
各班でアイディアを出し合って勝負したところ、「味覚」と「芸術」に答えが集中しました。数値化・定量化できないものを何とかつかまえようとする新しい手法ですが、身近なものを解明してみることから、とても難しい研究・技術に触れることができた気がします。
課題が発表された瞬間に、ロケットが打ち上がった時のような興奮に室内が沸きました。
各班に「ちゃれんじ銀行札」で150億円ずつ配布され、重力波検出器を設計することになりました。つくる場所を地上にするか地下にするか、地下にしてトンネルを掘ると費用も時間もかかりますが、より大きなブラックホールを見ることができます。また、鏡の材質は石英ガラス、サファイア、シリコンなど色々な素材が考えられます。レーザーの熱に強いのはサファイアですが、シリコンだと大きいから揺れないという利点があります。各班内で、鏡チーフ、防振チーフにシステムエンジニアと役割を分担して費用を計算して、最適の組み合わせの発見を競います。
大規模な科学プロジェクトを成功させるための、いわば大人のお買い物ゲームですが、ブラックホール連星を見るために、遠い宇宙のかなたへ人類の叡智のアンテナを伸ばすがごとき壮大な夢にあふれた真夏の夜の冒険ともいえるチャレンジでした。
細菌は、いたるところに生息し、その量たるや、地球全体のバイオマスの半分に達すると推測されるくらいですが、なんと99パーセントの細菌は培養できないので、どんな振る舞いをするか分からないのです。そうした未知の細菌世界について、土をまるごとDNA抽出して遺伝子配列を得たあと、コンピュータにかけて、どんな細菌がどれくらい生息するかを推計するバイオインフォマティクス(生命情報学)という革命的な突破口があらわれました。そこで、ニューヨークの地下鉄全駅の細胞分布をみて、ここからどんな情報が得られるかを考えてみました。
最先端のバイオ探究へいざないつつ、データの海に溺れずに、つねに「なにがしたいの?」「それは、していいことなの?」と研究目的と倫理観を意識し続ける重要さを学びました。
参加いただいた高校教員は15名。全員から評価シートを通して、たくさんの有益な御意見をいただくことができました。一部をご紹介します。
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