【研究室紹介】 駒田研究室
新たな細胞がん化のメカニズムに迫る
生命理工学系にはライフサイエンスとテクノロジーに関連した様々な研究室があり、基礎科学と工学分野の研究のみならず、医学や薬学、農学等、幅広い分野で最先端の研究が活発に展開されています。
研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、新たな細胞がん化のメカニズムに迫る、駒田研究室です。
生命理工学コース
教授 駒田雅之
(科学技術創成研究院 細胞制御工学研究ユニット 所属)
研究紹介
ヒトの体は約60兆個の細胞から構成されており、私たちの日々の活動は、つきつめると個々の細胞の活動であるといえます。多くの病気は細胞機能の破錠が原因となって生じるため、正常な細胞機能の理解は、疾患の発症機序の解明や治療薬の開発を行う上で不可欠です。
タンパク質のユビキチン化はそのような細胞機能の重要な制御機構であり、ユビキチンという小さなタンパク質が様々な細胞内タンパク質に共有結合することが目印となり、それらタンパク質の働きを実に様々に調節しています(ユビキチンの働きの発見に2004年ノーベル化学賞が授与されています)。
その中で私たちは、ユビキチン化による増殖因子受容体の分解と細胞増殖の制御機構を、ヒト培養細胞や遺伝子改変マウスなどを材料に研究しています。最近、1つの大きな成果として、私たちが長年研究してきた脱ユビキチン化酵素の遺伝子変異が脳下垂体の腫瘍を生じさせ、Cushing病という難病をひき起こすことを発見しました。これまでCushing病の有効な治療薬はなく、この発見は難病治療への道を切り開いたものです。駒田研究室では、将来的にCushing病の治療法の開発につなげるべく、土台となる細胞生物学のレベルでその発症の分子メカニズムを研究しています。
研究成果
代表論文
- [1] Yanagawa T, Denda K, Inatani T, Fukushima T, Tanaka T, Kumaki N, Inagaki Y & Komada M: Deficiency of X-linked protein kinase Nrk during pregnancy triggers breast tumor in mice. Am. J. Pathol. 186, 2751-2760 (2016) Yahoo!ニュース、朝日新聞で報道
- [2] Burana D, Yoshihara H, Tanno H, Yamamoto A, Saeki Y, Tanaka K & Komada M: Ankrd13 family of ubiquitin-interacting motif-bearing proteins regulates VCP/p97-mediated lysosomal traffic of caveolin-1. J. Biol. Chem. 291, 6218-6231 (2016)
- [3] Reincke M, Sbiera S, Hayakawa A, Theodoropoulou M, Osswald A, Beuschlein F, Meitinger T, Mizuno-Yamasaki E, Kawaguchi K, Saeki Y, Tanaka K, Wieland T, Graf E, Saeger W, Ronchi CL, Allolio B, Buchfelder M, Strom TM, Fassnacht M & Komada M: Mutations in the deubiquitinase gene USP8 cause Cushing's disease. Nat. Genet. (Article) 47, 31-38 (2015) Yahoo!ニュース、毎日新聞など報道多数
- [4] Sun XX, He X, Yin L, Komada M, Sears RC & Dai MS: The nucleolar ubiquitin-specific protease USP36 deubiquitinates and stabilizes c-Myc. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 112, 3734-3739 (2015)
- [5] *Theodoropoulou M, Reincke M, Fassnacht M & *Komada M (*co-correspondence): Decoding the genetic basis of Cushing's disease: USP8 in the spotlight. Eur. J. Endorinol. 173, M73-M83 (2015)
- [6] Tanno H, Shigematsu T, Nishikawa S, Hayakawa A, Denda K, Tanaka T & Komada M: Ubiquitin-interacting motifs confer full catalytic activity, but not ubiquitin chain substrate specificity, to deubiquitinating enzyme USP37. J. Biol. Chem. 289, 2415-2423 (2014)
- [7] Tanno H, Yamaguchi T, Goto E, Ishido S & Komada M: The Ankrd 13 family of UIM-bearing proteins regulates EGF receptor endocytosis from the plasma membrane. Mol. Biol. Cell 23, 1343-1353 (2012)
