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東工大チームが模擬人工衛星打ち上げ実験 総合3位、ミッション賞、プロフェッショナル部門賞を受賞
2020年12月12日~13日にかけて静岡県富士宮市で行われた超小型模擬人工衛星の打ち上げ実証実験「あさぎりCanSat投下試験」に東京工業大学のチームが参加し、総合順位3位、ミッションの達成度や新規性などを評価するミッション賞、各大学の先生の投票によって決まるプロフェッショナル賞を受賞しました。
「CanSat(カンサット、以下CanSat)」とは、350グラム缶サイズまたは1050グラム缶サイズの超小型模擬人工衛星のことを指します。「あさぎりCanSat投下試験(以下ACTS)」とは大学宇宙工学コンソーシアム(University Space Engineering Consortium、以下UNISEC)が主催するCanSat打ち上げ実証実験のことであり、日本全国の大学生が設計・製作したCanSatを気球に搭載して上空約50mから放出し、チーム毎にさまざまなミッションに対する成果を競います。本年度は例年9月に米国ネバダ州で行われるUNISEC主催の国際的なCanSat打ち上げ実証実験(ARLISS)が中止となり、その代替イベントとしてACTSが企画されました。大会には国内の全7チームが参加しました。
学部・大学院生8名によるチーム「SOLVIT(ソルビット)」が授業「宇宙工学実践プロジェクト」「宇宙システムプロジェクト」で学修したことをベースにCanSatを設計・製作しました。講義では、毎週の進捗報告会や審査会を行い、実際の衛星開発と同じ流れで進めていきます。ミッションの決定からCanSat設計・製作までを学生が主体となり行うことで、人工衛星の開発過程を約半年で学ぶことができます。本年度の講義は5月初旬から10月中旬まで行われ、その後ACTSが開催される12月中旬までの2か月は授業の範囲を超え、学生が自主的に開発を行いました。
本チームでは月面の極域探査に用いる電力供給機構を想定して「シート状太陽光発電電池の鉛直方向展開技術と太陽方向を向く技術の実証」をCanSatミッションに設定しました。打ち上げ時はシート状の太陽光発電電池、(以下太陽光発電シート)をロール状に巻いて収納しておき、着陸後に太陽光発電シートを鉛直に展開します。また、太陽光が入射する方角を検知して、発電電力が最大となる方角を向いた状態で停止することで長時間発電を可能にする手法を提案しました。
製作したCanSatの外観を以下に示します。気球からCanSatが投下され着陸後、太陽光発電シートを衝撃から守る外装カバーを展開します。その後太陽光発電シートが水平から鉛直向きに伸展します。搭載した太陽光発電シートの寸法は高さ1m、横幅20cmです。太陽光発電シートの左右にはコンベックスブームが取り付けられており、発電面を水平から鉛直方向へ向いた状態を維持します。太陽光シートの伸展後、太陽光が入射する方角へ太陽光シートの発電面を回転させることにより、発電効率が高い姿勢を維持できます。
CanSat開発に当たっては、限られた質量・容積の中でミッションを実現する機体を製作することに苦労しました。太陽光シート自体で容積の半分以上を占めており、それに加えて発電面を回転する機構、着陸した後機体の姿勢を保つ機構など、さまざまなコンポーネントを適切に配置する必要がありました。その際CanSatミッションで本当に実証したいことは何なのかを意識して、その機能を実現するシンプルな機体となるように設計を行いました。本番1回目では太陽光シートセル1枚分を伸展した状態で発電面が太陽入射方向に向き、その後搭載した長さ1m伸展に成功したことで、フルサクセスを達成しました。
・代表 小池
本年度はコロナ禍における活動自粛によりリモート環境でのCanSat開発活動が長期間続き、その中でプロジェクト管理の大切さを痛感しました。直接会う機会がないとメンバーの進捗状況を把握できず、スケジュール通りに上手くいかないこともありました。そこでコミュニケーションツールを積極的に活用してメンバー間で頻繁に意思疎通を行うことを意識しました。例年とは異なる形の開発となりましたが、それでも大会でフルサクセスまで達成できたのは講義を担当する松永先生、中西先生、中条先生やティーチング アシスタント(TA)の小林寛之さんをはじめとするプロジェクト関係者の皆さん、フィルム型太陽電池セルを提供してくださったF-WAVE株式会社 高野様など多くの方々にサポートして頂いたおかげだと思っています。人工衛星開発の一連の開発フローを、より困難な状況の中行ったことが私たちの今後の活動に生かせる良い経験となりました。
・齋藤
コロナウイルスの影響で活動が制限される中での開発となり苦労もありましたが、プロマネを中心としてチームワーク良く開発に取り組むことができました。その結果、本大会では良い成績を収めることが出来とても良い経験になりました。
・佐川
ミッションの構想を決める段階からチーム内でたくさん議論したことから、実機を作成し投下試験を行った際の達成感は一入でした。また、今まで持っていなかった知識を付けながらの製作になったので、とても勉強になって良かったです。
・橋本
CanSatはミッション構想からチームで行うため、自分たちが強く意義を感じているモノをメンバーと協力して作り上げる経験ができました。また、開発は普段行っている座学の有用性や重要性を実感でき、非常に貴重な体験だと感じました。
・森谷
知見がない中で、パラシュートを開傘し、所望の落下速度にするよう何度も試験をし、大会当日うまくパラシュートが開いたときの感動は一際でした。その後も機体に損傷がなく、無事ミッションを継続できたことは非常に嬉しく思います。
・高橋
宇宙での実ミッションを想定したミッション決め、要求設定、設計、製作、試験、打ち上げという開発プロジェクトの一連の流れを学ぶことができました。コロナ禍により「密」での開発が許されない状況で、はじめは戸惑う部分もありました。しかし、普段よりチームでのコミュニケーションを「密」にとることで納得のいくものを作り上げることができました。
・小林
メンバーで話し合い決めたミッションを実現することができ、非常に嬉しかったです。チームで開発する楽しさを知ることが出来ました。
・中嶋
コロナの影響で、一時は実機を製作できない可能性もありましたが、授業担当の先生方や大会運営を行っている他大学の学生さんのおかげで、最終的にCanSat投下試験を行うことができ、非常に感謝しています。また、学部生の自分にとっては、大学院生の先輩方と同じチームで活動できたことも貴重な経験でした。
授業「宇宙工学実践プロジェクト」「宇宙システムプロジェクト」はそれぞれ機械コース、機械系の授業です。授業の中では工学院 機械系教員の松永 三郎教授、中西 洋喜准教授、中条 俊大助教の指導の下で人工衛星モデル(CanSat)を設計・製作し、気球投下試験を行います。厳しい制約条件、激烈な打ち上げ環境に耐え、ミニマムサクセスを必ず達成するためのシステム工学およびプロジェクトマネジメントの方法を習得することを目標としています。「宇宙工学実践プロジェクト」は修士課程学生向け、「宇宙システムプロジェクト」は学士課程学生向けとなり、それぞれ10人程度を定員としています。