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東京工業大学は浅野康一名誉教授からの寄附を受け、45歳未満の研究者に対し基礎研究の資金を支援する「あすなろ研究奨励金」を創設しました。第1回の支援対象者5名を決定し、7月6日、支援決定通知書授与式をオンラインで開催しました。
「あすなろ研究奨励金」は浅野名誉教授より「地道な基礎研究に対し、長く研究費を措置いただいたことで研究が花開いたことから、後進育成のため、基礎研究の支援に充ててほしい」と申し出があり、自身の研究成果の実用化により得た収益の一部を寄附いただいたことから、2020年度に創設されました。
浅野名誉教授は、多成分系の精密分離を研究し、極低温域を含む広い温度域に適用できる多成分系蒸留の理論体系を構築しました。また、癌検査に広く利用されているPET法の診断薬原料である「酸素18標識水」の製造プラントの開発に成功しました。
第1回目となる今回は、33名の応募があり、次の5名が採択されました。
支援決定通知書授与式では、益一哉学長より、今後の研究の発展に期待するとのあいさつの後、浅野名誉教授からは、長い研究の末に大きく花開くような目標に向かって着実に歩んで欲しい、との言葉がかけられました。その後、採択者より研究内容の説明が行われ、採択者と浅野名誉教授、益学長、渡辺治理事・副学長(研究担当)、桑田薫副学長(研究企画担当)を交えた懇談では、活発な意見交換がなされました。
2次元ナノシート内で発現する高速イオン導電現象の探求
固体でイオンを通すことのできるイオン伝導体は電池や化学センサなどさまざまな用途で使用される重要な材料です。このイオン伝導体のサイズをナノレベルまで小さくしたときに、通常の大きさのものと比べて高いイオン伝導特性が見られる場合があります(ナノイオニクス現象)。このナノ空間で発現する高速イオン伝導の空間的な条件とそのメカニズムはいまだ謎が多いのが現状です。
本研究では、酸素イオン伝導体であるジルコニア(ZrO2)の単結晶ナノシートを利用し、高速イオン導電特性を発現させるメカニズムの解明とそのナノイオニクス現象が発現する条件を明らかにします。2次元構造を持つナノシートを用いるメリットは、基板への成膜のしやすさとナノ電極の取り付けやすさにあります。ナノシートのサイズを変えることで、2次元に制約されたナノ空間条件とイオン伝導の関係を調べることが可能になると考えられます。
Graphene/III-V族半導体 ハイブリッド材料界面の制御
科学技術の発展により、電子と光を操ることが可能となったことで、パソコンやスマートフォン、LEDや太陽電池等の電子・光デバイスが開発され、高度な社会の実現に寄与しています。電子や光の制御は、特殊な機能を持つ「材料」の役割であるため、材料の研究開発は非常に重要なテーマです。従来の材料は、(縦×横×高さ)を持つ立体的な3次元物質でしたが、近年、(縦×横)だけで高さを持たない2次元物質(グラフェン等)が発見されました。2次元物質には魅力的な機能が予測されており、その活用を目指した研究が進んでいます。その一つが、3次元材料と2次元材料を貼り合わせて、両者のメリットを融合する試みです。このためには、貼り合わせ界面を極限まできれいにすることが望まれますが、まだ十分な方法論は確立されていません。本研究では、極めてきれいな環境である超高真空と、原子レベルの汚れまで見える顕微鏡を使い、この開発に取り組みます。
シロアリ腸内原生生物に共生するAlphaproteobacteriaの電子顕微鏡in situ hybridization(EM-ISH)法による局在解析とゲノム解析による共生進化機構の解明
ミトコンドリアの起源は真核細胞の祖先に共生したアルファプロテオバクテリアの一種であるように、共生は生物進化の原動力である。シロアリ腸内には、原生生物(単細胞の真核生物)とアルファプロテオバクテリアの共生もみられ、その研究により、真核細胞の祖先がミトコンドリアの祖先と共生関係を築いた初期と同様な現象を捉えられる可能性がある。本研究の目的は、シロアリ腸内原生生物に共生するアルファプロテオバクテリアの電子顕微鏡in situ hybridization法による詳細な共生様式とゲノム解析による共生進化機構の解明である。金コロイドを結合させた特異的プローブをハイブリダイズし電子顕微鏡観察により、アルファプロテオバクテリアの微細構造を観察し詳細な共生様式を明らかにする。また、顕微操作で目的の細胞を回収し、全ゲノム増幅後、アルファプロテオバクテリアのゲノム解析により共生進化機構を明らかとする。
分散相による欠陥極小化NiMnGa合金粒子/ポリマー複合材料の変形特性の向上
【欠陥を極小化した強磁性形状記憶合金単結晶粒子の創製とその応用】
強磁性形状記憶合金(Ferromagnetic Shape Memory Alloy; FSMA)は磁場により、形状変形や磁性体の内部自由度等を制御できるため、ロボット用の高速アクチュエータ材、磁気冷却材として注目されている。NiMnGa合金は有望な強磁性形状記憶合金であるが、高脆性で実用できないという課題があった。本研究では、意図的に分散相(S、Bi元素等)をNiMnGa合金に導入し、より高脆性の合金を作製したうえで、さらに高温によって分散相を液体化させ、機械的に合金材料を粉砕する。本技術では、従来材の高欠陥や単結晶化の困難等の問題点を解決できる。また、その単結晶NiMnGa粒子を使用した複合材料を創製し、効率的で環境に優しい未来の高速アクチュエータ材、冷凍技術の実現に向けて研究に取り組んでいる。
分子ローター集合体が生み出すトポロジカル構造とその外場応答
近年、物性物理学の分野ではトポロジーに関する研究が盛んに行われているが、この概念が初めて導入されたのは2次元系における渦構造であった。この渦は超伝導、超流動薄膜などで発見されてきたが、電気双極子モーメントを構成要素とした電気的な渦構造は未だ見出されておらず、そもそもそれを実現するような物質の実現が困難であった。しかし近年、三脚型分子を足場として、その上部で電気双極子モーメントが回転する分子ローターが開発された。この分子は三脚型分子が入子状に2次元的に配列することにより2次元分子ローター系を実現するが、これはまさに初めて渦が考えられられた系と同じ構造をなしている。そこで本研究では分子ローター集合体を対象に初の電気的2次元渦構造の観測を試みる。また、渦が電気的なものであるために、電場による直接制御も期待され、これらの実現はトポロジーの分野に新たな知見を与える。