- [8] Hanafusa H, Ishikawa K, Kedashiro S, Saigo T, Iemura S, Natsume T, Komada M, Shibuya H, Nara A & Matsumoto K: Leucine-rich repeat kinase LRRK1 regulates endosomal trafficking of the EGF receptor. Nat. Commun. 2, 158 (2011)
- [9] Mukai A, Yamamoto-Hino M, Awano W, Watanabe W, *Komada M & *Goto, S (*co-correspondence): Balanced ubiquitylation and deubiquitylation of Frizzled regulate cellular responsiveness to Wg/Wnt. EMBO J. 29, 2114-2125 (2010) 日経産業新聞で報道
- [10] Sato Y, Yoshikawa A, Yamagata A, Mimura H, Yamashita M, Ookata K, Nureki O, Iwai K, Komada M & Fukai S: Structural basis for selective cleavage of Lys63-linked polyubiquitin chains. Nature (Article) 455, 358-362 (2008)
主な日本語総説
- [1] 川口 紘平, 駒田 雅之: 脱ユビキチン化酵素によるエンドサイトーシス制御と遺伝子疾患. 医学のあゆみ 256, 15881-15887 (2016)
- [2] 川口 紘平, 駒田 雅之: クッシング病の原因遺伝子と発症機構. Annual Review 糖尿病・代謝・内分泌 2016 180-186 (2016)
- [3] 駒田 雅之: 脱ユビキチン化酵素USP8変異とCushing病. クッシング症候群診療マニュアル 改訂2版 259-260 (2015)
- [4] 川口 紘平, 駒田 雅之: 難病 “クッシング病” 発症の分子メカニズム. バイオサイエンスとインダストリー 73, 300-301 (2015)
- [5] 川口 紘平, 駒田 雅之: 見えてきたユビキチンを介する核小体の多彩な機能. ファルマシア 51, 300-304 (2015)
- [6] Daocharad Burana, 後藤 聡, 駒田 雅之: ユビキチン化によるFrizzledのリソソーム分解を介したWntシグナル強度の制御. 細胞工学 32, 396-400 (2013)
- [7] 駒田 雅之: ユビキチン化による核小体の構造と機能の制御. 生体の科学 62, 422-423 (2011)
- [8] 駒田 雅之, 後藤 聡: 受容体のユビキチン化と脱ユビキチン化を介した細胞のWnt応答性の制御. 細胞工学 29, 1237-1243 (2010)
- [9] 駒田 雅之, 遠藤 彬則: 脱ユビキチン化酵素群の細胞機能. 生化学 82, 378-387 (2010)
- [10] 駒田 雅之, 向井 明子: ユビキチン修飾系による細胞質分裂の制御. 蛋白質核酸酵素 54, 11-19 (2009)
主な著書
- [1] 「バイオ研究のフロンティア3 - 医療・診断をめざす先端バイオテクノロジー」題目:増殖因子受容体の分解制御と制癌 関根光雄 編 工学図書 2009年
- [2] 「トコトンやさしいタンパク質の本」題目:輸送タンパク質は体内の宅配便 東京工業大学大学院生命理工学研究科 編 日刊工業新聞社 2007年
教員紹介
駒田雅之 教授(薬学博士)
1990年 |
東京大学 大学院 薬学系研究科 修士課程修了 |
1994年 |
薬学博士(論文博士、東京大学) |
1990 - 1996年 |
関西医科大学 肝臓研究所 助手 |
1996 - 2000年 |
フレッド・ハッチンソンがん研究センター(米国シアトル) 博士研究員 |
2000 - 2001年 |
東京工業大学 大学院生命理工学研究科 助手 |
2001 - 2007年 |
同助教授 |
2007 - 2014年 |
同准教授 |
2014 - 2016年 |
同教授 |
2016年より |
東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究ユニット 教授 |
- 教育活動
学部:生命科学基礎、生物化学第二、遺伝学
大学院:分子生理学
- 所属学会
- アメリカ細胞生物学会、日本生化学会、日本分子生物学会、日本細胞生物学会、日本薬学会
教員からのメッセージ
- 駒田教授より
-
私たちの行っている基礎研究は、その成果がすぐに社会の役に立つというタイプの研究ではありません。しかし長期的な視野で見ると、地道な基礎研究をおろそかにして応用研究の発展はあり得ません。私たちは、"すべての応用研究は基礎研究の上に成り立っているんだ"という強い自負をもって、日々研究に取り組んでいます。
最近、私たちが研究してきたタンパク質の遺伝子変異がCushing病という難病をひき起すことを発見することができ、基礎研究の重要性を少しは実証することができたのではないかと思っています。今後、この成果をCushing病で苦しむ人々に還元できるような基礎研究を展開していきたいと考えています。そして、その達成感をぜひ若い学生たちと共有できればと願っています。
※この内容は掲載日時点の情報です。最新の研究内容については研究室サイトをご覧ください。